かつて、私が人を愛した時の話をしよう。
人を愛する事くらい、我々にとっては珍しくないことだ。
恋は良いもので、短い時を共に過ごしても鮮明に思い出せる。
何百年と経った今でも共に過ごした人の体温、香り、声すらも憶えている。
しかし、顔はもう忘れてしまった。
唯、あの人の背中や仕草は朧げながら憶えている。
時とは非情なもので確実に少しずつ、あの人の忘れていってしまう。
あの人のことを、もう思い出せなくなる日が訪れるのやもしれない。
それだけは、永遠に近い月日を生きている欠点だろう。
だから、私はもう人を愛せない。
あの人と共に過ごした、愛しい日々を忘れてしまいそうだから。
『過去に執着など、人のようだな。』
そう同胞に嘲笑われる、しかし、私は彼らより幾分繊細なので仕方ない。
『死すれば、次に愛する者を見つければ良い。』
そう同胞に励まされる、しかし、もうあの人は居ないのだ。
それを私は、受け入れられない。
僅か数十年、本当に短い月日だった。
あの人と、もっと過ごしたかった。
それを数百年、引きづっている。
やはり、私は思うのだ。
この感覚を大切に紡ぎたいと、そう願っているのだ。
私は繊細だが、時など永遠に等しい月日あるのだから、
滑稽にも思える、この思いを大切にするよ。
愛する者が現れる、その日まで。
4/16/2025, 1:26:50 AM