kiliu yoa

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11/26/2024, 11:20:23 PM

体調が悪い。

頭が働かない、自分のことで手一杯で何もかもが癪に障る。

やばい、めまいがしてきた。

意識が遠のく。

汗は滲む。

身体は重く、辛うじて動くがとても遅い。

やるべきことは、たくさんある。

なのに、出来ない。

悔しい、やっとだ。

やっと、5年ぶりに薬要らずで体調が安定してきたのに。

多くの努力が実を結んでいたのに。

気候が少し、体調が少し、崩れただけで何も出来ない。

薬を飲んだが、少し飲むタイミングが遅かった。

ただ、それだけ。

それだけのはずなのに、全然効かない。

分かりやすく、発熱してくれたら良いのに。

こんなに自分が理解できず、

こんなに自分が許せないとは考えられなかった。

予想してなかった。

私は、未だに理想に固執していたことに。



11/26/2024, 12:19:37 AM

眩しく、私に照り付ける。

痛い、心の底で呟いた。

だから、日は嫌いだ。

全てを影という形で浮き彫りにしてくる。

最後に日の光を浴びたのは、いつだろう。

極夜前、もう随分前だったような気がする。

何故、あの人は外で会おうなどと手紙に記したのだろう。

外に出なくとも、私の役目たる多大な職務の処理は全うしている。

外に出なくとも、領地経営に貿易会社などの外部収入はある。


私は、あの人に全く頭が上がらないらしい。


「あら、久しぶり。来てくれたのね、嬉しい。

 さて、貴男が昼に外出したのは何ヶ月前なのかしら。」

そこには、カフェのテラス席にて優雅に紅茶を飲む、

若き貴婦人、あの人の姿があった。

「何の御用ですか。」

私は、勧められた紅茶を一口だけ飲み込んだ。

何か、嫌な予感がした。

すると、あの人は微笑み、察しが良いと謂わんばかりに目を細めた。

「貴男に息抜きを。と、言えたら良かったのだけど状況が変わったの。」

あの人は真剣な表情になり、あの人の藤色の瞳は瞳孔が小さくなった。

「貴男の仕える、うら若き弱王と貴男をよく思わない臣下が結託して、

 貴男に謀反を企ててるみたいよ。」

私は頭が真っ白となった。

「ふふ、意外ね。貴男が感情を表に出すなんて。」

あの人は、鈴が転がるみたいな声で笑った。

そして、即座に、私へ真剣な眼差しを向けた。

「さっきの話には続きがあって、

 謀反を協力を願い出る書状が、わたし宛に弱王の側近の名で届いた。

 その意味は貴男なら分かるでしょう。」

「勿論です。私の家は、北に於いて強いと自負しています。

 しかし、貴方の家には敵わない。
 
 貴方の家との戦に関しては、特に相性が悪い。」

私は、必死に冷静を装った。

「そう、だから貴男へ知らせたの。」

あの人は、また微笑み、また目を細めた。

「感謝します。」

あの人は、再び目を細めた。

「件は、わたしに任せて。」

私は、意味が分からなかった。

「貴男は、件を知らなかったことにしないさい。」

「はい。」

私は、同意した。その方が立ち回り易い。

「件の事で、うら若き弱王への謁見を許されたの。

 わたしは、その場で件を阻止させようと思う。

 其処からは、貴男の好きなように為さい。」

あの人は、また鈴が転がるみたいに笑う。

「如何ように冷静を装っても、本来の冷静さには敵わないわ。」

あの人は、いつも私の図星を付いてくる。

「親しくとも離れていたのなら、

 親しくとも会話を交わさなくなっていたのなら、

 相手の心は離れるものよ。」

あの人は、そう言い残し、優雅に去っていった。

あの人に、又、借りを作ってしまった。

本当に感謝しかない。 

件が解決した暁には、あの人へ何か贈ろう。

あの人は贈り物を好まないから、感謝の手紙を贈ろう。




「お方様、お手紙が届きました。」

「あら、ありがとう。」

若き貴婦人は、従者から手紙を受け取る。

そして、手紙の封を開ける。

『あなたのお蔭で、件は早急に解決しました。

 また、王とも和解する事ができました。

 王宮を頻繁に訪れ、王や臣下たち、他の貴族等と些細なことでも、

 言葉を交わようにしています。

 王から頼られる事も、少しずつ増えてきたように思います。

 改めて、感謝致します。』


「本当に簡略化した手紙ね。

 でも、思いの籠った、とても丁寧な手紙。」

若きな貴婦人は微笑み、書斎の抽斗に手紙を仕舞った。












11/22/2024, 11:20:14 PM

母は、言う。

「何事に対しても、敬意を払える人で在りなさい。」と、

「例え、理解が及ばなくとも、何事にも価値は在るのです。」と。

子どもの頃は、全く理解出来ず苦しんだ。

今なら解るよ。

結婚して気が付いたよ。

妻から言われた言葉で。

「あなたは、私をいつも大切にしてくれる。

 お義母さんに会ったとき、そう言ったのね。

 そしたら、『良かった。』って、涙ぐんでたの。

 その時、あなたが私を尊重してくれる理由がよく分かったの!

 お義母さんは、必ず私に聞いてくれるの。

 『無理しないでね、嫌だったら、すぐ言ってね。』って。

 あなたは、お義母さんに尊重されてきたから、私を尊重してくれるのね。

 改めて、あなたと結婚して良かったわ。

 こんなに素敵なお義母さんが出来て、私は本当に幸せものね。」

嬉々として、妻は話してくれた。

今思い返せば、いつも尊重されて育った。

行きたい学校があると言えば、大事な仕事であっても休み、

僕の学校見学に同伴してくれた。

やりたいものがあるといえば、何でも習わせてくれた。

当たり前、そう思っていたことは、全て母の努力によるものだったのだ。

もしかすると、こうして愛は形を変えながら受け継がれるのかもしれない。

「お母さん、いつもありがとう。」

僕は、久しぶりに母に電話を通して、感謝を言葉にした。








 






11/16/2024, 6:25:29 AM

あたしの飼い主は、とても高貴な人だ。

華やかな異国情緒漂う、美しい顔立ち。

艶やかな長い黒髪に、大きな栗色の眼をしていた。

蜜のように甘い声で、あたしを呼ぶの。

「マロン、あなたは本当に可愛いわね。」

いつも、飼い主はあたしにそう言うの。

だから、いつも、あたしは言うの。

「ニャ。(ありがと)」って。

そう言うと、いつも、とても喜んでくれるの。







11/13/2024, 2:37:11 PM

「名前は?」

「朝久だよ、よろしく。」

「奏斗、よろしく。」

彼らの年なら、まだ走り回ることが好きなはず。

しかし、彼らはその姿を見るだけ。

決して親に言われているのでは無く、唯々走り回ることが性に合わない。

それだけ、しかし、大きい共通点を持つ二人の少年は意気投合した。


「朝久、」

「申し訳ありません。朝顔の君、どうか、息子のご無礼をお許し下さい。」

話かける前に、父さんは僕の頭を押さえて、父さんも頭を下げた。

「誰しも、人間なら一度は間違うものです。どうか、お気になさらず。

 今後、お気を付け下さい。」

先ほどとは全く異なる、大人びた洗練された言葉で彼は応えてた。

「ご寛大な心遣い、感謝申し上げます。それでは、失礼します。」

父さんは、急いでこの場を後にした。


「良いか、あの方は皇族では無いが、皇族の血を引いている御方だ。

 我らの家格では尊称は呼ぶことは許されても、名は呼んではならない。」

「すみませんでした、以後気を付けます。」

僕は、素直で良い子を装う。その方が、説教はすぐ終わるからだ。

公の面前とは、色々面倒くさいものだ。

私の家は、所詮格のない羊皮紙の貴人だと言うのに。


朝久と目が合った。

朝久は、急いで僕に駆け寄ってきた。

「さっきのことは、気にしなくていい。普通に朝久って呼んでいいから。」

「僕も、気にせず呼ぼうと思ってた。」

両者ともに見せないが、安堵していた。

互いの聡さと、立ち回ることの出来る賢さに。


子どもの頃を思い出すと、身分とは如何に容易く乗り越えられる、

曖昧なものかと、思い知らされる。


「朝久、久しぶり。」

「久しぶり、奏斗。」


「朝久、またな。」

「またな、奏斗。」


何度、この会話を繰り返した事だろう。

「奏斗、また会おう。これからも。」

私は、勇気を出して始めに言ってみる。

「もちろん。また会おう、朝久。」

奏斗は、嬉しそうに微笑んだ。












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