kiliu yoa

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8/14/2024, 4:33:16 AM

「なに?その楽器。」

「琴っていうの。東方の国の歴史ある楽器よ。とっても綺麗でしょ。」

「ふーん、誰かに貰ったの?」

「ええ、愛するひとから貰ったの。
 
 あのひとは、わたしの好みをよく理解しているひとなの。」

「愛する人って?何人もいるじゃん。」

「清の人よ、彼はとっても優しくて、繊細な文化人なの。」

「ああ、元夫の。離婚したのに、仲良いんだ。」

「互いに望まぬ、離婚だったから。

 ……様がわたしを祖国に呼び戻したかったから、彼とは離婚したの。」

「色々あるんだね、高貴な人にも。」

「ええ、たくさんあるの。あなたたちにも、たくさんあるようにね。」


「あら?どうしたの、拗ねちゃって。」

「僕より、その人のことが好きなの?」

「そうね…、難しいこというのわね。少し、考えるわ。

 うーん、あなたと彼とでは愛情の種類が違うの。

 だから、比べられないわ。

 彼とあなたのことは同じくらい愛してるの。

 これだけは、確かなの。」


「あらら、そんなに頬を膨らませて。

 怒らせる気はなかったの、ごめんなさいね。」











8/8/2024, 12:22:32 AM

吸い込まれるような、淡い紫の瞳。

天女のように微笑む、桃色のくちびる。

白磁器のような、きめの細かい白き肌。

白い絹の羽衣に、紫翠と銀の装飾を纏う、綺麗な貴女。

「わが愛しき人よ。」

白魚の両手が、私の輪郭を包みこみ、

あなたは、私の目を覗きこむ。


『噫々、なんと美しいのだろう。』


私が知りうる、どんな女性よりも、貴女は女性らしい。

貴女は、礼儀正しく、気立ての良い、軸のある、洗練された女性。

貴女に惚れ込まぬ人など、この世には居ないのだろう。


「会いたかった。無事で良かった。」私の眼から涙が零れる。

零れた涙を、あなたは優しく手でぬぐう。

「わたしも、あなたに早く会いたかった。」

もう一度、長く抱きしめられた。

























8/5/2024, 3:23:44 PM

祇園精舎の鐘の声…。

私から数えて六代前の当主は、平家物語を好んで読んでいらしたと、

ひいおじいさまが教えてくれた。

私も中学生の時、習ったので少しだけ覚えている。

諸行無常、か。

私の家は、元華族で富裕層。

決して高いとは言えない家格だが、家筋は良く、権威が在る。

代々皇家とは主従関係であり、天皇に仕える家の中では最も古い。


正直、私には荷が重すぎるし、身の丈に合っていない。

しかし、私は独りでは無いことを知っている。

私には、当主補佐に副当主も居る。

先代も、先々代も、四代前まで生きている。


『荷が重ければ、皆で背負えば良い。』

ひいおじいさまが、私に教えてくれた。

私が当主を継いだ日、

鐘の音が鳴り響く最中、

微笑みながら、そう仰せになった。


だから、私は思い出す。

鐘の音が聞こえると、

平家物語の冒頭と、ひいおじいさまの言葉を思い出す。

その度に唱え、自分に言い聞かせる。


そうすると、不思議と気持ちが軽くなった。













8/4/2024, 3:54:18 PM

私の妻となる人は、正直誰でも良かった。

妻としての役目を担い、母としての役目を務めてくれれば、

其れ以上は要らなかった。


私の為に用意された、縁談は両親と一族の重役によって選別され、

全部で五つに迄絞られていた。

8/1/2024, 4:00:11 PM

晴れ渡った、麗らかな日。

貴男とわたしは、結婚届けに署名し、結婚した。


わたしが貴男と結婚した理由は、家筋が良かったから。

そして、わたしの家の遠縁にあたる氏族だったから。

両家の家格の釣り合いのとれた、普通の結婚。

『女の幸せは、結婚すること。』

祖母や母から何度も聞かされてきた、

この言葉は、わたしの人生においては正しい。

正しく、その通りだった。


わたしは、貴男と結婚して『想う』という満ち足りる心を知った。

わたしは、貴男と結婚して『安心』という余裕ができた。

わたしは、貴男と結婚して『楽』という穏和な日々を得た。


しかし、全ての人々が求めるものでは無いとも感じた。


幸せとは、自分が求める時を過ごすこと。


その時とは、人の数だけ多様に存在するように思う。


だから、わたしはこの言葉を娘たちに掛けない。


幸せとは人の数だけ多様であり、自分で決めるものだと知って欲しいから。










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