銀の瞳、淡いうす茶色の髪、整った東欧の顔立ち。
俗にいう、美青年であった。
彼の雰囲気は、なんと言えば良いのだろう。
どこか儚げで……そう、本当に生気が無かった。
虚空を纏っているような……人間離れした雰囲気だった。
死神がいたならば、きっと彼のようなのだろう。
実際、彼は処刑人だった。
処刑ならば、大人だろうと…子どもだろうと、平然と殺せる人間だった。
いつからか、高額な暗殺にまで手を染めるように成っていた。
だから、彼はこんなふうに成った。
人間らしさの欠片も、彼は失ってしまった。
だから、人々は彼をこう呼んだ。
『死神』と。
なんと、馬鹿らしいのだろう。
己のことながら、そう思う。
気が付いた時には、もう……何も遺っていなかった。
気が付いた時には、かつての私は何処にも居なかった。
夢とは、美しい。
夢とは、その人自身の核を現すもののように思う。
それは、個々がそれぞれ描く、多くの悩みと多くの幸せの結晶。
さあ、今日はどんな夢をみるのだろうか。
もうすぐ、聴取が始まる。
我(わたし)の主君が謀反を起こしたからだ。
我ほど、最悪な腹心はいないだろう。
主君の無実を信じる事も、主君を庇い弁明することも、
我は、何もしなかった。
否、何も出来なかった。
それは、悪手だと感じたからだ。
だから、我はこう述べた。
「我は、我ら腹心は…何も知らなかった。」
例え、主君を侮辱されても反論せず、こう述べることしか……、
その手法しか、我ら腹心が生き残る道は無かった。
「見事に、憚られたな。」
我(わたし)は、左手で目元を覆い、苦笑した。
皆、呆然と立ちすくむ。
それは、あまりにも突然訪れた。
「王弟が謀反を起こし、国が派遣した討伐軍により、敗死した。
謀反に加担したものは、皆、斬死された。」と、いうものだった。
王弟、それは……我ら腹心が忠義を尽くしてきた、主君だった。
主君が謀反を起こそうと考えている事すら、我ら腹心は知らなかった。
我ら腹心から見た主君は、そんな……お方では無かった。
兄君たる王を支えるため、日々、努力を重ねられていた方だった。
政敵など、両手では数え切れない。
しかし、裏で糸を引く人物には、検討がついた。
そして、主君は……その人物の政の手腕で敗れたのだった。
「きれいな顔ね。そして、冷たい目は彼を彷彿とさせる。」
貴女は、私の顔の輪郭を両手で覆い、優しく微笑みながら、
私と一瞬、目を合わせてそう言った。
「こいつで間違えないか?」
鋭い目つきの男は、ぶっきら棒に貴女に問う。
「ええ、彼で間違えない。」
貴女は微笑み、満足そうに青年に答えた。
「金は?」
「いつも通りよ。」
「分かった。」
そういうと、男はこの場を去った。
再度、貴女は私を見て言った。
「今日から貴男は、わたしの夫になるの。」
ふと、目が覚める。
昔の記憶の夢か…。
あの頃は、まだ私の方が背が低かった。
今も変わらぬ、穏やかで美しい、魅惑な貴女。
今日も、貴女は私のとなりにいる。