クシャ、カシャ……枯れ葉の上を歩くたびに音がなる。
枯れ葉の層は、やがて土に還り、土の養分となるらしい。
その光景を見たことが無い、幼い私はその事実が信じられなかったっけ…。
自然は、めぐる。
だからこそ、美しい。
弱さは、強さだ。
その己の恥とも思える、弱さを受け入れ、認めよ。
その弱さが強さに転ずることを信じ、己なりに努めよ。
然れば、己に多くの宝を齎らさん。
個人を生まれや権威などで判断するな。
やがて、我(わたし)右腕となる者が現れる。
その者は卑賎の生まれながら、優れた知性と品性を持ち併せ、
初めて、我を見事に言い負かして見せた男だ。
権威、血筋、富に目を眩ませてはならぬ、個人の本質を見よ。
そして、常に多くの視点、多くの人間の意見を取り入れ、
個人を過信しすぎず、過小しすぎず、己を含め評価せよ。
然れば、事実と感覚の解離を紛うこと無かれ。
花は、美しく咲き誇る。
だからこそ、よわった心を癒やし、よわった心に元気を与える。
最愛の貴男に咲き誇る、美しき花々を贈る。
大切な貴男に、たくさんの愛情とたくさんの祈りを込めて。
どうか、少しでも多く、貴男の体調が良好な日々が在りますように…と。
どうか、少しでも多く、貴男とともに生きられますように…と。
年に一度、貴男を想う気持ちと感謝の気持ちを…貴男に贈ります。
「あなた……、愛しきあなた。」
私の頬は、紅く染まる。
「どうしたの、聴こえているよ。」
出来る限り、冷静に返事をする。
「あなたのもとに嫁げて、本当に幸せだったわ。
わたしを愛してくれて、本当にありがとう。」
貴女に強く、抱きしめられる。
「礼を言うのは、こちらの方だ。
私も貴女と過ごす日々は、本当に幸せだった。
私を愛してくれて、本当にありがとう。」
私も、強く抱きしめ返す。
嗚呼、もう別れか。
婚姻する前から、聞いていた。
しかし、予想より……ずっと早かった。
ただ、それだけ。
溢れそうになる涙をぐっと堪え、優しく微笑む。
貴女を見送る、その時まで……
貴女が好きだと言ってくれた、笑顔で居たいから。
「若いね。」
久しぶりに、そう言われた。
こう見ても、わたしは五百歳くらい。
彼女のように千年以上生きた方から見ると、わたしは未だ若いらしい。
「よく頑張ったね。」
そう言われ、頭をよしよしされた。
「うん!」
嬉しくなって、子どもみたいな返事になった。
恥ずかしい。
久しぶりに褒められて、舞い上がってしまった。
「いやだった?」
そう、彼女に問われた。
「ううん、違うの。久々に褒められたから、舞い上がってしまって、
恥ずかしくなっただけ。ありがとう。嬉しかった。」
久々に自分と同じ種族と出逢って思う。
この思い出も、あっという間に共有できなくなるのかなって。
人間のように、本当にあっという間に居なくなってしまうのかなって。
「大丈夫だよ。私は人間じゃないから、あっという間に居なくならない。」
「うーん、それなら二百年後、また会おう。」
「いいの?」
「うん!」
「じゃあ、ここで会おう。」
「うん!」
「じゃあね。」
「またね。」
これが貴女との出会い。
今日、貴女と5回目の約束。
あのときは、千年先まで続くとは思わなかった。
遠くで貴女を見つけ、わたしは手をふる。
貴女もまた、手をふりかえしてくれた。
「久しぶりね。」
わたしは、いつものように舞い上がって言う。
「久しぶり。」
貴女もまた、いつものように微笑み、そう言う。