「お姉さま……。」
「どうしたの、そんな不安そうな顔をして。」
お姉さまは、優しく微笑む。
「以前、お姉さまとお会いした時より青白く、痩せらたように感じます。」
「ふふふ。」
飾り羽のついた扇子で、お姉さまは顔を覆う。
「お姉さま、どうか、ご無理なさらぬように。」
「ええ、代替わりが終わったらね。」
お姉さまは、覚悟が決まっている瞳をして居られた。
「お姉さまに、神のご加護がありますように。」
「ふふふ、ありがとね。愛しきあなたにも、神のご加護がありますように。」
お姉さまは優しく、わたくしの頭を撫でた。
「じゃあね。I love you.」
「I love you, too.」
わたしを着飾る。
いつもは付けぬ、ネックレスにブレスレット、リングを身に付ける。
いつもは纏わぬ、シャレた刺繍に麻の素材、ラフなワンピースを身に纏う。
高級感に上品さ、派手さも無い、
きわめて、庶民的でラフなワンピース。
細やかで鮮やかな刺繍の施された、黒地のロング丈のワンピース。
皮のヒールの高さは、低めで歩くことに適している。
作りの良い、実用的なシンプルな靴。
植物を編んだ、つばの大きい帽子。
それは、趣味の良い彼女の人柄を表していた。
優しさを与える側も、受け取る側も、
余裕が無ければ、その行為の意味を理解できないように思う。
前提として、これは私見に過ぎず、例外が存在するやもしれん。
その例外をわたくしは、未だ見たことがない。
ただ、それだけだ。
わたくしにとって、優しさとは愛情である。
愛とは、相手を思い、相手を尊重する。
それが愛だと、わたくしは思う。
だから、わたくしは条件つきの愛という、概念を理解できない。
地位とは、恐ろしい。
地位を得てしまえば、大抵の人間はその地位に固執してしまう。
その地位を得ようと、わたしは多くを犠牲にした。
その地位を得ようと、わたしは平然と心を殺した。
野心自体、決して悪い訳では無い。
むしろ、高みを目指すことは良いことだと思う。
しかし、多くのものが見失う。
高みを目指す事自体が、目的と化してしまう。
何故、わたしは高みを目指したのか。
それは、貴女への恩返しだったはずだ。
しかし、わたしは……長らく忘れてしまっていた。
貴女が私に宛てた遺書を見るまでは……。
そうだった、そうだったな。
貴女は愛情深く、聡明な人だった。
わたしは貴女の有する、全てを引き継いだ。
だから、わたしは高みを目指したのだ。
貴女の生前には叶わなかった、恩返しをしたかった。
貴女に直接は述べられなかった、感謝の意を示したかった。
最上の地位に就くことで、貴女が成した決断への不安を解消して、
わたしは、貴女を安心させたかったのかもしれない。
「オレを見て。」
あなたは、オレに背を向け、去ってゆく。
オレだけを見て。
なんで、あなたは他のヤツを見るの。
ありのままのオレを見てくれるのは、あなただけなんだ。
オトコだけど、かわいいものが好きで、きれいなものが好きで、
オンナのコみたいな、かわいい格好が好きで、オトコは恋愛対象じゃない。
でも、オンナになりたいわけじゃない。
そんなオレを受け入れてくれたのは、あなただけなんだ。
だから、他のヤツを見ないで。
オレのことを見て。
「オレだけを……見てくれよ。」
涙が零れる。
目が覚めた。
眩しくて、目を細める。
あなたは、オレのとなりに座っていた。
あなたは、微笑む。
優しい眼差しをオレに向ける。
そして、優しく抱きしめられる。
「怖い夢を見たんだ。」
「そうなのね。」
「うん、あなたが去ってゆく夢を見たんだ。」
夢みたいに、オレの置いて、去ってゆくようで、
あなたの顔を見るのが少し怖かった。
視線を上げられなかった。
「わたしは、貴男のもとを去ったりしない。
だって、貴男を心から愛しているから。」
「ありがとう。」
嗚咽がとまらなかった。
安堵や嬉しさが混ざった、感情が溢れてきた。
言葉には表せられない、あなたを深く愛している理由が
今、分かった気がした。