わたしを着飾る。
いつもは付けぬ、ネックレスにブレスレット、リングを身に付ける。
いつもは纏わぬ、シャレた刺繍に麻の素材、ラフなワンピースを身に纏う。
高級感に上品さ、派手さも無い、
きわめて、庶民的でラフなワンピース。
細やかで鮮やかな刺繍の施された、黒地のロング丈のワンピース。
皮のヒールの高さは、低めで歩くことに適している。
作りの良い、実用的なシンプルな靴。
植物を編んだ、つばの大きい帽子。
それは、趣味の良い彼女の人柄を表していた。
優しさを与える側も、受け取る側も、
余裕が無ければ、その行為の意味を理解できないように思う。
前提として、これは私見に過ぎず、例外が存在するやもしれん。
その例外をわたくしは、未だ見たことがない。
ただ、それだけだ。
わたくしにとって、優しさとは愛情である。
愛とは、相手を思い、相手を尊重する。
それが愛だと、わたくしは思う。
だから、わたくしは条件つきの愛という、概念を理解できない。
地位とは、恐ろしい。
地位を得てしまえば、大抵の人間はその地位に固執してしまう。
その地位を得ようと、わたしは多くを犠牲にした。
その地位を得ようと、わたしは平然と心を殺した。
野心自体、決して悪い訳では無い。
むしろ、高みを目指すことは良いことだと思う。
しかし、多くのものが見失う。
高みを目指す事自体が、目的と化してしまう。
何故、わたしは高みを目指したのか。
それは、貴女への恩返しだったはずだ。
しかし、わたしは……長らく忘れてしまっていた。
貴女が私に宛てた遺書を見るまでは……。
そうだった、そうだったな。
貴女は愛情深く、聡明な人だった。
わたしは貴女の有する、全てを引き継いだ。
だから、わたしは高みを目指したのだ。
貴女の生前には叶わなかった、恩返しをしたかった。
貴女に直接は述べられなかった、感謝の意を示したかった。
最上の地位に就くことで、貴女が成した決断への不安を解消して、
わたしは、貴女を安心させたかったのかもしれない。
「オレを見て。」
あなたは、オレに背を向け、去ってゆく。
オレだけを見て。
なんで、あなたは他のヤツを見るの。
ありのままのオレを見てくれるのは、あなただけなんだ。
オトコだけど、かわいいものが好きで、きれいなものが好きで、
オンナのコみたいな、かわいい格好が好きで、オトコは恋愛対象じゃない。
でも、オンナになりたいわけじゃない。
そんなオレを受け入れてくれたのは、あなただけなんだ。
だから、他のヤツを見ないで。
オレのことを見て。
「オレだけを……見てくれよ。」
涙が零れる。
目が覚めた。
眩しくて、目を細める。
あなたは、オレのとなりに座っていた。
あなたは、微笑む。
優しい眼差しをオレに向ける。
そして、優しく抱きしめられる。
「怖い夢を見たんだ。」
「そうなのね。」
「うん、あなたが去ってゆく夢を見たんだ。」
夢みたいに、オレの置いて、去ってゆくようで、
あなたの顔を見るのが少し怖かった。
視線を上げられなかった。
「わたしは、貴男のもとを去ったりしない。
だって、貴男を心から愛しているから。」
「ありがとう。」
嗚咽がとまらなかった。
安堵や嬉しさが混ざった、感情が溢れてきた。
言葉には表せられない、あなたを深く愛している理由が
今、分かった気がした。
「もし、時間を遡れるならば何をしますか。」
「うーん、別に何もしないんじゃないかな。
というか、時間が巻き戻るなら記憶無くなるから、何も出来ないよ。」
「記憶が保てるなら、何しますか。」
「うーん、やっぱり別に何もしないかな。
だって、その後悔が無くなったら、もう、それは自分じゃないよ。
私は後悔から失ったものより、得たもののほうが多いんだよね。
それに失って、初めて、その有難みに触れることも在るよ。」
「代々一族の腐敗を防ぐために、自ら血縁者を殺す一族の出の方は、
やはり、一味違いますね。」
「なに、それ、嫌味か。」
「いいえ、違います。一般人の私より、深い回答だと感じたのです。」
「いや、お前はどう考えても、一般人じゃないないだろ。」
「あなたよりは、一般人側ですよ。」
「たしかに、そうだな。」