kiliu yoa

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12/22/2023, 11:46:21 AM

ゆずが香る、美しい季節と成りました。

あなたが現世を去った、あの日もこの香りが色濃く漂っていましたね。

この爽やかなゆずの香りを嗅ぐと、今でも昨日の事のように、

あなたのことを思い出します。

あなたが宝と称された、あの方は思し召した通り、

竹のように靭やかに 睡蓮のように泥の中でも咲く花へ 

と、見事に成られました。

凛々しく、美しく、聡い、そのお姿はあなたを彷彿とさせます。

あなたの成せなかったことを、形にされることに尽力されて居りますゆえ、

安心してお過ごし下さい。


手紙を封筒に入れ、蝋を垂らし、封をする。

そして、その封筒を明かりの火に掛けて燃やす。

これで、彼岸にも届くでしょう。

どうか、これからもあの方を見守って居てください。

そして、どうか、彼岸ではあなたらしく、穏やかな日々を過ごせますように。






12/21/2023, 11:38:23 AM

走って、走って、逃げて、逃げて……。

何に追われているか、私には分からない。

直感が警告する。

これに捕まっては成らぬと……。

無我夢中になって廊下を走り抜ける。

角を曲がった先には、モルタル調の部屋が広がっていた。

大きな白枠のすりガラスの窓から、光が差していた。

私は、その白く差す光の美しさに立ち尽くした。

何故かは、分からない。

いつもは、こんなことには目もくれないはずなのに。

この時は、とても惹きつけられた。

あっ、見つかった。

逃げなくては……。

この部屋のドアは、一つしか無かった。

気が動転し、私は血迷った。

逃げたい一心で、窓へ一直線に走った。

窓ガラスを突き破る。

すりガラスは、粉々に砕け散った。

下を見ると、森の木々が見えた。

落ちる。

そう、思った時だった。

無意識に両腕で羽ばたいていた。

両腕から白い羽が生え、翼に変わっていた。

後ろを振り返る、私を追う、

何かは私を見上げ、立ち止まった。

無我夢中に成って、上へ、上へ、上り、飛んでいた。


上空から見る 海沿いの町は小さく、

ダムから流れる水は 涼しい風を運び、

豊かな森からは、様々な鳥の鳴き声が聞こえた。


嗚呼、空を飛ぶことは こんなにも気持ちいい。

私を追うものは、もう私を追ってこない。

それは、とても自由だった。

そして、色々なものがよく見えた。

世界とは、こんなにも美しいものだった。

色々な地を放浪し、色々なモノたちに出逢った。

それは、刺激に満ち、感動的なとても幸せな日々だった。

しかし、その日々は とても孤独だった。















12/18/2023, 3:01:01 PM

寒さは、いつも私の邪魔をする。

寒さは、いつも私の体調を崩してしまう。

私は、いつもその事実が悔しくて、悔しくて、堪らない。

この日の為の万全の準備を積み重ねたのに、寒さによって其れは無に帰す。

かつての私は、そう思っていた。

だから、無理をした。

毎日のようにめまいと吐き気を我慢して、身体に鞭を打った。

毎日、やりたいことが出来なくて、そんな自分を責めていた。

我慢するのが日常になり、元気とは何か、分らなくなるほどに……

身体と心が削れた。

その無理が祟り、身体が……心が……壊れた。

体調はより一層悪くなり、心は擦り減っていた。

毎日、涙が留まらなかった。

其の当時のことを思い出すと、今でも涙が零れてしまう。

幸い、其の後に病気が見つかり、治療を受けることが出来た。

今は病気は完治して、体調は安定して良好だ。

此の経験を通し、辛いことも多かったが、得たものの方が多かった。

だから、今なら胸を張ってこう言える。

『私は運が良かった。此の経験のおかげで、

 自分らしく、好きなように、無理せず生きられるように成った。』と。




12/16/2023, 4:15:17 PM

「何故、貴男様方がこちらに。」

警備員が止めに入る。

「アポは取ってるから、安心してよ。」

「了承の手紙を見せた方が良いのか。」

「……。」

三人の紳士は、半ば強引に門を潜ろうとした。

「しかし、いくら貴方様方と言えど…。」

警備員は、彼らを知っていた。

いや、寧ろ…知らぬ方がおかしい。

其れほどまでに、彼らはこの屋敷の主人と親しかった。

警備員は、彼らを止められなかった。

この屋敷の使用人も止めに入ろうとしたが、彼らを止められず、

とうとう主人の寝室のドアの前まで来て、勢いよくドアを開けた。

「おうおう、大丈夫か。見舞いに来てやったぞ。」

「大きい声を出すな。身体に触るだろう。」

「花束、持ってきたよ。」

私は、苦笑した。

どこから、私が風邪で伏せっていることを聞いたのだろう。

私は身体が弱く、幼い頃から体調を崩しやすかった。

私にとって、風邪は脅威だ。

風邪と侮れば、私の命は幾つあっても足りないほどに。

だから、彼らの見舞いが嬉しくて、涙が溢れそうだった。

彼らが屋敷に無断で入ってきたのは、廊下が騒がしくて分かった。

「来てくれて、本当にありがとう。」

ぽろっと、私の口から零れた。

「気にすんな。」

「互いに忙しい身だから、こうして集まれるから良いよ。」

「おまえは、どうなの?嫌じゃない?嫌だったら、遠慮なく言って。」

彼らは、口々に言った。

「安心して、嫌じゃない。寧ろ、嬉しいくらいだよ。」

嬉し涙をぐっと堪えて、笑って応えた。













12/15/2023, 2:44:08 PM

『次は、いつ逢えますか。』

『そうだな。雪が降る頃に又来るよ。』




「あなた。」

「雪の降る頃、約束通り迎えに来たよ。私の花嫁さん。」

「お待ちしておりました。」

「長い事、待たせてしまった…本当にすまない。」

「いいえ、構いません。あなたのお側に居れるなら、何年でも待ちます。」

「ありがとう。いつも、君の優しさに救われる。」

「これからも、末永く宜しくお願いします。」

「こちらこそ、これからも末永く宜しくお願いします。」












 




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