走って、走って、逃げて、逃げて……。
何に追われているか、私には分からない。
直感が警告する。
これに捕まっては成らぬと……。
無我夢中になって廊下を走り抜ける。
角を曲がった先には、モルタル調の部屋が広がっていた。
大きな白枠のすりガラスの窓から、光が差していた。
私は、その白く差す光の美しさに立ち尽くした。
何故かは、分からない。
いつもは、こんなことには目もくれないはずなのに。
この時は、とても惹きつけられた。
あっ、見つかった。
逃げなくては……。
この部屋のドアは、一つしか無かった。
気が動転し、私は血迷った。
逃げたい一心で、窓へ一直線に走った。
窓ガラスを突き破る。
すりガラスは、粉々に砕け散った。
下を見ると、森の木々が見えた。
落ちる。
そう、思った時だった。
無意識に両腕で羽ばたいていた。
両腕から白い羽が生え、翼に変わっていた。
後ろを振り返る、私を追う、
何かは私を見上げ、立ち止まった。
無我夢中に成って、上へ、上へ、上り、飛んでいた。
上空から見る 海沿いの町は小さく、
ダムから流れる水は 涼しい風を運び、
豊かな森からは、様々な鳥の鳴き声が聞こえた。
嗚呼、空を飛ぶことは こんなにも気持ちいい。
私を追うものは、もう私を追ってこない。
それは、とても自由だった。
そして、色々なものがよく見えた。
世界とは、こんなにも美しいものだった。
色々な地を放浪し、色々なモノたちに出逢った。
それは、刺激に満ち、感動的なとても幸せな日々だった。
しかし、その日々は とても孤独だった。
12/21/2023, 11:38:23 AM