kiliu yoa

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12/1/2023, 3:26:16 PM

たまに、帰りたくなる。

此処より陸路で東へ進み、海を渡った先にある、

極東と呼ばれる、私の故郷に帰りたくなる。

今、この大陸の国は他国に侵攻している。

侵攻は周辺の国々を滅ぼし、飲み込むまで続く。

国々を完全に飲み込み、安定するまでは帰れない。

其れが達せられるのは、最低でも十五年後の事だろう。

其れまでは、帰れない。

この侵攻は、永き戦乱の世を終わらせる為のものだ。

幸い、この国の大王は人の痛みを知る人だ。

だからこそ、この永きの戦乱の世を終わらせようとして居られる。

私は、この国に恩がある。

その恩を返す為に…私は此処で生きている。

あと、何万人の人々が犠牲になるのだろうか。

この大陸に平和は、本当に訪れるのだろうか。

それらを考えるだけで、辛くなる。

大王や其れに尽力する人々は、この苦しみをどうやって……

乗り越えているのだろう。





















11/30/2023, 11:40:19 AM

愛しき、貴男。

貴男は、多くを背負う強き方。

貴男は、誰よりも人の上に立つ器を有する方。

でも、貴男だって心の拠り所が必要よ。

わたしと同じ人間なのだから……。

いい加減、あの方を、貴男の心の拠り所を、迎えに行きなさい。

貴男には、あの方が必要よ。

それは、わたしたちでは担えない。

悲しいけれど、あの方しか…貴男を救えない。

わたしたちに遠慮せず、あの方を迎えていいの。

だから、どうか、これからは泣かないで。




11/29/2023, 10:09:07 AM

吐息は、白く色づく。

頬は赤らみ、より鮮明に肌の白さが目立つ。

毛糸の手袋に厚めのトレンチコート、ウールで出来たブーツ。

夜明けは遅く、日暮れは早い。


冬の銀世界は美しいが、寒さはキツい。

とくに、悴むと色々と…めんどうだ。

11/27/2023, 2:26:27 PM

私の母は、そよ風みたいな人だった。

月白色の髪を一本の三つ編みにして、紫翠石みたいな綺麗な目をしていて、

白磁器みたいなすべすべした温かい肌で、よく私の頭を撫でてくれた。

私には、たくさんの兄弟姉妹がいたけど、皆、一人ひとりを見てくれた。

母は仕事が忙しくて、あまり家に居なかったけど、

私たちの面倒を見る人たちが、たくさんいて、その人たちが色々してくれた。

母は、よく私たち一人ひとりを抱きしめて『世界一の宝物』と言っていた。

それを言われると、私は嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。

たくさんの愛情を注ぎ、時には諌め、よく褒めてくれる、そんな母だった。

時は経ち、旅立つ頃に成った。

その時、気が付いた。いや、ずっと…どころか、違和感が在った。

何故、そんなに若いのだろう…と。

何故、そんなに仕事を教えてくれないのだろう…と。

何故、容姿が全く似ていないのだろう…と。

そう、母と私では…どう考えても年齢的に親子では無いこと。

そして、私は後に知ることになる。

本来なら、赤子の頃に家族と共に秘密裏に処刑されていたことを。

当時処刑人だった、まだ子どもだった母が、私を匿い、戸籍を変え、

私が成人するまで育ててくれたことを。

そして、私の実の家族を処刑した人でも、在ったことを。

もし、あなたが最低な人だったら、激怒し、恨むことが出来たのに。

もし、あなたが沢山の愛情を注いでくれなかったら……。


あなたは、私の家族を殺した人。

そして、あなたは…誰がなんと言おうと、唯一の私の母だ。

血の繋がりは、無い。

でも、あなたが私に沢山の愛を注ぎ、育ててくれたは、何一つ違わぬ事実だ。

だから、私は…あなたを…母を…赦す。

だから、私は…これまで通りに母に接する、大好きな娘として。


『─親愛なるお母さまへ
     
 本当のことを話してくれて、ありがとう。
 
 これまでも、これからも、あなたのことが大好きな娘より』
      






11/26/2023, 3:06:51 PM

『あなた、いってらしゃいませ。』

どこか儚げな、優しい妻の声。

『おかえりなさい、あなた。』

どこか嬉しそうな、優しい妻の声。

『誰よりも、あなたをお慕い申しております。』

どこか凛々しさのある、優しい妻の声。

ゆっくりと瞼が開く。

私は病のとき、いつも夢を見る。

今迄は、悪夢が多かった。

しかし、今日は違った。

夢に出てきたのは、妻だった。

「目を覚まされましたのですね、良かった。」

そよ風のように、優しく穏やかな妻の声。

嗚呼、安心する。

「嗚呼。」と、私は応える。

私の額に、手をあてる妻。

その手が少し冷たくて、心地良かった。

「微熱程度まで下がりましたね。」

どこか、安心したような妻の微笑。

ああ、良かった。心から笑ってくれた。

私のせいで歪む、妻の表情ほど辛いものは無い。

「病の時くらいは、しっかり休んで下さいね。いつも、激務なのですから。」

「嗚呼、そうする。有難う。」

私は、ゆっくりと瞼を閉じる。

ここから、記憶は無い。

目が覚める。

寝台にもたれるように、妻は寝ていた。

頬には、涙の流れた跡があった。

夫の看病など、召使いに任せればいいのに。

妻を寝台に寝かせ、掛け布団をそっと掛ける。

嗚呼、本当に…私には勿体ないほど出来た人だ。

「有難う。いつも言えないが、私も誰よりも…あなたを愛している。」

そう言って、妻の髪を耳に掛けた。

気のせいか、少し妻の表情が微笑んだように想った。







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