美しい人は、皆、好きだ。
綺麗な人は多いが、美しい人は少ないと思う。
美しい人は、皆、心の礎がある。
苦しみに翻弄されても、未来を、生き抜くことを、諦めない。
苦しみを、乗り越えた人は、皆、本当に美しい。
私が思う…美しい人は、皆、過去に苦しみを乗り越えた先の人だった。
誰よりも、美しい。
いつか、そう言われてみたいし、言いたい言葉だ。
まぁ、こう思う…うちは、言われないだろうけど。
もう、苦しみなんて御免だ。
私は、今、苦しみを乗り越える、最中だ。
きっと、大抵の人は、そうなのだろう。
大抵、皆、何かと戦っている。
そう思うと、何だか、嫌な気持ちになった。
まるで、私は特別で無いと言われたみたいに…。
いつか、その言葉を受け入れられたらな。
きっと、その言葉を受け入れられる時には、
その苦しみを越えられているのだろうか。
貴様に、何が分かる。
明るく、軽い冗談みたいに義兄に言われた。
どこか、闇と重みが垣間見えた言葉だった。
義兄と私の生きてきた道が異なったことを……、
義兄と私では背負ってきたものの重みが異なったことを……、
義兄から突き付けられ、この時、初めて気が付いたのであった。
『希望とは、なんと都合の良い言葉だろう。』
内心、わたしはそう思う。
「貴女は、私の希望だ。」と、男に口説かれた。
わたしは、希望の言葉が嫌いだ。
でも「ふふふ、ありがとう。」と、聖母のような眼差しと微笑みを返す。
そうすると、大抵の男は赤面する。
チェス盤に駒が増えた。
そう思えば、どんな不快な気持ちも殺すことが出来る。
皮肉にも、わたしの名に篭められた意味は『希望』だった。
綺麗な容姿だけが取り柄の、仕返しの出来ない、怯えることしか出来ない、
母のような女に、わたしは成らない。
あくまでも、主導権を他者には委ねない。
希望など、無責任に託さないで欲しい。
もう、いや。
もう、生きるのに疲れた。
だから、死ぬまえに最も接点の無かった異母妹をピクニックに誘ってみた。
厳密には異母妹では無い、長兄のお気に入りの彼女と話してみたかった。
彼女は、わたしのはなしを時々頷きながら、静かに聴いてくれた。
彼女は、そよ風みたいな人だった。
涼しくて、優しくて、穏やかな雰囲気を纏っていた。
だから、だろう。
今まで誰にも話さなかったことまで、口から出ていた。
自分を殺すことに疲れた、と。
いつまで生きればいいのだろうか、と。
そしたら、彼女は何て言ったとおもう?
「そうか。」
この一言だけだった。
でも、何故か、鼻の奥がツンとして、堪えようとしたのに、
瞼から涙が零れ、頬をつたい、流れた。
この一言には、言葉では表しきれない、彼女の『なにか』を感じた。
気づいたら、彼女はわたしの背後に回り、背をを向けて座っていた。
その気遣いが、なによりも嬉しくて……、また、涙が零れた。
ありのままのわたしを、受け入れてくれる人が居た。
ああ……やっと、分かった。
少し、明るい未来を信じよう。と、思えた。
たぶん、これが、きっと、『希望』なのだろう。
金髪碧眼、それは彼ら一族を象徴する、
王家に準ずる家格と貴き血筋を顕わしている。
稀代の名君と云われる、ノース、北の主君。
それが彼の肩書。
わたしの隣で眠る人は、貴き血筋のもとに生まれた人。
強く成るしか、早く大人に成るしか、生きることを許されなかった人。
たった一人で多くの業を背負い、たった一人で多くの命を背負う、
主君としての並外れた技量と天賦の才を有する人。
多くの女たちを魅了し、多くの女たちを泣かせ、多くの女たちに依存する、
矛盾を抱える、弱き人。
わたしは、あなたの妻。
わたしは、決してあなたに魅了されない。
わたしは、決してあなたに泣かされない。
わたしは、決してあなたに依存させない。
強くない、男らしくない、ありのままの、弱きあなたを
受け入れ、支え、見守る。
それが、わたしに出来る、あなたの妻としての役目。
見返りなんて、いらない。
なんでって?
あなたを、心から、なによりも愛しているから。
若き美しい青年は、故郷の処刑台に立たされる。
今世紀、彼は最も重い罪を犯したと報じられた。
「イースト、東の主君よ、最期に言い遺すことは在るか?」
見物に訪れた民衆の中には、すでに涙を流す者がちらほら居た。
「この地に暮らす人々よ、どうか、この愛する…美しい故郷を頼みます。
そして、これだけは忘れないでほしい。
この地を統治できて、私は本当に幸せだった。今まで、有難う。」
彼は、穏やかな優しい笑顔で……そう言った。
その直後のことである。
民衆の一人が、声を上げた。
「その人を、殺すな!」
「その人は、この地をずっと守ってくれたのよ!」
「いつも、わたしたち民の声に耳を傾けてくれた!」
「やっぱり、おかしい!何故、名君が殺されなきゃいけないんだ。」
「静粛に!」
「「「そうだ!」」」
「「「そうよ!」」」
多くの民衆が、声を上げた。
裁判官が声を荒げても、民衆は怯むどころか、反旗の声は増すばかり。
裁判官たちは、この時、気が付いた。
この地の民衆には、彼が必要不可欠だと……。
何よりも民を優先する、名君だったことを……。
「処刑を中止する!」
一人の裁判官が、そう叫ぶ。
「貴様、正気か!何を言っている!本国を裏切る気か!」
別の裁判官が、激怒した。
「ああ、そうさ!この度の件の責は、全て私が取る!」
あの、一人の裁判官が、そう宣言した。
イースト、東の主君。
彼は、後に歴史に名を刻む。
未来の多くの人々に愛され、受け継がれる……名君と成った。