kiliu yoa

Open App
7/6/2023, 2:56:18 AM

 空を見上げる。夜は、宇宙を映し出す。

 北極星で今進んでいる方角が分かり、月の満ち欠けとその方角からおおよその今の時間が分かる。

長きに渡り過ごした……此処を去るのは、何だか物悲しかった。

 眼が悪い和多志は、星は余りはっきりと見えず、この分かり易い星を頼りに旅路を進む。

 途中に貿易船に乗り、帰路を進む。貿易船から見る夜空は、本当に美しい。空を遮るものは、海には無い。船首は、水平線を一望できた。

 幼き頃には、見れなかった。当時はずっと下を向いて泣いていたし、二度目は、かなり心が虚ろで何も感じなかった。三度目の今日、初めて感動した。
 心から、『嗚呼、生きていて良かった。』と思えた。こんなことは、初めてで泣きそうになった。
 
 故郷に良い記憶は余りない。知人の多くは、疾うの昔に亡くなった。
 
 和多志の帰る家は、温かい家族は居ない。其処にあるのは、明確な序列と主従関係のみだ。力は有れど、情は無い。富は有れど、平穏は無い。

 なんとも虚しい格式高い家系、其れが和多志の一族の宗家だった。


 でも、故郷の帰路は本当に素晴らしいもので…上司の命令状を受け、帰路に就いて良かったと初めて思えた。

 

 

 

7/4/2023, 11:16:01 AM

 私の主は、神と揶揄される人だった。彼女は、私よりずっと若いが私より、ずっと大人びた人だった。

 貴方と初めて逢った時、貴方は私の家族を殺した直後だった。あの時の貴方は、割れた黒曜石みたいに鋭く冷たい眼をしていた。私は、貴方と眼があった瞬間、眼の前に貴方が現れ…何かを振り下ろした。其処から記憶は、途切れた。
 気付いた時には、見知らぬ土地に勝手に連れてこられたていた。

 病室みたいな部屋のベットに寝かせられ、身体には包帯が巻かれていた。窓は、開いていて温かい陽の光が差し、心地よいそよ風が白いカーテンと踊っていた。

 開けられた窓からは、子どもの笑い声が聞こえて…起き上がろうとした時だった。ズキッとした強烈な痛みが襲った。其の痛みで、ふと我に返った。此処は、何処だ。一瞬、彼の世かと思った。が、直感が『違う。』と叫んだ。

 どうにか、ゆっくりと身体を動かし、窓を覗いた。


 其処には、僕より幼い子が何人も居た。でも、皆、笑っていた。外で其れは…其れは…楽しそうに遊んでいた。

 私の故郷では、そんなに嬉しそうな…楽しそうな…子どもたちの表情を見たことが無かった。

 

 貴方は、私の名を、私の過去を、生きた時間を、大切な家族を奪った人。でも、多くの子どもたちを救った人でもあった。私も其のひとりだった。

 
 貴方が残虐非道だったら………、貴方が冷酷無比だったら…………、貴方を簡単に憎しみ、恨み、疎み、親の仇を打つが出来たのに。こんなに苦しむことは無かったのに。


 貴方は、何故、そんなに…慈悲深く、暖かく、美しいのだろう。

7/3/2023, 10:45:37 AM

 人生は、難しい。

 たった1つの選択で気付かぬうちに大きく変わる。

 正しい答えは決して1つでは無く、その時の選択が正しいかどうかは時が経て初めて分かる。

 たった1秒先でさえ、何が起こるか分からない。

『一寸先は闇』という言葉は、その事実を如実に表している。

 たまに、生きた時間を振り返り、過去と向き合う。

 たまに、お世話になっている人に感謝し、相手に言葉にして伝える。

 只、其れだけで自分と周りの人を幸せに出来ると思う。

 
 無理しないでね。
 

7/2/2023, 2:08:22 PM

 陽の光は、生命の源。しかし、『薬も過ぎれば毒となる』ように、強すぎる日差しは命を少しずつ削り、やがては多くの命を奪う。

 私の村もそうだった。日照りが続き、嘗て豊かだった土地は不毛の荒野になった。

 男たちは、街に奉公に出た。女たちは、少しでも稼ぐために農耕に内職…時には旅商人に身体を売り生計を立てた。子どもは口減らしで大半は売られ、残った子どもは家のことを一通り行いながら赤子をあやした。

 あの頃は、皆、生きることに精一杯だった。

 そんなときに、餓えて死にそうなの旅人さんがこの村を訪れた。

 女たちは村の少ない食料を旅人に分け与え、子どもたちが交代交代に介抱してくれたのだ。

 村の人々のお陰で、旅人さんの身体は順調に回復していき、皆に見送られながら村を後にした。


 その1年後のことだった。旅人さんは、またこの村を訪れた。村の人々に水の引き方に溜め方、乾燥に強い作物の育て方を教えてくれた。また、村の人々に文字を教え、多くの本を与えた。そして、村の人々の生活も少しずつ豊かになり安定していった。

 この頃になると男たちは、街から帰ってきた。私のお父さんも帰って来れるようになった。女たちやお母さんの負担が減って、困ったように笑うんじゃなくて、幸せそうに笑うようになった。子どもたちは、外で遊べるようになった。売られた子どもたちも少しずつ帰ってきた。

 少しずつ村の張り詰めた空気はほぐれ、皆、生き生きしていった。

 旅人さんは、この村を救った英雄でこの村に残り、みんなの先生になった。

 今では、笑顔で溢れる村となった。

 

 


 

 

7/1/2023, 11:05:59 PM

 わたしは、城館から町を見下ろすような夜景しか見れない。陽の光は、眩しくて熱くて痛い。わたしには、陽の光は強すぎて外には殆ど出られない。出られたとしても日傘は勿論、服は黒一色。帽子のつばが広いものしか被れない。

 『仕方ない。』分かってる。分かってる。生まれつきの疾患。私の枷。たまに呪ってしまう。

 それでも、良いことにしてる。其れがわたしだから。

 他者と比較は、確かに良くない。己の欠点を他者と比較し、己を追い詰めるのは、確かに良くない。 

 でも、他者と己を比較し、他者から学び、己をより良くすることは決して悪いことでは無いと思う。

 わたしは確かに他者とは違い、陽の光をまともに浴びることも…昼の景色も見ることも出来ない。

 だからこそ、周囲の音や声に耳を澄ませられる。だからこそ、匂いに敏感で季節の訪れも感じられる。だからこそ、視覚だけでは捉えられない些細な変化を感動に変えられる。

 其の事を教えてくれたのは、紛れもなく他者である貴方たちなのだ。

Next