kiliu yoa

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 私の主は、神と揶揄される人だった。彼女は、私よりずっと若いが私より、ずっと大人びた人だった。

 貴方と初めて逢った時、貴方は私の家族を殺した直後だった。あの時の貴方は、割れた黒曜石みたいに鋭く冷たい眼をしていた。私は、貴方と眼があった瞬間、眼の前に貴方が現れ…何かを振り下ろした。其処から記憶は、途切れた。
 気付いた時には、見知らぬ土地に勝手に連れてこられたていた。

 病室みたいな部屋のベットに寝かせられ、身体には包帯が巻かれていた。窓は、開いていて温かい陽の光が差し、心地よいそよ風が白いカーテンと踊っていた。

 開けられた窓からは、子どもの笑い声が聞こえて…起き上がろうとした時だった。ズキッとした強烈な痛みが襲った。其の痛みで、ふと我に返った。此処は、何処だ。一瞬、彼の世かと思った。が、直感が『違う。』と叫んだ。

 どうにか、ゆっくりと身体を動かし、窓を覗いた。


 其処には、僕より幼い子が何人も居た。でも、皆、笑っていた。外で其れは…其れは…楽しそうに遊んでいた。

 私の故郷では、そんなに嬉しそうな…楽しそうな…子どもたちの表情を見たことが無かった。

 

 貴方は、私の名を、私の過去を、生きた時間を、大切な家族を奪った人。でも、多くの子どもたちを救った人でもあった。私も其のひとりだった。

 
 貴方が残虐非道だったら………、貴方が冷酷無比だったら…………、貴方を簡単に憎しみ、恨み、疎み、親の仇を打つが出来たのに。こんなに苦しむことは無かったのに。


 貴方は、何故、そんなに…慈悲深く、暖かく、美しいのだろう。

7/4/2023, 11:16:01 AM