kiliu yoa

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7/2/2023, 2:08:22 PM

 陽の光は、生命の源。しかし、『薬も過ぎれば毒となる』ように、強すぎる日差しは命を少しずつ削り、やがては多くの命を奪う。

 私の村もそうだった。日照りが続き、嘗て豊かだった土地は不毛の荒野になった。

 男たちは、街に奉公に出た。女たちは、少しでも稼ぐために農耕に内職…時には旅商人に身体を売り生計を立てた。子どもは口減らしで大半は売られ、残った子どもは家のことを一通り行いながら赤子をあやした。

 あの頃は、皆、生きることに精一杯だった。

 そんなときに、餓えて死にそうなの旅人さんがこの村を訪れた。

 女たちは村の少ない食料を旅人に分け与え、子どもたちが交代交代に介抱してくれたのだ。

 村の人々のお陰で、旅人さんの身体は順調に回復していき、皆に見送られながら村を後にした。


 その1年後のことだった。旅人さんは、またこの村を訪れた。村の人々に水の引き方に溜め方、乾燥に強い作物の育て方を教えてくれた。また、村の人々に文字を教え、多くの本を与えた。そして、村の人々の生活も少しずつ豊かになり安定していった。

 この頃になると男たちは、街から帰ってきた。私のお父さんも帰って来れるようになった。女たちやお母さんの負担が減って、困ったように笑うんじゃなくて、幸せそうに笑うようになった。子どもたちは、外で遊べるようになった。売られた子どもたちも少しずつ帰ってきた。

 少しずつ村の張り詰めた空気はほぐれ、皆、生き生きしていった。

 旅人さんは、この村を救った英雄でこの村に残り、みんなの先生になった。

 今では、笑顔で溢れる村となった。

 

 


 

 

7/1/2023, 11:05:59 PM

 わたしは、城館から町を見下ろすような夜景しか見れない。陽の光は、眩しくて熱くて痛い。わたしには、陽の光は強すぎて外には殆ど出られない。出られたとしても日傘は勿論、服は黒一色。帽子のつばが広いものしか被れない。

 『仕方ない。』分かってる。分かってる。生まれつきの疾患。私の枷。たまに呪ってしまう。

 それでも、良いことにしてる。其れがわたしだから。

 他者と比較は、確かに良くない。己の欠点を他者と比較し、己を追い詰めるのは、確かに良くない。 

 でも、他者と己を比較し、他者から学び、己をより良くすることは決して悪いことでは無いと思う。

 わたしは確かに他者とは違い、陽の光をまともに浴びることも…昼の景色も見ることも出来ない。

 だからこそ、周囲の音や声に耳を澄ませられる。だからこそ、匂いに敏感で季節の訪れも感じられる。だからこそ、視覚だけでは捉えられない些細な変化を感動に変えられる。

 其の事を教えてくれたのは、紛れもなく他者である貴方たちなのだ。

6/30/2023, 12:05:20 PM

 運命の人は、複数人いると思う。初めての運命の人は、自分を出産してくれた人。人によって、育った境遇も運命の人の数に数え方も異なるだろう。

 私の故郷では、生き方を選べない。私は、親に逆らうことなく生きて来た。親の決めた人と十四、五歳に結婚して子を成し、育て…天寿を全うする。親の云うことを聞き、結婚後は夫に付き従う。其れが女の私の役目。

 私は、優秀だった。幼い頃から、基本的に何でも努力した。生き残りたかったから。此処は、優秀で従順であれば生き残れる。より優秀で従順であれば、より力を有する家に嫁げる。力を有する家は、此処より豊かで穏やかな暮らしが出来る。だから、当時の私は他人を蹴落とすことも裏切ることも躊躇しなかった。酷く冷酷で自己中心的だった。

 もうひとりの運命の人は、嫁いだ人だった。私が嫁いだ人は、親の云うことだけを聞き、従い続けた私とは違った。一族内での、地位を自らの力で築き上げて、盤石なものにした人だった。普段は芯が強く飄々としていて、時には情深く、甘えん坊な人だった。
 
楽な生き方を常に選んできた私には、あまりに不釣り合いな人だった。

 でも、それでも…彼を愛してしまった。愛されたいと望んでしまった。私には、彼を望んで良いほど価値が無いと分かっていたのに。


 彼は、そんな私を愛してくれた。『此の世に無価値な人は居ないよ。それにどんな生き方をしたか。じゃなくて、これからどんな生き方をするかが大切だよ。』と教え、支えてくれた。

 ふたりの運命の人へ、本当にありがとう。


 







6/29/2023, 10:45:13 AM

 『入道雲』そう聞くと身構える。記憶の波に呑まれぬように、必死に記憶を頭の隅に追いやる。呑まれてしまったら、終わりだ。あの時のように、なってしまう。
 抑える方法のうちの一つに、自傷行為がある。恐らく、これが一番手っ取り早く効果的、でも…しない。もうしないと決めた。
 
 わたしにとって、自傷行為は、トラウマから目を逸らす手段に過ぎない。わたしは、目を逸らさず…向き合う。自分と向き合う。少しで良い。少しずつで良い。怖く、恐ろしくて良い。時には、目を逸らすことも大切だと知っている。でも、今は向き合いたい。あの時の自分と…。

 困難は、乗り越えるだけが解決の方法じゃない。無理に乗り越える必要は、決して無いのだ。手段は、ひとつじゃない。自分に合う方法で、解決すれば良い。その方法が、見つかるまで迷い…戸惑い、苦しみ…藻掻けば良い。
 
 生きてさえ…居れば、いつか必ずどうにか成る。今を生きるわたしなら、必ず出来る。やり遂げる。受け入れられる。自分に合う方法を見つけられる。

 そして、今を生きるわたしなら…きっと…きっと…未来を明るく出来る。

6/28/2023, 12:01:41 PM

 虫の音が響く。強く照り付ける陽の光が、肌をジリジリと焼く。陽炎が見えるほど暑い日だった。

 こんな日は、今迄になかった訳では無い。こんな時に外には出ない性分だったが、用が有ったのだ。なんの用かは、忘れてしまった。

 でも、其の帰りの事だった。白き人を見た。其れはそれは、幽霊見たく肌が白く、髪も白い。目を閉じているのに、器用に煙管に火を付けて吸っていたのが印象的な麗人だった。

「どないした、おまえさん。そないなとこに突っ立って、ワレになんか用かいな。」と、澄んだ優しい声で話掛けられた。

 私は、まさか気付いているとは思わず、しどろもどろした。そんな私に気付いたのか、鈴が転がるみたいに高笑いをして…煙管に口付けた。
 
その仕草が、妙に妖艶で…その瞬間だけ鮮明に覚えていた。

 子どもだった私は、「幽霊どすか。」とおずおずと聞いた。

「おまえさんは、幽霊怖いか。」と白き麗人が聞いた。

「怖おす。」と私が応えると。

「そうか…。気ぃつけてな。」と、少し悲しげに微笑み手を振った。

 私は、幼いながらに申し訳なくて「やっぱし怖ない。ほな、また。」と言いなんだか照れくさくて、目を逸らして走った。

白き麗人の顔は見れなかったが、嬉しそうな声で「おおきに。」と聞こえた。



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