kiliu yoa

Open App

 虫の音が響く。強く照り付ける陽の光が、肌をジリジリと焼く。陽炎が見えるほど暑い日だった。

 こんな日は、今迄になかった訳では無い。こんな時に外には出ない性分だったが、用が有ったのだ。なんの用かは、忘れてしまった。

 でも、其の帰りの事だった。白き人を見た。其れはそれは、幽霊見たく肌が白く、髪も白い。目を閉じているのに、器用に煙管に火を付けて吸っていたのが印象的な麗人だった。

「どないした、おまえさん。そないなとこに突っ立って、ワレになんか用かいな。」と、澄んだ優しい声で話掛けられた。

 私は、まさか気付いているとは思わず、しどろもどろした。そんな私に気付いたのか、鈴が転がるみたいに高笑いをして…煙管に口付けた。
 
その仕草が、妙に妖艶で…その瞬間だけ鮮明に覚えていた。

 子どもだった私は、「幽霊どすか。」とおずおずと聞いた。

「おまえさんは、幽霊怖いか。」と白き麗人が聞いた。

「怖おす。」と私が応えると。

「そうか…。気ぃつけてな。」と、少し悲しげに微笑み手を振った。

 私は、幼いながらに申し訳なくて「やっぱし怖ない。ほな、また。」と言いなんだか照れくさくて、目を逸らして走った。

白き麗人の顔は見れなかったが、嬉しそうな声で「おおきに。」と聞こえた。



6/28/2023, 12:01:41 PM