kiliu yoa

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 運命の人は、複数人いると思う。初めての運命の人は、自分を出産してくれた人。人によって、育った境遇も運命の人の数に数え方も異なるだろう。

 私の故郷では、生き方を選べない。私は、親に逆らうことなく生きて来た。親の決めた人と十四、五歳に結婚して子を成し、育て…天寿を全うする。親の云うことを聞き、結婚後は夫に付き従う。其れが女の私の役目。

 私は、優秀だった。幼い頃から、基本的に何でも努力した。生き残りたかったから。此処は、優秀で従順であれば生き残れる。より優秀で従順であれば、より力を有する家に嫁げる。力を有する家は、此処より豊かで穏やかな暮らしが出来る。だから、当時の私は他人を蹴落とすことも裏切ることも躊躇しなかった。酷く冷酷で自己中心的だった。

 もうひとりの運命の人は、嫁いだ人だった。私が嫁いだ人は、親の云うことだけを聞き、従い続けた私とは違った。一族内での、地位を自らの力で築き上げて、盤石なものにした人だった。普段は芯が強く飄々としていて、時には情深く、甘えん坊な人だった。
 
楽な生き方を常に選んできた私には、あまりに不釣り合いな人だった。

 でも、それでも…彼を愛してしまった。愛されたいと望んでしまった。私には、彼を望んで良いほど価値が無いと分かっていたのに。


 彼は、そんな私を愛してくれた。『此の世に無価値な人は居ないよ。それにどんな生き方をしたか。じゃなくて、これからどんな生き方をするかが大切だよ。』と教え、支えてくれた。

 ふたりの運命の人へ、本当にありがとう。


 







6/30/2023, 12:05:20 PM