「一輪のコスモス」
コスモス畑の中から
背の高い君が顔を出す
長い髪が一緒に揺れて
華も一緒に微笑んでいた
うろこ雲が広がる秋空を背に
乙女達の視線はいつまでも可憐に
僕の心をくすぐってくれていた
「秋の恋」
お気に入りのカーディガンを羽織って
いつものカフェのいつもの席で
ホットミルクティーとワッフルと
湊かなえの本を読んでみる
バニラアイスが溶けるのを気にしながら
ミルクティーを一口飲んで
本のページをめくると
銀杏の木漏れ日が差し込んで
時間をゆっくり溶かしてしく
冷めたティーポットとカップがテーブルに並んで
賑やかだった店内がいつのまにか静かになる頃
お会計を済ませて軽く会釈して店を出た
薄暗くなった街に1人
頬を抜ける風は少し肌寒くて
空に浮かぶ青白く光った満月に照らされて
「今すぐに君に会いたい」と心の底から思っていた
「自己防衛」
好きだけど
寝てるかもしれないからやめた
好きだけど
忙しいかもしれないからやめた
好きだけど
返信大変かもしれないからやめた
好きだけど
好みじゃないかもしれないからやめた
好きだけど
重いと思われるかもしれないからやめた
好きだけど
この関係が終わってしまうかもしれないからやめている
すっぱいぶどうを見つけたきつねのように
自分の気持ちを守るために
「静寂の空」
窓を開けると秋風がそよぐ
鈴虫の音色も聞こえてくる
夜の闇で部屋が染まり
秋の夜長の考えごと
落ちてきそうな天井を見つめて
右手を伸ばしてみるけれど
自分のものじゃないみたいに彷徨うだけ
耳元で囁くように
君の名前を口にしても
静寂の空に消えていく
好きという気持ちは
まだ出せずにいる
「観覧車」
もうそろそろ帰らなきゃという君を
最後にもう少しだけと観覧車に誘った
扉が閉まると2人の時間がゆっくりと動き出して
向かい合う君の背景が空に変わっていく
君の頬と足元の公園の木々が赤く染まり
2人が1番高いところに着いたころ
「ほら、あそこ」と指を刺す君に近づいて
少しゴンドラが揺れた時に
思わずしがみついた君との世界が
ほんの少し止まった気がして
思わず「好きです」と呟いた
君は一瞬驚いた目を見せてから俯くと
握った手のひらの鼓動がゴンドラを下ろし始めた
扉が開き夕焼けが夜景に変わるころ
君は真っ先に飛び降りて
僕をゴンドラからひっぱり出しながら
「わたしも」と短く呟いた
観覧車は終わったけれど
2人の世界は今動き出したばかり