終点
夏祭りの帰り、夕方、電車に揺れる君と僕。
そして君の終点駅。
じゃあね、
と笑顔で言う君の顔。
きっと君は寂しいなんて微塵も思っていないだろうな
僕だけが寂しいと思っているなんて、
それこそもっと寂しい。
僕は、寂しい気持ちを抑えて、
家まで送っていこうか?と言う。
大丈夫、
と断った君。
何も言えないまま電車のドアは閉まる。
あそこで送って行けば、君ともう少し居られたのに。
残るのは、後悔と、君の浴衣姿。
家に帰るまでが長く感じた。
想い人が居る君を無理に誘ったのは僕だった。
それなのに、浴衣まで着てきてくれて。
本当に優しいな。
だから甘えてしまうのに。
期待してしまうのに。
夢でもまた、君と祭りに行けるといいな
今度は恋人として。
蝶よ花よ
貴方は蝶よ花よと私を扱ってくれて、
誰よりも、世界一、宇宙一、私を愛してくれる。
そんな貴方が私は好き。
大好きなの。
会うたびに愛が増して、
会えなくても愛は増してく一方で。
そんな事思っていた頃が懐かしい気がする。
貴方が会えなくても、私はいつでも会えるのにね。
何で会えないか。
私はそんなこと聞けなかった、怖かったから。
都合のいい女でありたくなかったから、
都合のいい時だけ呼び出してくる関係が。
でもどんどん泥沼にはまって動けなくなっていく。
そんなの自分でも分かっていた。
だからこそ、早いうちに別れたかった。
だけど、別れを切り出そうとしても切り出せなかった。
だって、怖かったから。
自己中なのかもしれない。
都合のいい時だけ会うのも、
きっと私が都合のいい女だからなのかもしれない。
それでもいい。
もっと早く別れればよかった。
この世に自己中以外の愛があるの?
それなら教えて欲しかった。
これから、
ピアノの調律が狂っていくように、
貴方との関係も狂っていくなんて夢にも思わなかった。
太陽
太陽が登って、
そして沈む。
夜が明けて、
そしてまた夜がやってくる。
帰ったら君がおかえりと言って、
俺がただいま、と言う。
こんな事、当たり前でしかない
当たり前であり、日常であり。
そう思っていたのに、
現に今、ただいま。と言って返ってくる言葉はない。
君が居ない部屋なんて、ずっと夜みたいに暗くて。
今思えば、
君が出迎えてくれるのも、
君が朝起こしてくれるのも、
君が料理を作ってくれるのも、
ちっぽけなように思えてたことも、
全部全部、奇跡のようなものだったのかもしれない。
そうは思っても君は帰ってこない。
俺は、誰もいない暗い部屋にごめん、と零した。
でも、返ってくる言葉はもうなかった。
鐘の音
鐘の音が僕を起こす。
それが毎朝の習慣。
鐘の音が鳴り止む、
そうすると、君はいつも窓から顔を出す。
「リンッ」
鈴の音がする。
それを合図に挨拶をする。
「おはよう」
つまらないことでも
「つまらないことでも、地道にやって行けば、必ず成功するんだよ。お母さんは見てるからね」
8歳の時に母さんが言ってくれた言葉、母さんは覚えてるかな。
ずっと会いにこれなくてごめん。
今、俺はずっと夢だった教師になったよ。
子供たちは皆良い子でさ。
母さんが言ってくれた言葉がなかったら、今の俺はないよ。ありがとう。
それに、俺結婚したんだ。息子も産まれた。お義母さんもお義父さんも優しい人でさ、
俺毎日が幸せなんだ。
なのに、なんか涙が出てくるんだよ
母さんが死んでからもう何十年も経ってるのに
おかしいだろ?
ごめん、子供が呼んでる、また近々会いに来るよ
母さん。