練習

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10/23/2023, 10:49:34 PM

 ターコイズブルーよりも少し落ち着いた君の瞳は、晴天の空によく似ている。いつの頃からか、空を見上げると君のことが頭に浮かぶようになった。
 
#どこまでも続く青い空

10/16/2023, 1:22:04 PM

 君はなかなか写真を撮らせてくれない。今この瞬間の光の加減、空模様、絶対絵になると思っても、写真を撮りたいからそこに立って、などと言えば怪訝な顔をして歩き去る。
 だから撮りたければ、何も告げずにいきなりシャッターを切る。大抵はぶれてしまったり、被写体が近過ぎたり遠過ぎたりで上手くいかないけれど。
 でもお気に入りの一枚もある。これは確か、君の誕生日が近かった日。任務明けに機体から降りてきた時、春霞で淡い青色に染まった、夜明けの空を振り返る瞬間。逆光になってしまって表情はよく見えないけれど、薄雲の向こうからそそぐ柔らかい光に君は包まれている。
 夜の間ずっと張り詰めていた空気が嘘のように、君が降り立った朝のなんと穏やかなことだろう。

#やわらかな光

10/15/2023, 11:37:02 PM

 仕事中、ヘルメットの奥に覗く君の真剣な眼差しに惚れ惚れする。だが周囲の人間からは、君は顔が怖いと評判だ。
 ということは、君のかっこよさに気がついているのは俺だけなんだとーー俺の目にだけそういう風に見えるのだとはわかりつつも、ちょっぴり優越感に浸っている。

#鋭い眼差し

10/15/2023, 6:08:01 AM

 兄は昔から怖いもの知らずで、飛行訓練になると父の静止も聞かず、あっという間に高く舞い上がって見えなくなった。私は万が一途中でバランスを失ったらと思うと怖くて、地上に置いてけぼりを食らっていた。父がついていても屋根から本の数メートルばかり飛び上がったところまでしかいけず、
「そんなに低いと逆に何かにぶつかって危ない」とよく言われた。
 そんな折り、どうして兄はあんなにやすやすと飛べるのかと、一度父に尋ねたことがある。
「お前はどう思う?」
「……自分の技術に自信があるから?」
「確かに、それもあるだろうな。だが恐らく最たる理由は……」父はかがんで声を落とし、近くで訓練の様子を眺めていた母に聞こえないよう耳打ちした。「あれは母親似で好奇心の塊だから、知らない景色を見に行くのが楽しいんだろう。空を見れば高くまで飛ばずにはいられないのさ」
 父は悪戯っぽく笑った。
「お前は父に似たな。慎重なのはよいことだ。だが、怖いからと試してもみないのは、勿体ないぞ」
 そう言った父の背中は大きく、当時の私には、父が空の全てを知り尽くしているかのようにさえ見えていた。自由に飛べるようになった今でも、憧れは色褪せないままだ。

#高く高く

10/12/2023, 11:00:52 PM

 人気のない廊下にパタパタとスリッパの音がしたかと思うと、部室の扉が開いた。
「やっほー」と入ってきた人物に、
「珍しいね」と声をかけた。「今日はバレー部も生徒会もないんだ?」
 彼は三つの部を掛け持ちする忙しい人物だ。当然一番暇なこの部室には、月一来るか来ないかと言ったところ。
「そうそう。バレーは設備点検で体育館使えないから休みになって、生徒会の方も今日俺しかいないからやめた。でもここもいつもより人いないね」
 そう言って部室をキョロキョロと見渡す。ここにいるのは俺と彼を含めて三人。あと一人はいつものように椅子で昼寝をしている。
「二年は?」
「ゲームの発売日だから帰るって」
「なるほど」
「俺も課題したら帰ろうかと思ってたんだけど」
「そうなの?」
「せっかく三年男子揃ったし、フードコートでも行く?」
「いいね」
 流れるように話が進む。学校の近くにあるフードコートは、うちの高校生の溜まり場になっているのだ。
「……ということになったけど」寝ている人物に聞こえるよう少し声を張り上げると、
「勝手に話を進めるな」と彼は薄目を開けた。
「起きてたんだ」
「やっほーがうるさいんだよ」
 面倒くさそうに身体を起こすと、顔にかかった前髪を払う。人付き合いが苦手は彼は、友達同士で駄べるのが好きではなく、普段こういうのは断るタイプだ。しかし、
「嫌なら奢るよ」と言うと、冷めた目で、
「お前に借りをつくると面倒だからいい」と却下された。それから鞄を手に取って立ち上がった。
「準備万端だね」
「気が向いただけだ」
「じゃあ気が変わらないうちに……」
 俺もすぐに机の上に広げていた課題をしまって、三人揃って学校を出た。
 
#放課後

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