おもち

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3/28/2023, 1:25:06 PM

 おやすみとお互いに言い合ったのは10分前の事だった。オレンジの淡い光に浮かび上がる君のつむじをみながら、暖かい温もりを抱きしめていた。ささくれだった今日が浄化されていく。忙しい1日だった。気を張りながら時間に追われると心がすり減って行くのが自分でも分かる。

君の顔が見たいな

後頭部ばかりで顔が見えないさみしさを感じた時、そういえば今日はあんまり顔を見なかったなとふと気づいた。

おかえりと言ってくれた時どんな顔してたかな?
ご飯は美味しい?と聞いてきた時は?
さっきおやすみと言ったときは?

あまりの記憶のなさに呆然としながらつむじに向かってごめんね。ありがとう
と小さくつぶやいた。
明日起きたら顔をみておはようと言おうと心に決めた時、寝息をたてていた君が腕の中でくるりとら回転し、パッと開いた瞳と視線がぶつかった。
「そういう事は目を見ながらいうものでしょ」
と、ちょっと拗ねた様子で僕の目を見上げてやり直しを求めてきた。

僕は思わずふっとこぼれた笑みのまま君の頬を両手でそっと包んだ。
「ただいま。今日のごはんは茄子のあげびたしが一番おいしかった。ごめんね。ありがとう」

君は驚いたように目を見開きながら目を逸らそうとするから頬を包んでいる両手にそっと力を入れ顔を近づける。
「そんなにみつめられたらはずかしい」
思わずと言った様子で真っ赤になりながらぎゅっとめをつむる君をみて僕は声をあげて笑ってしまった。
今日初めて笑った気がした。



   @みつめられると

3/26/2023, 12:44:48 PM

もう少し背が高かったら
黒目が大きかったら
可愛い声だったら
胸が大きかったら

スマホの画面を見ながら口を尖らせている

ねぇしってる?
さっき君があげてた所
僕の君が可愛いと思うところだよ

でもないものねだりの君がかわいいと思うから
僕は絶対に教えてあげないんだ


   @ないものねだり

3/26/2023, 1:28:44 AM

ずっとトモダチだった。
みんなでいると時間を忘れるほど楽しくて
学生時代の休みをほとんどみんなで過ごした

そんなみんなの中の一人だった

卒業が近いたある日、親友の彼氏になった。
慌ただしい日々の中3人でいる事が増えた
黒猫みたいな親友
気まぐれに振り回されながら幸せそうにわらってたのに

今日もトモダチからの連絡がくる。
「仕事の帰りに飲まないか」
今回も黒猫はいないのだろう
気まぐれに疲れ果てた心を私で埋めようとする
ずるいやつ
ただ今でも時間を忘れるほど楽しいの

好きなわけじゃない。
だって私はトモダチだから

この角を曲がったら自宅が見えるはずなのだが、くるりと後ろを向き来た道を戻っていく

自然と笑顔が浮かぶ自分に気づかないふりをしながら



    @好きじゃないのに

3/23/2023, 4:44:10 PM


 3月。突然の人事異動を聞かされて2週間がたった。配属先の急な人員欠損の為、直近の異動でも不満を言わなそうな私を生贄にしたに違いない。

きっと誰でも良かったのだ。普段から気を使いすぎる性格の為、物事をはっきり言えないのを知られている。考えれば考えるほど悲しく悔しい気持ちでいっぱいになる。今の部署でも自分なりに精一杯頑張ってきた。そんな簡単にいなくなっても大丈夫な存在だったのだろうか。

 猶予のない引き継ぎや、送別会、異動先での形式的な挨拶の連続が私の沈んだ気持ちに拍車をかける。

ただただ つらかった。

 慌ただしい日常が続く中、珍しく後輩がちょっといいですかと話かけて来た。また定型の別れの挨拶でもされるのかと笑顔を貼り付けて振り返った。

「何で異動の話受けたんですか」

 彼の目は怒りを訴えていて、予想外の様子にうまく答えが返せず黙ってしまった。

「先輩、自分がどんだけ仕事してたかわかってますか?上が揃いも揃って仕事しない上に先輩に仕事押し付けてたの知ってるんですからね。純粋な先輩の仕事の分配は終わってますけど、あいつらの仕事が滞ってこっちの仕事は何も進まないんですよ!部署が円滑ならいいかと思っていましたが先輩を出すとか本当にバカすぎるっ。今まで黙って見て見ぬふりして来た僕が言う事じゃないんですけど!!」

 私は驚きと理不尽に怒りをぶつけられた不快感と共に、何かを発見したようなスッキリとした気持ちで彼の言葉を受け入れた。
だから彼に返す言葉はこれで正解だったのだと思う。
「私を見ててくれてありがとう」

彼は驚いて目を逸らした後捨て台詞ののうに呟いて去っていった。
「今までありがとございました。すぐに追いつきます」


今の部署で残す所あと2日となった。引き継げる仕事は大体引き継ぎ、これまで自分のしてきたものを形として残せるだけ残していく。
私は精一杯努めていたのだ。
誰がなんと言おうと、部署から追い出されようと私はここでに存在していたのだと自分に言い聞かせる。

「私だって特別な存在だったんだから」





@特別な存在

3/21/2023, 1:09:06 PM

 携帯の画面に「ちょっと聞いてよ」と連絡が来る。その時によって言葉は違うがこれは集合の合図だ。僕は自然と口角が上がるのを止められなかった。

いつものお店に入ればカウンターに呼び出した本人が不機嫌そうな顔をしてグラスを煽っている。
マスターに笑顔を向けて挨拶をすれば、彼女の前にあるワインボトルを持ち上げ3本指を立てている。これはだいぶ荒れそうだなと思いながら隣に座りると、置いてあった新しいグラスに丁寧にワインが注いでくれた。彼女はマスターの滑らかな動きを無言で見ながら僕がグラスに口をつけるのを待っている。
このグラスを置いたら日々ストレスと戦いながらがんばる彼女の愚痴が始まるのだ。
マスターがスッと離れていくのを横目に見ながら彼女の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
これが二人だけの時間の始まりの合図。


@二人ぼっち

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