おもち

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 おやすみとお互いに言い合ったのは10分前の事だった。オレンジの淡い光に浮かび上がる君のつむじをみながら、暖かい温もりを抱きしめていた。ささくれだった今日が浄化されていく。忙しい1日だった。気を張りながら時間に追われると心がすり減って行くのが自分でも分かる。

君の顔が見たいな

後頭部ばかりで顔が見えないさみしさを感じた時、そういえば今日はあんまり顔を見なかったなとふと気づいた。

おかえりと言ってくれた時どんな顔してたかな?
ご飯は美味しい?と聞いてきた時は?
さっきおやすみと言ったときは?

あまりの記憶のなさに呆然としながらつむじに向かってごめんね。ありがとう
と小さくつぶやいた。
明日起きたら顔をみておはようと言おうと心に決めた時、寝息をたてていた君が腕の中でくるりとら回転し、パッと開いた瞳と視線がぶつかった。
「そういう事は目を見ながらいうものでしょ」
と、ちょっと拗ねた様子で僕の目を見上げてやり直しを求めてきた。

僕は思わずふっとこぼれた笑みのまま君の頬を両手でそっと包んだ。
「ただいま。今日のごはんは茄子のあげびたしが一番おいしかった。ごめんね。ありがとう」

君は驚いたように目を見開きながら目を逸らそうとするから頬を包んでいる両手にそっと力を入れ顔を近づける。
「そんなにみつめられたらはずかしい」
思わずと言った様子で真っ赤になりながらぎゅっとめをつむる君をみて僕は声をあげて笑ってしまった。
今日初めて笑った気がした。



   @みつめられると

3/28/2023, 1:25:06 PM