おもち

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 3月。突然の人事異動を聞かされて2週間がたった。配属先の急な人員欠損の為、直近の異動でも不満を言わなそうな私を生贄にしたに違いない。

きっと誰でも良かったのだ。普段から気を使いすぎる性格の為、物事をはっきり言えないのを知られている。考えれば考えるほど悲しく悔しい気持ちでいっぱいになる。今の部署でも自分なりに精一杯頑張ってきた。そんな簡単にいなくなっても大丈夫な存在だったのだろうか。

 猶予のない引き継ぎや、送別会、異動先での形式的な挨拶の連続が私の沈んだ気持ちに拍車をかける。

ただただ つらかった。

 慌ただしい日常が続く中、珍しく後輩がちょっといいですかと話かけて来た。また定型の別れの挨拶でもされるのかと笑顔を貼り付けて振り返った。

「何で異動の話受けたんですか」

 彼の目は怒りを訴えていて、予想外の様子にうまく答えが返せず黙ってしまった。

「先輩、自分がどんだけ仕事してたかわかってますか?上が揃いも揃って仕事しない上に先輩に仕事押し付けてたの知ってるんですからね。純粋な先輩の仕事の分配は終わってますけど、あいつらの仕事が滞ってこっちの仕事は何も進まないんですよ!部署が円滑ならいいかと思っていましたが先輩を出すとか本当にバカすぎるっ。今まで黙って見て見ぬふりして来た僕が言う事じゃないんですけど!!」

 私は驚きと理不尽に怒りをぶつけられた不快感と共に、何かを発見したようなスッキリとした気持ちで彼の言葉を受け入れた。
だから彼に返す言葉はこれで正解だったのだと思う。
「私を見ててくれてありがとう」

彼は驚いて目を逸らした後捨て台詞ののうに呟いて去っていった。
「今までありがとございました。すぐに追いつきます」


今の部署で残す所あと2日となった。引き継げる仕事は大体引き継ぎ、これまで自分のしてきたものを形として残せるだけ残していく。
私は精一杯努めていたのだ。
誰がなんと言おうと、部署から追い出されようと私はここでに存在していたのだと自分に言い聞かせる。

「私だって特別な存在だったんだから」





@特別な存在

3/23/2023, 4:44:10 PM