無名氏

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12/4/2024, 12:52:22 PM

夢と現実

無機質な電子音によって、意識は現実へと引き上げられる。
どうやら夢を見ていたようだ。
──どんな夢を?
数秒前まで確かに像を結んでいた筈の景色は、思考を巡らせたそばからはらはらと崩れていく。
確かなことは、ただ漠然と「夢でよかった」と安堵している自分がいるということだけだ。

眠っている間に見る夢は、心が映し出す現実へのメッセージなのだという。
病気によって見やすい夢があるだとか、夢がきっかけで症状が出る以前に病気が見つかったとかいう話を耳にしたこともある。
記憶の彼方に追いやられてしまった夢もまた、自分に重大な何かを知らせようとしていたのかもしれない。
そう思い至ると、もう少ししぶとく記憶に残っていて欲しいものだ、とつい理不尽な文句をつけたくなってしまう。

12/4/2024, 3:08:41 AM

さよならは言わないで

あの人と過ごした時間は、私の人生において序章の一節に過ぎないだろう。
好きとも嫌いともつかない。
ただ、離れることなど到底考えられなかった。
あの頃の私にとって、確かに世界そのものだったのだ。
あの人にとってはどうだっただろうか。

さよならの代わりに告げられた、たった3文字の言葉が、かつての世界を辛うじて繋ぎとめてしまっている。
今でも心の片隅で再びの邂逅を待ちわびている。
あの人にとってはどうだろうか。
幼い時分の人間関係なんて、ましてや掛けた言葉なんて、きっとすっかり忘れて今を生きているだろう。
だとしたらまるで呪いだ、と静かに溜息を零した。