「夏の忘れ物を探しに」
あの夏に沢山のものを置いてきた気がする。
それは、虫取りに夢中だった童心か、成長するのが楽しみで仕方なかった未来への希望か。
一体どの夏に忘れてきてしまったのだろう。
半袖半ズボンで走り回れるから好きだった夏は、いつしかスーツで歩き回るのが辛いので、鬱陶しいものへと変わっていた。
一体いつの間に、私はかつて持っていたもの達を落としてきてしまったのか。
それとも、落としてきたのではなく、変質してしまったのだろうか。
いずれにせよ、きっとこの忘れ物が見つかる事は無いのだろうと、そんな確信がある。
「8月31日午後5時」
時間は8月31日午後5時。
まだまだ余裕だ。慌てるような時間ではない。
夕飯を食べて風呂に入って、アイスを食べてゲームのデイリーミッションを消化してからが本番だ。
ここで慌てるのは素人の思考なのだ。
時刻は午後9時。
そろそろ机に向かうとしようか。
思ったよりゲームを楽しんでしまったが、些細な問題に過ぎない。
たかが計算ドリルと漢字ノートが半分。
徹夜すれば余裕で終わる。
何度僕がこの修羅場を乗り越えてきたと思っているのか。もはやこの程度は修羅場ではない。
さあ、最後の戦いを始めようか。
時刻は午後、いや午前1時。
予想より1時間かかったが、問題なく課題は終了だ。
完璧なプランだったな。我ながら自分の能力に惚れ惚れしてしまう。
おっと、友人からメッセージが来ている。喜びを分かちあって、気持ちよく明日に備えるとしようか。
――――毎日日記と、計算プリント……?
しまった、毎日日記を忘れていた。最初の3日以降書いてないぞ。だがこんなもの同じような事を適当にでっち上げて書いていけばすぐに終わる。
だが、計算プリント……?
そんなものはランドセルに入ってな……学校に置いてきたのか……!
これはまずい計算外だ。
今から学校に取りに戻るなんて不可能……!
そもそも手元にあったところで、かなりの量があった気がする。
登校前の対処は不可能……!
仕方ない。早起きして学校に向かい、朝の会が始まるまでに仕上げるしかない。
おそらく授業中は爆睡だろうが、宿題を忘れて怒られるよりはマシだ。
そうと決まれば早々に床につくとしよう。
おやすみ、明日の完璧な自分!
翌朝、徹夜をした彼は、早起きどころか寝坊してしまい、遅刻に宿題忘れと、授業中の居眠りでしこたま叱られたのだった。
みんなは宿題、終わったかな?
「ふたり」
夫婦になった今でもずっと考えていることがある。
きっと世の中には、あなた以上に私と相性のいい人がごまんといるんだろうと。
そしてそれはあなたも同じ。
私以上にあなたと相性のいい人がきっとどこかにいる。
だが、それがなんだというのか。
だって私はあなたと出会い、そして恋に落ちてしまったのだから。
どこにいるかもわからぬ最良の人よりも、今目の前にいるあなたの方が大切なのだから。
広い世界の中で私はようやく、心の底から愛せる存在と巡り会いました。
だから私はあなたに伝えるのです。
「私と出会ってくれてありがとう」と。
「心の中の風景は」
小説を書くとは、心の中を文字で表現する事だ。
心にある風景は、本人にしか読めない文字のようなものだ。それを共通言語に変換し、他人にも理解できるようにする行為。それが小説を書くと言うことだろう。
私という人間を構成する心の中の風景を知ってもらうだけでも嬉しいのに、それが評価され、誰かを楽しませたのならばなお嬉しい。
だから書くことは止められない。
たが、いい文を書こうとすれば壁にぶつかる。
それが自身の表現力の限界だ。
私の心の中の風景は、こんなものじゃない!
もっと美しく、神々しいものなのに!
こんな文じゃそれが伝わらない、と。
壁を乗り越えるには、心の中の風景と向き合い、表現力を磨いていくしかない。
こう考えると、小説を書くという事は、心の中の風景をスケッチする事なのかもしれない。
「夏草」
都会の喧騒に疲れた時には、山を眺めるといい。
山には命が溢れている。
人が溢れている都会には、沢山の命を感じるが、山のそれは都会とまた違う。
まず山に足を踏み入れて感じるのは、圧倒的な自然の威圧感だ。
そこには、我らが御先祖が崇めた神性の残滓が、今でも残っている。
その神々しさを見に浴びるだけでも、普段の自分の悩みがどれだけちっぽけなものであるかを知れるはずだ。