大切なもの
誰にでも大切なものがあるよね。
私にも、あなたにも。
何が大切かは人それぞれ。
他人の価値観を否定する権利なんて誰にも無いわ。
私の価値観を否定するのに、私の価値観を否定するあなたの価値観を、それが普通だからと肯定しないといけないのはおかしい話だと思わない?
仕方ないじゃない。全部大切なんだもの。
あなたの髪の毛一本まで私には大切なの!
だから私はあなたの全てが欲しいの。
私のものにしないと、何もかも手の中から離れていってしまうかもしれないから。
あなたの愛が欲しい。あなたの視線を独り占めしたい。あなたの心の中を占拠したい。あなたの腕に包まれたい。あなたの足に挟まれたい。あなたの腸を首に巻きたい。あなたの脳を覗きたい。あなたの心臓とひとつになりたい。
信じてよ、あなたが大切なの。
なのに何故私が犯罪者なの?
私はただ大切なものを手に入れただけ。みんなやってることじゃない!
どうして私の大切なものは手に入れちゃいけないの?
ずるいずるいずるい。
みんな私を否定する。だから私も否定する。私を否定した全てを。
あなた達がそうしてきたように。
「ハッピーエンド」
昔は大団円でハッピーエンドを迎えるアニメが好きだった。
最終話で、主人公とヒロインが一緒に死のうとしたけど、最終的にヒロインだけが死んだ作品があった。
その最終回を観た時、中学生だった僕は心から叫んだ「その終わりはダメだろ…」と。
最後の描写で、主人公はヒロインの歌を聴いて、満足そうに笑っていた。
僕には、その笑顔が寂しさを紛らわせているように見えた。
無理矢理ハッピーエンドっぽくしているだけだろうと当時の僕は思った。僕は二人が幸せそうに暮らす姿だけを望んでいたのだ。
だが十年近く経って、僕はあることを覚えた。
「託す」ということだ。
自分が犠牲になろうとも、想いを誰かに託し、祈りを紡いでいく。そうやって人間はここまで歩いてきたんだと、いつの間にかそんな価値観が僕の中に根付いていた。
今ならヒロインが一人犠牲なった理由も、最後に主人公が笑った理由もわかる気がする。
彼女は想いを託し、主人公はそれを受け取った。そして最後に主人公は、彼女が確かにそこにいた証明である歌を聴いて、彼女から託された想いを感じていたんだ。
必ずしも共に幸せに過ごす終わり方だけがハッピーエンドではないのだと、私の価値観が更新された瞬間だった。
「色とりどり」
十人十色という言葉がある。
人にはその人それぞれ考え方があるという意味らしい。
そんなはずがない。
正義と悪、混沌と調和を併せ持つ人間が、一色の色で表現できるわけがないのだから。
「雪」
雪が降る地方で育った人と、雪が降らない地方で育った人、それぞれが雪に対して抱くイメージは大きく異なる。
大学に進学して地元を離れなければ、そんな当たり前の事にも私は気づけなかっただろう。
私の生まれ育った地元では、冬に雪が降るのは当たり前だった。
ホワイトクリスマスなんて当たり前の事すぎて、何の感慨も湧きはしない。
だが私が進学した大学で出会った友人達は違った。
雪が全く降らない土地で生まれ育った友人達にとって、冬とは寒くなってきて、乾燥で唇がカサカサになる季節でしかなかった。
雪が降れば、私は冬の訪れを感じて季節が巡った事を実感するが、友人の一人は唇が割れて血の味がすると冬の訪れを感じると言った。
同級生で話は合うし、子供の頃に流行ったゲームも漫画もアニメも同じ。
それなのに雪に対するイメージだけが違う。
私が最も人生で価値観のギャップを感じた事件だった。
幸せとはなんだろうか?
不満が無くて望ましい状態?
勘弁してくれよ。私はそんなつまらない解答を求めているんじゃない。
私は、君にとっての幸せとはなんだろうかと聞きたいんだ。
君は自分にとっての幸せを尋ねられて即答できるかい?
即答とまで言わないが、自分にとっての幸せを具体的に定義できるかどうかで、人生の質は変わると私は考えている。
人は生物的に幸せを追い求める傾向にある。
幸せとは、人生という暗闇に燦然と輝く一等星なのだ。
自分が目指すべき一等星までの道のりを理解している人間と、一等星を見つけていない人間では、人生の歩み方も異なる。
もし君が自分の一等星を見つけられていないのならば、まずは一等星には遠くとも、淡く揺らめく光に手を伸ばしてみるといい。
高尚でも高貴でも、人類史上類を見ない独特な物である必要も無い。
重要なのは君の意思で手を伸ばす事。
真っ暗な闇の中でも、燈を灯せば周りが見えてくる。見えたものを次々と辿っていれば、いつか君だけの一等星が見つかるかもしれない。
重視すべきは、最終的に一等星に辿り着く事ではない。
その一等星は本当に辿り着けるかもわからない。そもそも本当に存在しているのかすら怪しいものだ。
しかし、今までの道のりを振り返った時、君が歩んできた軌跡だけは確かにそこに存在する。
もしかしたらその中に、一等星以上に価値のある物が見つかるかもしれない。
君に言いたいのは、ただ自身で選んで歩み続けろという事。
暗闇だからとその場に蹲っていてはいけない。
道は既に存在しているんじゃない。君の歩いた行程が道になるんだ。
創れ、自分だけの道を。そして掴み取れ、君だけの一等星を。