「言い出せなかった「」」
誰かのせいにするのが楽だった。
そうすれば自分の非を認めずに済むから。
どうしようもなくなった時は、黙って泣いていればそのうち許されたから。
そうやってやり過ごして来たから言えなかった。
「ごめんなさい」
「ページをめくる」
そこには無数の本があった。
タイトルは様々な言語で書かれていて、名前はたまに同じものがあったが、内容が同じものは一冊も無い。
一冊たりとも同じ内容の本が無い中で、一つだけ共通点があった。
それは、1ページ目が必ず生で始まり、最後のページは死で終わる事だ。
数多の出会いと別れ、獲得と喪失、愛と憎悪、希望と絶望。
幾多の事象が記される中で、最初と最後のページだけは、例外なく同じ事象が記されていた。
この世界に生まれ落ち、そして死んでいく。
そこは、過去を生きたもの達の人生が記された図書館だった。
そして私は、一冊の本に巡り会う。
その本のタイトルは、私の名前と同じだった。
一ページずつ、私はページをめくる。
よく覚えている事も、まったく覚えてない事も、一切漏らさず私が生まれた瞬間からの出来事が、その本には記されていた。
そして今日のページを読み終わり、次のページをめくると、そこから先は白紙だった。
いつかこの本にも、死というラストが訪れるのだろう。
そして、こうして誰かに読まれる日が来るのだろうか。
わからない、予想もできない。
未来は常に白紙だ。
今後ここに訪れた誰かが、私の本を手に取ってくれますようにと祈り、私は図書館を後にした。
「夏の忘れ物を探しに」
あの夏に沢山のものを置いてきた気がする。
それは、虫取りに夢中だった童心か、成長するのが楽しみで仕方なかった未来への希望か。
一体どの夏に忘れてきてしまったのだろう。
半袖半ズボンで走り回れるから好きだった夏は、いつしかスーツで歩き回るのが辛いので、鬱陶しいものへと変わっていた。
一体いつの間に、私はかつて持っていたもの達を落としてきてしまったのか。
それとも、落としてきたのではなく、変質してしまったのだろうか。
いずれにせよ、きっとこの忘れ物が見つかる事は無いのだろうと、そんな確信がある。
「8月31日午後5時」
時間は8月31日午後5時。
まだまだ余裕だ。慌てるような時間ではない。
夕飯を食べて風呂に入って、アイスを食べてゲームのデイリーミッションを消化してからが本番だ。
ここで慌てるのは素人の思考なのだ。
時刻は午後9時。
そろそろ机に向かうとしようか。
思ったよりゲームを楽しんでしまったが、些細な問題に過ぎない。
たかが計算ドリルと漢字ノートが半分。
徹夜すれば余裕で終わる。
何度僕がこの修羅場を乗り越えてきたと思っているのか。もはやこの程度は修羅場ではない。
さあ、最後の戦いを始めようか。
時刻は午後、いや午前1時。
予想より1時間かかったが、問題なく課題は終了だ。
完璧なプランだったな。我ながら自分の能力に惚れ惚れしてしまう。
おっと、友人からメッセージが来ている。喜びを分かちあって、気持ちよく明日に備えるとしようか。
――――毎日日記と、計算プリント……?
しまった、毎日日記を忘れていた。最初の3日以降書いてないぞ。だがこんなもの同じような事を適当にでっち上げて書いていけばすぐに終わる。
だが、計算プリント……?
そんなものはランドセルに入ってな……学校に置いてきたのか……!
これはまずい計算外だ。
今から学校に取りに戻るなんて不可能……!
そもそも手元にあったところで、かなりの量があった気がする。
登校前の対処は不可能……!
仕方ない。早起きして学校に向かい、朝の会が始まるまでに仕上げるしかない。
おそらく授業中は爆睡だろうが、宿題を忘れて怒られるよりはマシだ。
そうと決まれば早々に床につくとしよう。
おやすみ、明日の完璧な自分!
翌朝、徹夜をした彼は、早起きどころか寝坊してしまい、遅刻に宿題忘れと、授業中の居眠りでしこたま叱られたのだった。
みんなは宿題、終わったかな?
「ふたり」
夫婦になった今でもずっと考えていることがある。
きっと世の中には、あなた以上に私と相性のいい人がごまんといるんだろうと。
そしてそれはあなたも同じ。
私以上にあなたと相性のいい人がきっとどこかにいる。
だが、それがなんだというのか。
だって私はあなたと出会い、そして恋に落ちてしまったのだから。
どこにいるかもわからぬ最良の人よりも、今目の前にいるあなたの方が大切なのだから。
広い世界の中で私はようやく、心の底から愛せる存在と巡り会いました。
だから私はあなたに伝えるのです。
「私と出会ってくれてありがとう」と。