「靴紐」
マジックテープの靴を卒業したのは何歳の時だったかな。
小学生高学年になった頃にお母さんが言った。
「そろそろ靴紐の上履き買う?」
難しそうだったけど、練習してみるとすぐに結べるようになった。
周りも続々とマジックテープから靴紐に移行していって、子供ながらに自分達の成長を感じた瞬間だった。
「答えは、まだ」
全力でやろうと思った色んなものを後回しにしてきた。
テスト勉強、部活の自主練、受験勉強、ゲームのランキング、動画投稿、部屋の掃除、YouTubeで見かけた料理のレシピ。
一度は全力でやろうと思い立った事なのに、実際に他の事が手につかなくなるくらい没入した事は無い。
後回しにしていると言っても、今後取り組む予定が明確にある訳でも無い。
いつになったら全力でやるのか。
その答えは、まだわからない。
「仲間になれなくて」
ずっと友達が欲しかった。
羨ましかった。友達といる人達が。
僕はいつも一人だったのに。
わからない。何が悪かったのか。
気づいた時には僕は一人だった。
僕の周りには誰もいなかった。
みんな僕を無視した。まるで僕の周囲だけぽっかり空いた虚無が存在してみるみたいに。
証明したかった。
僕の存在を。僕の価値を。
だからいつもより暴れ回って、僕の存在をアピールした。何故かみんなが大人しくなる授業中にも僕は皆に声をかけて、練習したダンスを披露した。
せっかく僕が勇気を出したのに、誰も反応しなかった。腹が立ったので、目の前にいた奴を殴った。
腹が立ったんだから当然だ。だってお父さんはよく僕を殴るんだもん。
結局誰も僕を仲間に入れてくれなかった。
お母さんもそうだったんだって。おかしいね、お母さんはいつもお家では大声を出して存在をアピールしてるのに。
「言い出せなかった「」」
誰かのせいにするのが楽だった。
そうすれば自分の非を認めずに済むから。
どうしようもなくなった時は、黙って泣いていればそのうち許されたから。
そうやってやり過ごして来たから言えなかった。
「ごめんなさい」
「ページをめくる」
そこには無数の本があった。
タイトルは様々な言語で書かれていて、名前はたまに同じものがあったが、内容が同じものは一冊も無い。
一冊たりとも同じ内容の本が無い中で、一つだけ共通点があった。
それは、1ページ目が必ず生で始まり、最後のページは死で終わる事だ。
数多の出会いと別れ、獲得と喪失、愛と憎悪、希望と絶望。
幾多の事象が記される中で、最初と最後のページだけは、例外なく同じ事象が記されていた。
この世界に生まれ落ち、そして死んでいく。
そこは、過去を生きたもの達の人生が記された図書館だった。
そして私は、一冊の本に巡り会う。
その本のタイトルは、私の名前と同じだった。
一ページずつ、私はページをめくる。
よく覚えている事も、まったく覚えてない事も、一切漏らさず私が生まれた瞬間からの出来事が、その本には記されていた。
そして今日のページを読み終わり、次のページをめくると、そこから先は白紙だった。
いつかこの本にも、死というラストが訪れるのだろう。
そして、こうして誰かに読まれる日が来るのだろうか。
わからない、予想もできない。
未来は常に白紙だ。
今後ここに訪れた誰かが、私の本を手に取ってくれますようにと祈り、私は図書館を後にした。