Yushiki

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5/24/2023, 11:23:04 AM

毎日が辛くて辛くてしかたがなかったね。
どうして私ばかりがこんな人間なのだろうと、誰かと比べては卑屈になっていたその気持ち、今でもすごく分かるよ。
明日が来るのが不安で、生きていくのが心許なくて、死にたい死にたいと口にしては、何とかそうならずに生きてきてくれたね。
ありがとう。
まだまだ苦しい日々を嘆いては、塞ぎ込んだりする時もあるけれど。
たまに何とかなるや、気にしなくても大丈夫だと、ほんの僅かだけでもそんなふうに考えられるようになったのは、あの時のあなたが何とか頑張って、こうしてここまで居てくれたおかげです。
不甲斐ない私だけれど、それでも、まだ。
どうにかこうにか日々を過ごしています。
今の自分のことはまだ全然好きにはなれないけれど。

 あの頃の不安だった私へ。

 あなたのことが、私は好きだよ。



【あの頃の不安だった私へ】

5/23/2023, 12:37:50 PM

 怖いとか、不安とか、嫌だとか、そういう感覚すら全部、わからなくなるんです。自分は確かにここにいるはずなのに、ここにいる自分をもう一人の自分が外側から見ているような、行動しなきゃいけないのに、頑張らなきゃいけないのに、どんなに俯瞰した自分が命令しても、動いて欲しいはずの自分は動かなくて、それでは駄目なのに、動けないんです。それが堪らなく苦しいのに、立ち向かえないんです。・・・・・・僕は、勇気を出せないんです。


 私の目の前で椅子に座る青年は、長々とそう吐き出したあと、いつしか俯いたまま涙を流していた。

 私はそんな彼を見つめながら、彼の内側から漏れ出るような嗚咽を、ただ黙って聞いていた。

 泣いたからといって、彼の抱えた生きづらさが解決されるわけではないが、それでも。

 それでも今だけは、重くのしかかるような彼の憂いが、少しの間だけでも軽くなればいいと、そう願う。

 人は誰しも逃れられない呪縛を背負う。それは仕方のないことだ。それが、人間というものだ。

 僕には願うことしかできないけれど。
 呪縛は解かれるためにあるのだと、そう信じて、僕は彼と向き合いたい。



【逃れられない呪縛】

5/23/2023, 6:43:53 AM

 私の足元に一本の線が引かれている。線はどこまでも続いていて左右どちらもその果ては見えない。
 私は線をじっと見つめながら、ごくりと唾を飲み込んだ。

 あと一歩。たった一歩、前に踏み出すだけでいい。


「行ってしまうの?」


 すぐ後ろから呼び掛けられる声。どきりと鼓動が鳴った。けれど、私は振り返らない。

「うん、行くよ。私はこの先に進んでいくよ」
「この先に何が待つかも分からないのに?」

 不安と心配が入り混じったような声音だ。
 後ろに立つ彼女は私のことをとても案じてくれている。
 当然だ。
 だって後ろに立つ彼女は、私自身なのだから。

「・・・・・・分からないよ。怖いよ。それでも私は行くよ」

 後ろに立つ彼女が、ニコリと控えめに笑った気がした。

「そう。置いていかれるのは寂しいけれど、あなたのことを応援してるわ」

 私は後ろを振り返った。私が後ろを振り返ったことを意外に思ったのか、戸惑う彼女へそっと片手を差し出す。

「さようなら、昨日までの私。そして、初めまして、これからの私」

 私が言うと彼女の顔がみるみる安堵する。そうして彼女は私の手を取った。彼女の姿がぱっと消え、私の中に染み入るように溶け込んだのがわかる。

「一緒に行こう。明日へ」

 私は再び前を見据えて勢いよく片足を上げた。線の向こう側へ、まだ見ぬ未来へ、私は行く。ここまで歩いてきた自分自身を抱き締めながら。



【昨日へのさよなら、明日との出会い】

5/22/2023, 4:37:42 AM

 広大な湖の水を、小さなスプーン一杯ほど掬う。それを特別な機械に入れてセットし、ボタンを押す。すると、何分後かにその小さな量の水が、見た目でもわかるほどに澄み切った透明な水となって出てくる。
 僕はその結果に確信を持って頷き、再びスプーン一杯ほどの水を湖から掬い上げる。
 何回も何回も。それこそ百回でも千回でも同じ作業を繰り返す。
 そんなことは無理だと。できるわけないと。
 他の人から何度も言われたが、それでもやめない。やめる理由にはならない。

 ここにある湖がこんなにも濁ってしまったのは、僕たち人間のせいだ。
 自らの利権を主張して、相手と話し合いをすることも放棄して、安易に銃を取り、傲慢にも引き金を引いた。そのせいでたくさんの死体がこの湖にも捨てられた。

 昔はとても綺麗な水面が漂い、美しい風景の中にあったはずの場所なのに。

 僕が苦心して開発したこの濾過装置は、一度で全ての不純物を取り除ける優れものだけれど、一回に濾過できる水の量はごく少量だ。

 だから、こうやって何回も繰り返さなければならない。途方もないことであることはわかっている。
 けれど、やらなければいけない。
 そうしなければこの場所は、いつまでたっても死に絶えたままだ。

 そうして僕は繰り返す。この地道な作業を。
 かれこれ千回近くは軽く越えたかもしれない。まだ終わりは見えない。

 だけど、やめない。

 いつかの透明な澄んだ水面が。
 あの日と同じ光景が。
 この手に取り戻せるその日まで。



【透明な水】

5/21/2023, 7:46:43 AM

「僕みたいな奴があなたの隣にいてもいいんでしょうか?」
「君は・・・・・・、私の隣に居たくないの?」
「いえ! そんなことあるわけないじゃないですか!」
「じゃあ、私のこと好きなんだね」
「はい・・・・・・。好きです」
「私もあなたが好き。よくさ、好きになった人が理想のタイプって言うけど、私ね、あれって少し違うんじゃないかと思うの」

 どういう意味だろう。

「だって好きな人の側にいるためなら、自然とその人の理想の人になろうって努力するじゃない?」
「そうかも・・・・・・、しれませんね」
「うん。だからあなたは今、その理想とのギャップに自信をなくしてるのかもしれないけど、そんなことは気にしなくてもいいんだよ。だって私は──、頑張ってるあなたが大好きなんだもの」

 私にとっての理想のあなたは、いまこの瞬間の君だよ。そんなことを満面の笑顔で言われたら、悩んでいたことが吹っ飛んでしまった。



【理想のあなた】

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