怖いとか、不安とか、嫌だとか、そういう感覚すら全部、わからなくなるんです。自分は確かにここにいるはずなのに、ここにいる自分をもう一人の自分が外側から見ているような、行動しなきゃいけないのに、頑張らなきゃいけないのに、どんなに俯瞰した自分が命令しても、動いて欲しいはずの自分は動かなくて、それでは駄目なのに、動けないんです。それが堪らなく苦しいのに、立ち向かえないんです。・・・・・・僕は、勇気を出せないんです。
私の目の前で椅子に座る青年は、長々とそう吐き出したあと、いつしか俯いたまま涙を流していた。
私はそんな彼を見つめながら、彼の内側から漏れ出るような嗚咽を、ただ黙って聞いていた。
泣いたからといって、彼の抱えた生きづらさが解決されるわけではないが、それでも。
それでも今だけは、重くのしかかるような彼の憂いが、少しの間だけでも軽くなればいいと、そう願う。
人は誰しも逃れられない呪縛を背負う。それは仕方のないことだ。それが、人間というものだ。
僕には願うことしかできないけれど。
呪縛は解かれるためにあるのだと、そう信じて、僕は彼と向き合いたい。
【逃れられない呪縛】
5/23/2023, 12:37:50 PM