広大な湖の水を、小さなスプーン一杯ほど掬う。それを特別な機械に入れてセットし、ボタンを押す。すると、何分後かにその小さな量の水が、見た目でもわかるほどに澄み切った透明な水となって出てくる。
僕はその結果に確信を持って頷き、再びスプーン一杯ほどの水を湖から掬い上げる。
何回も何回も。それこそ百回でも千回でも同じ作業を繰り返す。
そんなことは無理だと。できるわけないと。
他の人から何度も言われたが、それでもやめない。やめる理由にはならない。
ここにある湖がこんなにも濁ってしまったのは、僕たち人間のせいだ。
自らの利権を主張して、相手と話し合いをすることも放棄して、安易に銃を取り、傲慢にも引き金を引いた。そのせいでたくさんの死体がこの湖にも捨てられた。
昔はとても綺麗な水面が漂い、美しい風景の中にあったはずの場所なのに。
僕が苦心して開発したこの濾過装置は、一度で全ての不純物を取り除ける優れものだけれど、一回に濾過できる水の量はごく少量だ。
だから、こうやって何回も繰り返さなければならない。途方もないことであることはわかっている。
けれど、やらなければいけない。
そうしなければこの場所は、いつまでたっても死に絶えたままだ。
そうして僕は繰り返す。この地道な作業を。
かれこれ千回近くは軽く越えたかもしれない。まだ終わりは見えない。
だけど、やめない。
いつかの透明な澄んだ水面が。
あの日と同じ光景が。
この手に取り戻せるその日まで。
【透明な水】
5/22/2023, 4:37:42 AM