僕は大空を飛んでいた。
すぐ眼下には白い雲。
澄み切った青色が、見渡す限りに広がっている。
僕はどこまでも自由で、どこへでも行ける。
それが嬉しくて、誇らしくて。
この光景がいつまでも続けばいいのにと、そう願った──。
きっとあれが、きっかけだったのだろう。
実際は自分で自由にどこへでも飛んでいくなんて、それこそ夢のまた夢だけど。
けれどあの時に感じた嬉しさと誇らしさは、大人になった今でも同じだった。
僕は操縦桿を握る手に力を込める。
さあ、行こう。いつか見た夢の光景へ。
【こんな夢を見た】
ガツン、ガツン、ガツン。
何度も何度も重いハンマーを打ち下ろす。
外装には私の知らない最新の技術が施してあると聞いていたから、そう簡単にはいかないかもなと思っていたのに、案外そうでもなかった。
ガツン、ガツン、ガツン。
装甲が剥がれ落ちていくさまは何ともあっけない。
人類の最たる叡智だとか、未来への新たなる希望だとか、そんな陳腐な文言ばかり並べ立て、連日マスコミが持て囃していたけれど。
何てことは無い。
どう呼ぼうとも、所詮は人間に生み出されたただの機械だ。
「貴様、何をしている──!!」
薄暗かった室内が懐中電灯の灯りに照らされた。暗さに慣れていた目が一瞬眩む。
光の発生源を目で追えば、警備員らしき二人組がこちらを驚愕した表情で見つめていた。
「それが何だか分かっているのか!?」
警備員の一人がこちらへ問い質す。
どうやら私の顔までは、はっきりと認識していないらしい。
「世界初のタイムマシーンだぞ」
「それが何だと言うの」
心はひどく冷め切っていた。私は再びハンマーを振り上げて叩きつける。
ガツン、ガツン、ガシャン、ガシャン。
「こんなものが誕生してしまったら、人はダメになる」
ガシャン、ガシャン、ガシャン、バキッ。
「人生で迷うことが無くなったら、人はどんどん退化するしかない」
タイムマシーンの完成は、私にとって人生の念願だったけれど。
「私は未来で見てきたの」
人の世に顕現させるには、きっとまだ早過ぎたのだ。
【タイムマシーン】
最初に見た時からこれはもう好きだなと思った。
そう確信したらその気持ちが止まらなくなって、どんどんのめり込んでいった。
もっと先へ先へ進みたいと夢中になり、気付いたら時間が過ぎていることも忘れ去っていた。
──ああ、良かった。
他に言葉はない。
ただ、それだけを思う。
時刻はもう深夜を回っていた。
何となく照明を淡いオレンジ灯に切り換えた部屋の中で、ブランケットを頭からかぶりソファーで膝を抱えながら、少しだけまだ潤んでいる目元をティッシュで拭う。
なんて素晴らしい話だったのだろう。
クオリティーも演出も最高だった。
ついつい最終回までイッキ見してしまった背徳感が多少はあるものの、今日は良作に出会えた特別で最高な夜となった。
この感動の余韻に浸りながら、今夜はこのまま眠るとしよう。
【特別な夜】
地上には自分の居場所など、どこにもないような気がした。誰かと誰かが笑っている顔も、誰かと誰かが楽しそうに喋っている様子も、何もかもが羨ましくて嫌だった。
静かな場所で一人きりなりたくて、深い海の底まで落ちてみることにした。光も届かず音もない深海は、きっと孤独を求めようとする僕みたいな奴には性に合っているんじゃないかと思ったのだ。
そうして沈んでみたら、予想は裏切られた。
深海は怖いくらいに広く安らかさに包まれているように見えて、実際はとても冷たく苛酷な世界であったのだと知る。
どうやら僕の背に背負うには、海の底の水はひどく重すぎたらしい。
【海の底】
君に会いたくてたまらない。
今すぐ君の元まで駆け出して、君をこの腕で思いっきり抱き締めたいのに、私の元には絶対に来ないでと君は言う。
仕方がないので僕はゆっくりと目を瞑り手を合わす。
私の分まで目いっぱい幸せになって、目いっぱい楽しんで、目いっぱい生きて生きて生きて生きてから、そうしたら会いに来ていいわよと、遠くの空で笑う君の顔が目蓋に浮かんだ。
【君に会いたくて】