『ルール』
私は毎日、多くの患者さんの対応に追われ忙しく動いている。そんな中、診療科外来の窓口には時々怒りをあらわにした人がやって来る。
「予約時間が過ぎてるのに、まだ呼ばれないじゃないか!」
大変お待たせして申し訳ありません‥と言いつつ予約時間を確認すると、超過は30分。こんな事患者さんには言えないが、予約時間はあくまで目安。絶対にその時間になんて約束は出来ない。
「もう1時間も待ってるんだけど」今日も窓口に患者さんが来た。状況をPCで確認すると、受付時間が予約より8分遅れの来院だった。
すみません、受付で予約時間が過ぎておりましたので次の方をお呼びしております。予約時間は守って頂かないと‥
『たとえ間違いだったとしても』
ずっと前から決めていたの。私の人前結婚式であなたに司会のアシスタントして貰おうって。分かってた、あがり症のあなたがそう言うこと凄く苦手だって事も。でもね、どうしても親友のあなたにして欲しくて我が儘言ったの。
最初にその話しをした時、固まってしまったあなた。でも直ぐに真剣な顔して「分かった、頑張る」って、嬉しかったなあ。リハーサルで上手く出来なくて涙浮かべてたけど、別に上手とか下手とか関係なくて、あなたがそれを引き受けてくれた事に意味がある。
実は先輩に「‥その人選、間違ってない?」なんて
言われたわ。だからそんなこと無いです、って答えたの。たとえ人にはそう見えても、あなたを選んだのは私。誰にも何も言わせないんだから。
『雫』
ふらっと立ち寄ったリユースショップで、前から欲しかった雫型のペンダントを見付けた。大きさも色合いも値段も丁度いい。きっとあの紺色のワンピースに合わせたら似合うかも。
お気に入りのワンピースを着て、早速ペンダントを付けてみる。うん。やっぱり似合う!嬉しくてそのまま今度は夕飯の買い出しへ向かった。
ところがそれから記憶が無い。
気付くと夕暮れの川原にひとり佇んでいた。私はどうしてここにいるのだろう‥。途方に暮れて辺りを見ると足元に何か光る物がある。あ、さっき買った雫型と同じ物だ。しかもこれはブレスレット?私は土から半分出ているチェーンを思い切り引っ張った。するとブレスレットと一緒に、骨になった左手が出て来た。
『何もいらない』
おじいちゃんが縁側に座ってコップ酒をのんでいる。ひとり静かに物思いにふけるおじいちゃんは、一体何を考えているんだろう。気になる私は声を掛けた。「おお、みゆきか。まあ、座れ。みゆきも一緒に見るか?」
おじいちゃんは家々の向こうにある山を指差した。
「春の山だ」見ると白や黄やピンクの花々が山を彩っている。葉も黄緑から深緑まで様々で、山全体が淡いパステルカラーで覆われていた。毎日見ていたはずなのに全然気付かなかった。
「春の山は一瞬で過ぎる。今日は山見酒だ」愛おしそうに眺めながらおじいちゃんはゆっくりと酒をのんだ。あ、何かおつまみ持って来るね、の私の言葉におじいちゃんは「この春山がつまみだから何もいらないよ」と言った。
『もしも未来を見れるなら』
夕方、その占い屋は路地裏にひっそりと店を構える。白い布を掛けた小さなテーブルと椅子が1つ。
時々薄明かりの中で、お客と2人額を寄せ合う姿が見えた。そこを通る度に気になる自分が居る。だったらいっその事、一度見て貰ったらいいじゃないか。
「いらっしゃいませ」
椅子に座り、占いは初めてだと告げると「では、未来を見ますね」占い師はそう言い、何本もの長い棒をじゃらじゃらと鳴らした。「2年後にはご結婚され、」そうですか!「お子さんは2人です」そうですか!
それから‥と占い師が続ける。「良き事もあれば
悪き事もございます。そちらはどうしましょう?」確かに。悪い事だってこれから起こる。だが急いで知る必要は無い。今は明るい未来が見られればそれでいいのだ。