水晶

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『何もいらない』

おじいちゃんが縁側に座ってコップ酒をのんでいる。ひとり静かに物思いにふけるおじいちゃんは、一体何を考えているんだろう。気になる私は声を掛けた。「おお、みゆきか。まあ、座れ。みゆきも一緒に見るか?」

おじいちゃんは家々の向こうにある山を指差した。
「春の山だ」見ると白や黄やピンクの花々が山を彩っている。葉も黄緑から深緑まで様々で、山全体が淡いパステルカラーで覆われていた。毎日見ていたはずなのに全然気付かなかった。

「春の山は一瞬で過ぎる。今日は山見酒だ」愛おしそうに眺めながらおじいちゃんはゆっくりと酒をのんだ。あ、何かおつまみ持って来るね、の私の言葉におじいちゃんは「この春山がつまみだから何もいらないよ」と言った。

4/21/2024, 8:34:48 AM