《誰しもが主人公だ》
その言葉を放つ人間の大半はちゃんと主人公のような人生を歩めたんだろう
然し残酷ながらこの世の中というのは大半がモブで出来ている
その人が死んでもフルネームが後世に遺る事は決してない
身内が嘆き悲しみ啜り泣いて葬式を行ったとしても
半世紀くらい時が経てば名前を思い出すのも困難だろう
墓に彫られるのは苗字であり“その一族が生きた証”でしかなくて
その中の何人の名前を覚えていられるかと問われれば大半が“覚えてる訳がない”と言う
それが“モブ”だ
誰にも名前を覚えられる事も無い
小説で言えば容姿こそ端的に書かれても名前までは出てこない
アニメで言えばワンシーンの一部に溶け込むだけで声を当てられたら幸運くらいだ
豪華声優が当てられるネームドやネームドモブにもなれない存在がモブだ
じゃあモブは本当に景色でしかないのだろうか?
声も持たない、心も無い、価値も無い、誰の中にも遺らない
本当にそう思えるだろうか?
自分の人生を見返して欲しい
何か素晴らしい事をやり遂げたか?
誰かの人生を大きく変えれたのか?
後世に繋げれる物を生み出せたか?
結局自分だって半世紀後には名前も覚えられてないモブなのだ
そんな“名前を遺せる事を何一つ成し遂げてないモブ”にも人生がある
この作品に名前すら載せてもらないモブにも人生がある
メインじゃない存在にも一丁前に生きて死ぬ過程がある
ソレを綴るだけの作品を創る自分もモブでしかない
だから書きたかった
少々モブにお付き合いください
【鳳凰帳~名も知らぬ戦士達~】
《獲麟衆》
鳳団が獲麟衆を攻め込む事が決まった
獲麟衆の面々はピリピリとした緊張感に包まれながらも各々がどう動くかを話し合い
名前を覚えてもらってるかも怪しいモブ構成員は命令に従うのみだった
『みんな、小型モーターは持った?あと護身用の武器は必ず持つ事、仕掛ける爆弾は雑でも良いから一定区画で置いてこう。』
捨て駒のように扱われるモブ構成員に指示を出すふわふわ金髪の優しげな好青年は皆の腰にきちんと小型モーターが付けられてるか、一定数の小型爆弾を持ててるかを確認してく
モブ構成員が強い鳳団団員と戦っても即死するだけ
だから小型モーターで受信機を狂わせながら各々が鳳団拠点に向かうように爆弾を仕掛けて時間を見計らいながら爆発させていく
そうする事で鳳団拠点にも獲麟衆が向かってると思わせ、少しでも獲麟衆アジトに流れ込む鳳団を分散させる作戦
無論、見つかり次第殺される
「……死にたくないです…。」
だから自分は零した
本来ならこのタイミングで口にしてはいけない言葉だ
獲麟衆に身を置いた者として発してはいけない言葉だ
でも小型爆弾の詰まったリュックの重みがあまりにも生々しくて
つい零してしまった
「死にたくないです。」
言葉と涙が止まらない
今から戦場に近い空間に放り込まれる
小型爆弾の入った荷物に弾丸が入れば自分は爆散する
獲麟衆よりもデカい組織である鳳団の面々に見つからない保証なんて何処にも無い
自分が生き残れる保証なんて無い
ネガティブ思考がこれでもかと脳みそを包んでしまえば足が震えて今にも膝から崩れ落ちそうになる
『×××くん…』
白と黒のリボンで前髪を留めた好青年が自分に近付く
息をするのが苦しい自分を彼は抱き締めた
『いつでも逃げていいよ』
獲麟衆の幹部直属隊が伝えるべき言葉では無いものが耳に入れば困惑するしかなかった
『オレも死にたくないもん』
そう言って笑う彼の手も少し震えている
『守る為に生きるんだよ、死ぬ為に生きるんじゃないんだよ』
手を優しく握られながら伝えられる
『だから怖くなったらすぐに逃げていいの』
小型爆弾の詰まったリュックの上に乗っていたプレッシャーがゆっくりと解けていく
“逃げていい”という言葉は戦地に赴く自分にとって1番欲しかった言葉だ
叱咤激励よりも
逃げ出したいと心の底から願ってしまう自分を認めてもらいたかった
「でも…でも…。」
『大丈夫』
緊張のせいで穴という穴から吹き出した汗でジットリとした髪の毛を優しく撫でられる
せめて何か貢献してから死ねと追い詰めていたのは自分だったのかもしれない
『みんな!生きよう!怖くなったらいつでも爆弾もモーターも置いてっていい!全力で走ろう!オレらがやるのはあくまで時間稼ぎ!死ぬ為に行くんじゃない!生き抜こう!』
笑顔で周りに居るモブ構成員にも伝える好青年も小型爆弾の入ったリュックを背負った
そして一人一人にハグして回る
小さく聞こえる各々の名前と“生きて”という言葉
覚悟が決まるキッカケというのは思いの外小さいのかもしれない
《鳳団》
鳳団が獲麟衆を攻め込む事が決まった
中には拠点に残る班員も居れば
残らずに敵と対峙しに行く班員も居る
自分は後者だ
上司の指示を聞く為の小型無線機を耳に付けて各々の得意武器を手に取る
この日の為に何度も訓練をした
何度も血を飲むような訓練を繰り返した
だが敵は“獲麟衆”
明確な戦力は愚か何人の構成員が居るのかも不透明
なんなら台頭の一人が獲麟衆を相手にして欠損したとまで聞く
きっと自分達だけでは勝てない
脳裏に過ぎる言葉を無理やり追い出すように首を横に振った
自分達だけじゃない
何人も仲間が居る
心強い支部長も台頭も居る
自分達は一人じゃない
「おい、手が震えてんぞ?」
「安心しろよ、武者震いだ」
簡単な言葉で団員同士で緊張を解しあった
自分達は一人じゃない
死ぬのなら1人でも獲麟衆を持ってって死ね
俺らがやるべき事は獲麟衆という巨悪を滅ぼす事
それ以外考えるな
震える手は未だ収まらないまま
戦いは始まる
《獲麟衆》
「ハッハッハッ……。」
懸命に獲麟衆アジトから距離を取るように走る
小型爆弾が詰められた重いリュックはもうそろそろ空になる
もう手で持った方が早いと判断してからは両手で抱えながら走った
小型モーターがザザザッと音を鳴らす度に口角が上がる
小型モーターの電波が受信機の電波とぶつかり鳳団の指示を邪魔してるからだ
音が鳴るという事は確実に電波障害を起こしてるのが分かる
“してやったり”と思いながら鳳団拠点に走った
鳳団拠点に近付けば近付く程見つかる確率は上がる
何人がどのくらいの距離で立ち止まるかを考えると自分はもっと近付くべきだと判断した
『死にたくないです』
そう放ったモブ構成員が居たから
尚更近付かなければと無理やり足を動かす
『生きて』
そりゃぁ生きたいとも
生きたいさ
なんだかんだ言って死ぬ気なんてサラサラ無い
でも何も成せずに生きたくない
俺はきっと大馬鹿野郎だ
獲麟衆に何もかもを与えられた訳でもないし
名前すら覚えて貰ってるかも分からない
でも走るんだ
走るんだよ
自分の名前を口にして生きてって言ってくれるような“お人好し”が一人でも居る獲麟衆の為に
『動くな!!』
『持ってる物を捨てろ!!』
既に一般市民の避難が終わった道を走ってれば鳳団団員の声が聞こえる
ソレで全部捨てる訳が無いだろ
「おーおーおー!随分大人数で大したこった!」
あえて煽るような口振りを見せてから対峙するように足を止める
銃口が無数もこちらに向いてる
「良いよなテメェらは!正義の為なら一人二人殺しても賞賛されるだけだ!」
そう絶叫してから奴らに突っ込む
奴らが無線を使用するが無駄だ
銃弾を何発も撃ち込まれても無駄だ
誰にも賞賛されなくても構わない
名前が遺らなくても体が遺らなくても構わない
「コレが俺の生き様だ!こんがり焼けろや正義共!!」
小型爆弾と言っても遠くに居る鳳団の視界に映るほどの高火力のものだ
一人の男は小型爆弾のスイッチを押した
××××年××月××日
鳳団一般団員8名死亡
鳳団一般団員4名重症
性別は男性
年齢は24歳
獲麟衆構成員1名死亡
《鳳団》
「無線機はダメ!?」
「ダメです!ノイズが酷くて使い物になりません!」
「クソッ!!」
鳳団の動きに亀裂が入り始めたのは獲麟衆アジトへの道中の3分の1も行けてない場所だ
無線機に酷いノイズが走り支部長の声が上手く聞こえない
最初こそは上手く踏み出せて分散しながら敵を殲滅しようとした
いくら進むべき道がハッキリしていても順調に動けてるかを報告し合えなければどう動けば良いか分からなくなる
「とりあえず進もう!仲間を信じるんだ!」
必死に鼓舞するも1度不穏を感じ取れば足並みは崩れていく
本当に進んでいいのか?
このまま進んで一般団員のみ先に獲麟衆に着いてしまったら?
サポートも何も出来ずに死んでしまうのか?
空気が変わるのが即座に分かる
「ッ……自分を信じろ!!」
大声で叫んだ
強い仲間…支部長や台頭に何処か凭れてた一般団員に叫ぶ
「私達の努力は決して無駄にはならない!足を進めろ!少しでも多く獲麟衆の人間を殺せ!!」
そう言って無理やり引き摺るようにグループで動く
武器を握る力が強くなる
強過ぎる光は時に濃い影を生む
今自分達が立つ場所は影なのか
はたまた光が射し込んでるのか
そんな事も分からなくなった
「進め!鳳団の名にかけて!!」
それでも鳳団は動かなければならない
自分の成すべき事が光であると信じて
進まなければいけない
いつまで強い光を眺めるだけでいるつもりだ
いつまで憧れの存在と同じ空間に居れるだけで満足してるつもりだ
強い光になれ
憧れの存在と肩を並べろ
それくらいの気持ちを持たずして
赤いラインの入った隊服を着るな
《獲麟衆》
無理だった
鳳団拠点が近付くと同時に心臓が煩くなり
足が震えて上手く走れなくなり
今はもう物陰に隠れてるだけで精一杯だ
まだまだリュックには小型爆弾が半分も残ってる
つまり半分しか仕掛けられてない
「死ぬ…死ぬ…もう死ぬんだ…。」
自分もあの場で“死にたくない”と言えば良かった
そう思ってももう遅い
最初こそは“いつでも逃げていいんだから”と誤魔化せてた
でもいざ銃声が聞こえると“死”というものが明確に頭に浮かぶ
気楽にやって良いものじゃなかった
「に、にげ、逃げていい、逃げていい。」
そう言いながら震える足を無理やり立ち上がらせる
まだ小型爆弾が残りに残ったリュックを見た
でもすぐに目を離した
獲麟衆に居る時点で自分は死んだようなものだ
鳳団に投降しても運が良くて終身刑だろう
怖い
怖い
怖い
怖い
震えなんか忘れて懸命に獲麟衆アジトからも鳳団拠点からも離れるように走った
きっと後々罪悪感が膨れていくだろう
でも今は生存欲に支配されてた
とりあえず逃げ出したかった
いつ死ぬかも分からない現状から逃げたかっ
キ"ャンッ
背中を強く押されたような感覚を覚えた
その勢いで前に倒れる
何が起きたのかも分からずに自分の胸に触れた
その手は赤く染まっている
『獲麟衆と思わしき人物を発見』
『…あぁ…やっぱり無線はダメだな』
『仕方ない、何をするか分からないんだ』
『胸に当たってる、長くない』
『楽にしてやれ』
ジクジクと響く痛みと溢れるアドレナリンが殴り合って
勝ったのは激痛だ
「ぅ…ぅあ…あぁあア"ァアァァ"アァ!!!!」
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
そう思いながら小型爆弾のスイッチをがむしゃらに押す
だが自分が離れてしまったせいで自分に向けられる銃口が消える事は無かった
××××年××月××日
性別は女性
年齢は21歳
獲麟衆構成員1名死亡
《鳳団》
1人の女性と対峙する
こちらは鳳団の隊服を纏う10名のグループ
対して目の前の女はワイシャツにスラックスというパッと見一般市民の服装をしている
だが一般市民の避難は既に終わらせた
つまり目の前の女は確実に“一般市民ではない”
「投降しろ。」
銃口を向けながら伝えれば女性は両手を上げた
円を描くように包囲してからゆっくりと近付く
そして手首に拘束具を付けてから地面にしゃがませた
それでも尚、銃口は女性を逃さない
「随分と大人しいな。」
『…フフッ』
「何がおかしい!!」
女性は含み笑いを浮かべた
こんな戦場で余裕綽々な獲麟衆に苛立ちを隠せず胸倉を掴み怒号を飛ばす
ワイシャツのボタンが弾けて黒い下着が露になる
それと同時に
柔らかな胸にくい込んだ小型爆弾が視界に映った
「総員退h」
言い切る前に女性は口内に隠してたスイッチを舌の上に乗せて前歯で押した
××××年××月××日
性別は男性
年齢は27歳
性別は男性
年齢は25歳
性別は男性
年齢は24歳
性別は男性
年齢は22歳
性別は男性
年齢は20歳
性別は男性
年齢は19歳
性別は女性
年齢は25歳
性別は女性
年齢は24歳
性別は女性
年齢は22歳
性別は女性
年齢は18歳
鳳団一般団員10名死亡
獲麟衆構成員1名死亡
《獲麟衆》
仲間は無事だろうか
なんて思いながら小型爆弾を1つ仕掛ける
精巧に作られた小型爆弾は女性の掌でも簡単に包める程だ
こんなに小さくても建物の一部を破壊して赤い炎と黒煙を出せるくらいの威力が出る
付け方次第では建物を倒壊させる事も可能だろう
「ふぅ、やっと残り2個か。」
掌に乗せられた小型爆弾を見ては鳳団拠点を眺めた
いつ見付かってもおかしくないのに心は酷く穏やかだ
自分が手を汚しに汚した事は充分理解してる
だからこそ自分が死んでも自業自得だと理解してた
「さぁて、ちょっとだけイタズラしに行くか。」
その一言と共に鳳団拠点を目指して走る
最後に嬉しい言葉と温もりを貰った
汚れた自分にも優しくしてくれる存在が居る
本来なら子供が居てもおかしくない自分が10も歳下の若造の一言一行動で満足させられるとは思わなかった
金だけじゃ満たせないものがある
ソレを教えてくれたのは紛れもなく獲麟衆だ
『止まれ!!』
鳳団拠点に武器を持つ人間が居るのは重々承知
さぁ撃て撃て
自分も拳銃を取り出して応戦する
お前らは“殺すしかない犯罪者”しか殺した事無いかもしれないが
こちとら身分関係無しに殺してきた男だぞ
撃たれる覚悟も撃つ覚悟もこっちのが上だ
前線張ってる奴らと違わねぇだろ
「ハッハッハッハッ!!まだ死ぬのが怖ぇかガキ共!!」
盛大に笑って鳳団拠点を囲む一般団員に突っ込んだ
身体中から血が吹き出す中でスイッチを押す
いつ死んでも構わねぇ
無敵の人間は怖いだろ
なぁ
鳳団
××××年××月××日
鳳団一般団員28名死亡
鳳団一般団員5名重症
鳳団一般団員8名軽傷
性別は男性
年齢は34歳
獲麟衆構成員1名死亡
《鳳団》
憧れの人が居た
その人は前線を駆けるべき人だった
自分もその中の一人として生きている
その事が何よりも誇らしくて
どんな大義を成し遂げるよりも嬉しかった
「獲麟衆の人間、何人殺した?」
「5名です。」
「ふんふん、良い感じ。」
ほぼほぼ使えなくなった無線で上司に報告出来ないのは悔やまれるが
自分が少しでも貢献出来てる事が数字で表されるのが嬉しい
長いポニーテールは憧れの人を真似て伸ばしてるものだ
女性の台頭なんて憧れでしかない
事情は勿論知ってる
それでも毅然と律する様は1一般団員として尊敬して止まない
「どんどん行くぞ!」
あの方に直接褒められる事があるかは分からないが
自分の功績に少しばかり口角を上げてくださればそれで良い
その気持ちで歩き出した瞬間
耳を劈く爆発音と共に目の前が暗くなった
「…ぅ…うぅ…。」
爆風に吹き飛ばされて背中を強打した自分は少しばかり気を失っていたようだ
まさか一般市民が避難した建物に爆弾が仕掛けられてたなんて思いもしなかった
もしかして誘導?
それともそういう能力?
冷静に分析しようと頭を回しながらゆっくりと立ち上がり瞬きを繰り返す
「皆…大丈……。」
言葉を失った
自分が率いてたグループの大半が血に溺れ地面には腕や足がゴロンと転がってる
自分の視界が赤く染まったから頭に手を添えた
どうやら強打したのは背中だけじゃないようだ
引き摺るように肉片になってない仲間に近付く
「起きて…まだ…まだ終わってない…。」
軽く揺さぶってからその体が冷たい事に気付いた
1人、また1人と触れるが生きてるのは2人
自分と1人だけだ
グループの人数は?
武器は壊れてない?
まだ動けるのは自分だけ?
段々と自分が何をしてるのかを理解した
戦場の前線に自分は居る
生命を賭けて戦ってる
何処かで慢心していた
正義側の自分達は勝利する
だから自分達も大丈夫
なんて浅はかな考えだろう
向こうが正々堂々と向かってくる理由なんて何処にも無いのに
「た、立たなきゃ…やらなきゃ…少しでも…少しでも…。」
満身創痍の心身を無理やり立たせる
まだ生きてる団員が居る
今から背負って鳳団拠点に向かえば間に合うか?
否、今の自分じゃ無理だ
「かく…獲麟……かk…。」
ガクンと膝が折れた
ドクドクと流れる血が止まらない
意識が朦朧とする
待ってくれ
頼む、動いてくれ
少しでも多く貢献させてくれ
頼むから
お願いだから
お願いだから
××××年××月××日
性別は女性
年齢は23歳
性別は女性
年齢は23歳
性別は女性
年齢は20歳
性別は男性
年齢は26歳
性別は男性
年齢は24歳
性別は男性
年齢は23歳
性別は男性
年齢は20歳
性別は男性
年齢は20歳
性別は男性
年齢は19歳
性別は男性
年齢は18歳
鳳団一般団員10名死亡
獲麟衆構成員5名死亡
《獲麟衆》
小型爆弾を仕掛け終わり次第、早々に自分は逃げ出した
一定区画とは言われていたが結構雑に置きすぎて上手く設置出来たかは分からない
やるだけやった
後はお役御免だ
「離脱離脱〜。」
何処か呑気にそう言いながら一般市民の避難が完了してる区域を抜けるように走る
一般市民に紛れ込めればこっちのもの
わざわざ1人1人の顔を向こうが覚えてる訳無いんだから
そして路地裏を上手く通って逃げ遅れた一般市民のフリをしながら助けを叫ぶ
「助けてくれ!助けてくれぇ!」
そう言うと同時に一般市民は早く建物に入れと大声で返してくれた
よし、ここら辺は大丈夫だ
獲麟衆が小型爆弾を仕掛けてなければの話だが
「た、助かった!ありがとう、ありがとう。」
建物に招き入れてくれた一般市民に涙を見せながら感謝を伝える
あの中からよく生きて避難できたなと背中を叩いてくれる一般市民
ホントその通りだ
そう思いながらリビングに移動すれば戦場と化した元自分が居た場所が窓から見えた
黒煙が舞うのを見て怯えるように口を塞いで嘔吐くと共にフラフラと揺れる
ソレを見た一般市民はトイレに案内してくれる
「俺の家が…家族は…。」
なんて外に聞こえるようにぶつくさ言いながら口内に指を突っ込んでビチャビチャとトイレの中に腹にあるもん全部出してやった
ココでスイッチを押す
任務完了
そう思いながら小さなスイッチをトイレットペーパーに包んでトイレに流した
《鳳団》
〈こt…ザザッ…ザッ…か…ザザッ…〉
ガシャンッ
「どうだ?」
1人の獲麟衆を弾丸一発で殺し、軽く身体検査をした
見つけたのは小型爆弾と小型モーター、そして武器と起爆用の小さなスイッチ
発見した一般団員は即座に小型モーターを破壊し仲間に問いかけた
「こちら○○!こちら○○!聞こえますか!」
〈こちら二番班、聞こえます。〉
「獲麟衆構成員が小型モーターを使用し電波障害を引き起こしてるのを確認!見つけ次第破壊するよう伝達をお願いします!」
〈了解。〉
「その他!設置型小型爆弾とスイッチの所持を確認!建物に注意!」
〈了解。〉
やっとの事で繋がった無線で出来る限りの情報を伝える
獲麟衆の幹部以外にも警戒しなければいけないものがあると伝えられただけでも充分だ
「たくっクソみてぇな物持たせやがって…。」
「でも良かったです、原因が分かっt」
「良くねぇよ。」
「…ぇ…。」
自分はこっそり持ち運んでいたクシャクシャになった紙箱からタバコを1本取り出して火を付けた
そして煙を吸って吐き出す
「大人数で戦う為に必要なのは情報伝達だ。こんな物持ってる奴らがそこかしこに散らばれば大半の団員が…特に近くに全信頼を置ける人物が居ない団員が混乱する。」
「…支部長や二次手や台頭が居ないグループ…。」
「よく分かってんじゃねぇか。」
タバコを吸いながら立ち上がり、口に咥えてる部分を軽く噛む
きちんと厄介な事をしてくれる
強い奴と戦うには心許ない奴らを捨て駒に揺動
更にはこちらが不用意に近付けば自爆
挙句の果てには弾丸1発間違えれば小型爆弾の量次第で大爆発
「俺らがやる事は分かった。獲麟衆アジトに向かうんじゃなく電波障害が起こる場所から獲麟衆構成員の位置を特定して殺し、小型モーターを破壊する。」
自分の率いるグループが口を揃えて“了解”と口にする
そして短くなったタバコの煙を吐きながら更に付け加えた
「使うのは1構成員に付き弾丸1発だ、頭を狙い確実に即死させろ。爆発による被害を最小限に動くぞ。」
そしてタバコの火を手で握るように消した
簡単にタバコ一本捨てられない状況
その中で自分達のやるべき事を遂行する為に歩を進めた
××××年××月××日
獲麟衆構成員1名死亡
《獲麟衆》
明らかに爆発の音が少なくなってきた
各構成員に渡された小型爆弾の数と爆発音が合わない
途中で逃げ出したせいで設置しきれなかったか
もしくはスイッチを押す前に殺されたか
「嫌ね、死ぬのなんて。」
自分達が期待されてないのは理解していたが実際音や景色で仲間が消えてくのが分かってしまうなんて辛いものだ
多かれ少なかれ苦楽を共にしたのだから
生きて欲しい、なんて我儘な話だろうか
「やっと来たの?遅いわよ。」
わざと見えやすい位置に空のリュックを置いてビルの屋上で待ってた自分は登ってきた鳳団団員に背後を取られた
そして立ち上がってから振り返る
『スイッチを捨てろ』
「嫌よ。」
そう言って撃たれる前にスイッチを押した
爆発音と共にビルが激しく揺れる
「私ね、鳥に憧れてたのよ。1度“群れで飛んでみたかった”の。」
自分が仕掛けたのは今居るビルの根元だ
ゆっくりとビルが傾く
銃声が鳴り響いて体を貫くのが分かる
黒煙が吸い込まれるように空に昇ってく
「どうせなら…。」
夢を叶えて死にたいじゃないか
一本のビルが黒煙に呑み込まれた
××××年××月××日
鳳団一般団員9名死亡
性別は女性
年齢は27歳
獲麟衆構成員1名死亡
《鳳団》
「……まだ直らないのか…。」
そうポツリと呟いて窓から空を見る
爆発に巻き込まれた仲間達を懸命に安全と思わしき建物に避難させてから無線機を使用するも返ってくるのはノイズ音だ
「痛てぇよな。」
建物の一室で呻き声や啜り泣く声が聞こえる
いっその事即死した方が楽だったのかもしれない
全員が体の一部を壊して黒い隊服を赤黒く染めている
かく言う自分もその1人だ
「ごめんな、お前らを拠点に連れてく事も出来ねぇんだ。」
ソッと視線を下半身に持っていく
左足に破いた隊服をキツく縛って止血しただけ
その先は無い
片足で仲間達を避難させたからか体力も僅か
せめて助けが来れば…そう思いながら何度も無線機を使ったが意味は無かった
自分の手に持つ銃を眺める
弾丸は凡そ12発
自分含め一室に居るのは12人
大きく息を吸って吐いた
そして覚悟を決めてから片腕で窓を開けて身を乗り出し空に弾丸を放つ
ダン
ダン
ダン
ダダン
ダダン
ダダン
ダン
ダン
ダン
銃でモールス信号を送る事なんて初めてだ
もしかしたら仲間には罠だと思われるかもしれないし
敵が先に来るかもしれない
でも賭けた
弾丸の無くなった銃に引き裂いた隊服を括って窓の外に投げる
一見何の変哲もない布が巻かれただけの使えない銃
でも隊服の所属班を示すラインが巻き付いていれば仲間は気付いてくれる
「おめぇら!死にたくねぇなら体力を使うな!使えねぇ銃を寄越せ!火を起こす!」
懸命に這いずりながら仲間に声掛けをする
そして震える手から銃身の折れたものを受け取り中から弾薬を取り出して火薬を取り出す為に慎重に分解してから少量だけ取り事故が起きないように弾薬を元に戻す
少量の火薬を脱いだ隊服で包み、ナイフを擦り合わせて散る火花を何度も当てれば自然と火は起こせた
そしてナイフを熱してから自分の欠損部に当てる
「ぅ"ッ……ー"ッ……。」
荒々しいやり方だが1番出血を止められる
「汚ぇ痕が残っても文句言うなよ。」
そう言ってから仲間の欠損部位や出血部位に熱したナイフを当てて回った
悲鳴や悲痛が聞こえても気にせず止血をする
そして終わり次第火の付いた隊服を火傷も気にせず窓の外に投げ捨てた
「…あとは…待つ…だけだな……。」
出来る限りの事はした
こんな事を常日頃やってる一番班や四番班は凄い奴らだ
そう思いながら重くなる瞼を擦る
あれ?俺手焼けてなかったっけ?
まぁどうでもいいか
少し休もう
きっと助けが来る
仲間を信じるんだ
凭れかかった壁からズルリと体を崩した
××××年××月××日
性別は男性
年齢は32歳
鳳団一般団員1名死亡
鳳団一般団員11名重症
《獲麟衆》
「モーターバレちゃってそ。」
「ほな捨てて正解じゃ。」
基本1人で散らばって行動
その中でもあえて2人組を作った自分達は爆発音が止まない戦場を眺め推察しながら進む
仲間達の経路とか鳳団の動きとか
獲麟衆アジトに堂々と一直線で来るのはそれなりの戦力なのでは…
それを踏まえたら周りをグルっと囲むように動くのは戦力こそあれど獲麟衆幹部達に比べやや劣るのでは…
となれば直線を動かずに鳳団拠点に向かう構成員は鳳団の中でもややマシな者と対峙する事になる
「泥沼だねぇ。」
「まぁ大きな抗争なんてそんなもんじゃ。」
諸々の推察から行き着いたのは“1人で動くより2人で動いた方が生存確率が上がる”というものだ
起爆スイッチをあえて交換して裏切り防止と先に見つかった方が死ぬという成約付き
「誰がモーターバレしたんじゃろ?」
「知らないや、即殺されてもわざわざ死体ベタベタ触る余裕持ちド変態が居ない限りバレないと思うし。」
「そんにゃらド変態案件じゃな。」
自分達はある程度小型爆弾を仕掛け
いざとなった時の自爆用で2個ほどを胸と項に装着
そこからは小型モーターを物陰に置いて鳳団の動きを観察してた
そして“ド変態”を見つけ次第射殺している
「弾切れたらどしよ。」
「全速力で逃げ。」
「この中を?わぁお刺激的。」
「チキチキレースじゃ。」
本来は小型爆弾を仕掛け次第離れても良かったが2人して獲麟衆に恩人が居る
拾ってもらったり
教えてもらったり
治してもらったり
癒してもらったり
一々思い出語りする性分じゃないが恩は忘れずに返すもん返したいという利害の一致で自分達は動いてた
「やる事やって逃げたら何食いたい?」
「女。」
「脳みそちんこじゃねぇか。」
「そう言うお前は何食いたいんじゃ?」
「女。」
「クズしか居らん。」
ケラケラ笑いながら再度“ド変態”を見つけて銃を向ける
お互いの弾丸が切れるまで交互に撃ち殺す
途中までは殺せばOKだったが作業ゲーと化した状況に段々と調子に乗ってた
先に弾が無くなった方の負け
つまりは1発で仕留めて弾を温存出来た方の勝ち
しょうもないゲーム
「ちゃぁんと1発じゃ。」
「お前あと何発?」
「ん〜……20くらい?」
「俺15発。」
「もっと撃っとった。」
「俺の玉入れて15。」
「にゃら俺は魂も入れて23くらいじゃ。」
「現実〜。」
男同士ならではの下品な会話を重ねながら笑ってたら背後から声が聞こえた
『とても嫌な景色がよく見える場所を好んでますね。黒煙と同じでしょうか?馬鹿と煙は高いところが好き…とはよく言ったものです』
2人してバッと後ろを振り返ると黄色いラインの入った隊服を身につけた大柄な団員が目に入る
長い髪とマントを風に靡かせながら無表情でこちらを見ていた
「高身長はタイプか?」
「巨乳ならOKじゃ。」
「なーなーお姉さん、こんなクソみてぇな状況で1人でご登場って事は仲間死んで傷心なんじゃねぇの?遊んでかない?」
先程までゆったり座ってた自分達は立ち上がる
陵辱モノもイける口じゃなきゃ裏の世界なんて生きてらんない
だから女性に銃を向けた
傷物でも穴があれば楽しめる
『そうですねぇ…沢山の仲間の死体を見ました。かなり消耗しています』
「なら話は早いじゃん?」
『貴方達の判断は遅いようですけど』
パチュンッ
嫌な音と共に自分の視界から銃が吹き飛びガクンッと下に落ちた
射撃だ
何処から
いつバレた
「おい!」
「無理じゃ!腕と両足イカれてる!」
『いつでも爆発して大丈夫ですよ?爆弾の威力なら理解しています』
声は笑ってる癖して顔は無表情の不気味な団員は囮だ
そちらに気を引いた自分達を遠くから狙撃する
でも無線機はまともに動かせないはずじゃ…
『私の支部では非常時の教育も怠っておりません』
団員がそう告げると同時に首を絞められた感覚を覚えた
“私の支部”ということは目の前に居る団員は一般団員ではない
支部長だ
『ハンドサインというものをご存知ですか?誰にでも分かる明確なものもありますけど…私の支部では独自の“サイン”が存在します』
運が悪かったと言えばそれまでだ
だがこちらにはスイッチがある
相手がもう少し近くに来れば殺せる
支部長を殺せる
『例えるなら指を2本口元に持っていけば敵は2人、その指で唇を軽く押し上げて2回トントンと動かしたら武器を持つ部位と足を狙撃しろという意味だったりします。他にもありますけど』
「支部自慢より自分で動きやデカパイ女、ふっとい手足が泣いとるじゃろ。」
「膝付かせて見下ろすのが趣味?Sっ気ある女ってモテたりする?」
二人で目の前の支部長と思わしき存在を煽る
相手は“ド変態”だ
いや、自分達が言ってた“ド変態”を簡単に上回る程のイカれた奴
小型モーターで位置を特定するくらいなら予想出来た
だが小型モーターの位置や爆発した場所を計算して先回りしてくる奴なんざ普通居ない
『では自爆でも試みます?』
しかも出血多量まで引き伸ばす気まである
こういう冷静なド変態は嫌だ
自分達は目を合わせて軽く頷きスイッチを同時に押した
『…ふむ、情報提供をありがとうございます』
「お、お前ひよったか!?」
「目の前で押したじゃろ!」
「俺だって押したよ!」
『少々骨が折れる作業でした。モーターで電波障害を起こさない遠隔爆破装置なんて特殊なものは初めてでしたから…』
「な、何言うとるんじゃ…。」
『特殊な電気信号を利用して簡単に電波障害が起こらない仕組みとは面白いですね、しかも1人1人の電気信号は別物…考えられたものです』
「く…来るな……。」
『まぁ“特殊な電気信号”には“特殊な電気信号”で応戦するのが1番手っ取り早いと思いましてね』
ゆっくりと支部長と思わしき団員は歩み寄ってから自分達の前にしゃがみ
とある物を見せてきた
そう、小型モーターだ
しかも自分達の持ってた物を魔改造されたヤツ
『良い案でしたので採用してみました』
痛みによる脂汗と推測や想像を凌駕する化け物を前にした冷や汗で全身が濡れていく
目には目を歯には歯を
電気信号を利用してるのなら電気信号を遮断出来るものを
小型モーターがバレたのは分かる
でも爆発が遠隔操作である事を理解し、小型モーターから仕組みを推察し、わざわざ小型モーターを魔改造してスイッチを持ってるであろう構成員の位置を特定し、スイッチを押させて答え合わせをする
待ってくれ
魔改造と位置の特定が分からない
この短時間でソレが出来る技術も小型モーターから位置を特定するのも難しい
なんならビル下から見るだけじゃ自分達は見えなかったはずだ
『この情報はしっかりと伝えさせて頂きます。材料に情報の提供…何から何までありがとうございますね』
自分の頭を踏みつけられる
メリッとコンクリートに頬が沈みミシミシと頭蓋骨から嫌な音が聞こえる
自分と行動を共にしてた男が止めようと足を掴んでる
多分無駄なんだろうな
『“悪”は効率良く滅ぼしませんとね』
ゴチュッ
××××年××月××日
鳳団一般団員17名死亡
性別は男性
年齢は24歳
性別は男性
年齢は23歳
獲麟衆構成員8名死亡
《鳳団》
爆発音が程よく収まる中
自分達のグループはすばしっこい構成員に翻弄されていた
「相手は大荷物だぞ!すぐに見つけろ!」
相手は小型爆弾が入ってると思わしきリュックを背負いながら建物内や裏路地をちょこまかと動いてる
不用意に近付いたら死ぬ
だからこそ上手く射殺しないといけないのに相手は高い身体能力と建物を利用しながら逃げていた
「〜ッ…もうアイツは諦めましょう!」
「あの爆弾の量で拠点に突っ込まれたら大変な事になる!ココで仕留めろ!」
本来ならたかが構成員1人に大人数で対応するなんて無駄だ
でも相手が小型爆弾を持ってるなら話は別
取り逃して被害が出る前に上手く殺さなければいけない
「また建物だ!」
「チッ…道連れにするつもりか…。」
高いビルの中に入られればこちらは突入を躊躇する
とりあえずビルからビルへ移動出来ないように、外に簡単に出られないようにするしか出来ない
「…俺が行く、お前らは少し離れた位置に居ろ。何かあったらお前が指示をするんだ。」
「……了解。」
だがいつまでも鬼ごっこは出来ない
相手が武器を持ってる事を覚悟の上で仲間に武器を手渡した
道連れにされるなら1人の方が鳳団へのダメージも少ない
静かに呼吸しながら相手を探す
1部屋1部屋確認しながら奥に進み階段を上る
その道中だった
目の前にリュックがドサッと落ちる
ブワッと鳥肌が立ち全てがスローモーションに感じた
今から死ぬ
この量が爆発したら範囲はどれくらいだ
外に居る仲間は無事に済むか
建物が崩れたらどうする
今から遠くに投げたら間に合うか
そう考えてたらふわりと爆弾と自分の間に構成員が1人入ってくる
まるで翼でも生えてるのかと錯覚するくらいの柔らかな着地
そして慈悲深さを感じる悲しげな表情
ズンッと腹に衝撃が入った
「…ッ……おえ"…ッ……。」
鳩尾に綺麗に入った膝蹴りに崩れ落ちる
階段にビチャビチャと吐瀉物が落ちて何度も咳き込んだ
鈍く響く痛みに腹を抱えてしまう
構成員は再度リュックを持ち直して自分を見下ろす
命を奪い合ってるというのに目の前の男は今にも泣きそうな顔をしながら自分の頭を撫でた
『ごめんね…ちょっとだけ眠っててね…』
そして顎に軽い衝撃が入る
薄れゆく意識の中で
仲間達が自分を心配してこの建物に入らない事を願った
××××年××月××日
鳳団一般団員27名軽傷
《獲麟衆》
小型モーターから音が鳴らない事が増えた
つまりは自分の付近で無線機を使用してる団員が居ない事が分かる
まぁ使用してないだけで団員が居ないとは限らないが
各々が爆弾をどう扱うかは分からないが自分はあえて道の真ん中にポツンと置いてソレを避けようと動く鳳団一行にリュック丸ごとプレゼントする形でスイッチを押した
視線を道の真ん中…下に誘導して回り道に大量の爆弾という最悪のプレゼントだ
大爆発を見た後はテテテーと遠くに逃げる
本来は物陰や建物内に身を潜めたいがぶっちゃけ違う仲間の爆弾に巻き込まれるのは怖い
「冷静に考えるとヤベェです。」
素直な感想が漏れた
小型モーターを利用するという事は自分達も情報交換出来ないという事
つまり仲間の連携次第ではお互い無意識に殺し合ってしまう
見つかるか見つからないかよりもソレが1番怖いかもしれない
「何処に逃げたら良いんだろ。」
安全地帯が分からない
見渡しの良い所なら爆弾の位置も分かる
だが見つかる確率が上がる
裏路地や建物を利用すれば見つかる確率が下がる
だが爆発に巻き込まれる可能性がある
八方塞がりだ
「早々に抜けた方が良かったです。」
ため息を着きながら建物の周りを確認し、設置爆弾が無いと判断した所の中心地の一軒家に入る
勿論中も隅々まで確認した
そして避難でバタバタしたのであろう内装から地下の貯蔵庫を発見
この中に入れば幾分かマシだろう
リビングのテーブルに小型モーターを置いてから貯蔵庫に潜り込んだ
と同時に嫌なものを見た
中には貯蔵庫のワインを煽りながら恐怖を紛らわす仲間が居たのだ
リュックが無いのを見るに仕掛けるだけ仕掛けたのだろう
そして自分と同じように逃げ道が分からずココに居る
多分
「出てった方が良いでs」
言い切る前に先程まで座っていた仲間がワインの瓶が倒れる事も気にせず自分に飛びついて床に押し倒された
「どうせ…見つかればぁ死ぬんだ。」
「…そうですね…。」
「なら、なら何してもいいだろ…。」
明らかに気が動転してる上に酒も入ってる仲間を見て嫌な汗が出る
自分もそうだが仲間も立派な犯罪者だ
そして自分は比較的小柄な女で相手は男と来た
運が悪い
「遠慮したいのですが…。」
「黙れ!」
護身用の武器の一つであるナイフが自分の首に当てられる
中肉中背の男が馬乗りになって身動き取れないというのに随分短気
役満だ
是非とも点数をください神様
荒い鼻息と共に溢れるアルコール臭…眉間に皺がよる
乱暴に服を剥がされて下着をナイフで切り取られ…谷間と呼ぶには些か浅い自分の胸に傷がついた
極限状態の人間はここまで落ちぶれるのか
「……ゴム無しかぁ…。」
自害用の爆弾とっとくんだった
《鳳団》
無線機が徐々に調子を取り戻していけば流れが変わったのが分かる
小型モーターを所持してる構成員が少しづつ処理されていってるのだ
おかげで鳳団団員の足並みも戻ってきた
「獲麟衆構成員を1人発見、リュックは無し。」
〈スイッチを押す前に殺せ、周りには気をつけろ。〉
「了解。」
構成員は両手を上げているがこちらは一定の距離を保ったまま銃口を向ける
不用意に建物に仲間を近付かせないよう配置には充分気をつけながら狙いを定めた
『も、もう無理だ…俺には無理だ…出来ない…助けてくれ…』
敵は泣きながら言葉を紡ぐ
銃を持つ手に力が入る
殺せと許可は貰った
何を躊躇してる
『爆弾を仕掛けてて気付いた…俺らは自分達で自分達の逃げ場を潰してる…』
その通りだとも
こちらの連絡手段を邪魔してるのだから向こうだって連絡手段を確保しにくいはずだ
そんな中、無作法に爆弾を設置しながら各々が鳳団拠点を目指せば否が応でも逃げ道は少なくなる
『最初は…おま、お前らを…邪魔すりゃ…それで…それで良いと思ってたんだ…でも…いざ…音を聞くと……もう…怖くて…スイッチも持てねぇ…』
ガクガクと足を震わせながら失禁する大の大人が居る
嘘には見えない
嘘には見えないが
信じる事も出来ない
『足を洗う…なんでもする……』
心臓が煩く鳴り響く
敵意が無いとこれでもかと視覚聴覚を刺激するのに
相手が1度敵になったからには撃たなければならない
『抗争で…妻が死んだ……金が無くて…治療が遅れたんだ……自暴自棄になってた……馬鹿なのは分かってる…全部俺が悪いのは分かってる…』
獲麟衆という一大組織が現れてから名を馳せるまで
その期間が1番裏世界での抗争が激しかっただろう
ソレに巻き込まれた一般市民だって大勢居た
その中で何かを失って絶望した人間が道を踏み外した
誰だって起こり得る
誰だって目の前の男と同じになる可能性を秘めている
『でも…でももう…無理だ……俺はもう…着いてけねぇ…喪失感だけじゃ…マフィアの末端を生きるのも出来ねぇ……』
呼吸が浅くなる
撃て
早く撃つんだ
指に力を入れるだけの簡単な動作だ
『こんな汚れた手じゃ…死んでも妻を抱き締めれねぇ…』
これ以上聞いちゃいけない
『罪を…償わせてくれ……頼む……少しでも…少しで良い…』
「…なら…なら!!」
ドンッ
男はドシャッと膝から崩れ倒れた
赤い血が地面を汚していく
撃ったのは自分じゃない
隣に居る仲間だ
「…気持ちは…よく…分かります。」
「……。」
「……でも今は…気持ちより…任務を……。」
「…そうだよな…ごめん…。」
自分は敵意が見えない男を撃てなかった
殺せという指示が出てるのに
指が動くより先に相手と対話しようとした
ソレで仲間が死ぬかもしれないというのに
「俺は…向いてないよ…こういうの……。」
項垂れる自分の横で鼻をすする音が聞こえた
そちらに視線を向ければ撃ったはずの仲間がボロボロと泣いている
「なんでおまえが泣くんだよ…。」
「正義が…なんの為に…なんの為にあるのかが…分かりません…。」
「……。」
「彼も…一般市民でした…守るべき存在でした…でも!でも守れてなかった!」
「全部が全部先回りして救えたら苦労しないだろ?」
「それは分かってます!」
「だから対話が必要だったんだ。」
例え
どんなに法律があっても
どんなに医療が発達しても
どんなに正義が必死になっても
全員を救いきる事は出来ない
「だから俺達は“正義”と“悪”じゃなく人間同士で対話が必要なんだよ。対話が出来ない相手ならまだマシだ…少しはマシだ!でも結局は俺らがやってるのは人殺しだ!対話を諦めて殺して目を逸らしてる!」
今まで構成員を殺してきた
相手がきちんと殺そうとしてきたから
殺した
例え正義を背中に貼り付けたとしても“殺し”には変わりない
変わらない
「正義なんてそんなもんだ!自分の罪を無くせる大義名分だ!そんなんで人を誰しも救える訳が無いのに俺らは必死になってる!躍起になってる!救えるかもしれない存在を見て見ぬフリしてる!1度道を踏み外しただけで簡単に“守るべき存在”から人間を分けて“犯罪者”で括って“悪”で括って!情状酌量も上辺の情報じゃ意味を成さない世界で!何が正しいのか分からねぇ!」
殺してきた構成員が絡みつく
殺さなきゃ殺される状況にも関わらず
罪悪感がゆっくりと這い上がる
「なんで仲間の為に爆弾背負って走ってる奴らを…俺らは…俺は……。」
爆弾で死んだ仲間だって居る
理解してる
でも自分も殺した
向こうにも向こうの仲間が居て
自分にも自分の仲間が居て
お互いの“正しい”がぶつかって
恨み辛みばかり募ってく
お互いが“仲間の為に”殺し合ってる
「…助けてくれ……。」
1度気付いてしまったら手遅れだ
今さっき死んだ男と同じ
手も武器も真っ赤な血で汚れている
自分が率いてた仲間が徐々に崩れてく
全員が自分のしてきた事が“正しい”と断言出来なくなってる
死にたくない
死なせたくない
殺されたくない
殺したくない
グチャグチャになった戦場で自分達は武器を捨てて隊服を脱いだ
もう鳳団を名乗る資格は自分達には無かった
××××年××月××日
獲麟衆構成員16名死亡
《獲麟衆》
『起きろ』
頭にコツコツと銃口を当てられて目が覚める
鳳団拠点からも獲麟衆アジトからも程よく離れた民家に居た自分は爆弾を仕掛け終わり、スイッチを押した後だ
一般市民に紛れ込むまで走るのも手だった
だけど自分は運悪く道中で死ぬかもしれないと思い
1度くらいふかふかのベッドで寝てみたい、なんて考えてちょっぴり大きな豪邸にお邪魔してふかふかのベッドに横になって
爆睡
「…そんな物騒なもん押し付けないでよ…。」
とりあえず起き上がってはもう使い物にならないスイッチと武器をポイポイと団員の足元に投げて服を脱いで
もう何も所持してないのを下着を脱いでまで証明してからベッドに寝転がって柔らかな布団に包まった
『コレで…』
「全部全部、持ってっちゃって。」
『…爆弾は?』
「全部使った、そのスイッチも使用済み。」
『罪の意識は無いのか?』
「君達も上の命令で僕らを殺し回ってるんでしょ?僕も同じで上の命令で起爆しただけ、一々罪の意識持ってたらお互いキリ無いって。」
柔らかなベッドから離れられない自分の髪を団員が掴んで引き摺り下ろす
裸だから床が冷たくて仕方がない
『お前らと俺らを一緒にするな!マフィアに落ちた分際で!』
「…何言ってんの?流れ着いた先が違うだけでやってる事は人殺しじゃん。冷静に考えてみなよ。僕も君も敵を殺してるだけ、邪魔な奴を殺してるだけ、お互いがお互いの立場とか命とか仲間とか…なんか色んなものの為に殺してる。」
『お前らは罪の無い一般市民も平気で殺す!』
「だから言ってるだろ?“邪魔な奴を殺してる”んだよ。君らから見れば一般市民、でも僕らから見れば邪魔な奴だった。君らも同じ、僕らが邪魔だから殺す。」
『これ以上被害者を出さないように殺すんだ!分かるか!?』
「じゃあ僕は生かされるって事?だってこれ以上被害者出せないもんね?爆弾も使ったし武器も手放したし服もぜぇんぶ脱いでThe無力。まぁ捕らえても僕みたいな末端から出せる情報なんて君らが知ってる情報だけだろうけd」
自分の言葉を遮るように銃で殴られる
正義って乱暴だな
素っ裸で殴られるなんて初めてだ
「…君も殺す?自分にとって不快極まりない邪魔な奴。」
団員の1人が自分の真横に銃弾を放った
威嚇射撃にしては近すぎる
鼓膜破れちゃうよ
「どうせ死ぬならあのベッドの上でが良いな、僕生まれも育ちも卑しいからふかふかベッドとか夢のまた夢だったんだよね。」
『抗弁垂れるだけ垂れて逃げる道でも探ってるのか?』
「いんや?俺はやる事やったし渡すもん渡したし…再度寝ようとしたら君らが質問してきたり無理やり引き摺り出したんじゃん。そっからは軽い口論しただけだよ、お互いの主張をぶつけただけ。僕は殴られたり威嚇射撃食らったけど。」
『……。』
団員はやっとの事で自分を解放したからのそのそとベッドに戻って再度布団に包まった
やっぱりふかふかのベッドは最高だ
もう二度と寝れないようなものなんだからたっぷり堪能してから逝きたい
「頭出しといた方が良い?」
『…急にどうした…』
「僕ベッドに入れたし、頭見えてた方が殺しやすいかなって。」
自分の言葉に団員は絶句する
そしてドサッと1人が腰を下ろした
『ばかばかしくなってきた…』
「あらま、任務終わってないのに?」
『…アンタみたいなのを殺し回らなきゃいけない事自体がばかばかしいの…』
「お互いちゃんと大変じゃん、ちょっと休憩しない?ベッドは僕が使ってるけどこの豪邸凄いよ。ソファもカーペットもふわふわ、どこでも寝れる。」
団員は全員が顔を見合せてからため息をついて各々が腰を下ろした
あまりにもマイペースを極めてる自分のせいで調子を崩したらしい
「ちなみに僕の仲間は何人殺したの?」
『…それを聞いて復讐でも誓うか?』
「僕は復讐よりもこうして柔らかいベッドで寝てたい派。」
『…23人だ…』
「おぉ、凄いじゃん。でもキリ悪いね、僕殺してからもう1人殺しに行く?」
『…もういい』
『黙ってくれ』
『休憩させろ』
『頭痛いお前との会話』
『疲れてんだよこっちも』
「こりゃ失礼。」
『食べ物無い?』
『はいよ』
「僕にもちょーだい。」
『…ほい』
「わぁい。………かたぁい…まずぅい…。」
『…携帯食料なんてそんなもんだよ』
「もう少しマシなの支給してもらいなよ、食べ物ぐらいちゃんとしないと長期戦とかもたないよ?」
『お前とりあえずベッド詰めろよ』
「いやん僕のここ。…ちょっとマジで入ってくるの?助けて嫌だ血と汗の匂いすんごい、匂いが雄過ぎる、何が悲しくてふかふかベッドに裸で男と寝ないといけないの。やだやだ。」
お互い誰かを殺してる
だが全員が休息を求めてるのは確かだ
武器を持つ敵に囲まれながら
筋肉質な団員に押し潰されながら
敵味方関係なしで休んだ
「…くるしぃ…くちゃい…。」
安眠に必要なのはふかふかベッドとそれを一人で独占できる余裕なのかもしれない
××××年××月××日
獲麟衆構成員23名死亡
《鳳団》
設置された小型爆弾を慎重に外しては金庫に入れて閉じるを繰り返す
小型爆弾はスイッチから送られる電気信号で爆破する遠隔操作式
とある支部長に魔改造された小型モーターを手渡されて爆弾除去に任命された時は自分の命もここまでかと覚悟した
だが思いの外順調に爆弾を除去出来ている
「マジで効くのかコレ…。」
魔改造されたせいで少々不格好になった小型モーターを見ては半信半疑で眺めた
今の所除去出来た爆弾は50…その間一回も爆発に巻き込まれていない
自分も仲間も
「運だけでここまで上手くいくのなら出来すぎてますよ。」
「それもそうか…。」
魔改造小型モーターの信憑性が高くなればなるほど仲間達が雛のように段々と寄ってきて気分は餌を持った親鳥のようだ
死にたくないが故の無意識だから何も言えないが…ハッキリ言うと爆弾除去の緊張もあって少し休憩させて欲しい
「一旦休憩しないか?」
「何言ってるんですか!?」
「爆弾除去出来るグループ俺らだけかもしれないんですよ!?」
「そうですよ!!」
「1個でも多く取り除かないと!!」
「じゃあお前ら代わってくれよ。」
自分の一言を聞いた瞬間皆して目を逸らす
年長者に全投げしないでくれ
白髪増えちまうよ
「じゃあ少し休ませてくれ…流石にいつ爆発するかも分からない物を神経使って取ってるんだ…。」
そう言って路地裏の壁に凭れかかった途端仲間達が近寄ってくる
「待て、頼む、一人で…はぁ…分かったよ、分かった。」
男女年齢問わず…いや、全員歳下なんだが…
自分にベッタリとくっつくようにされればほぼおしくらまんじゅうである
そんな狭い範囲に留まらなくても良いとは思うが彼らもきっと不安で仕方ないのだろう
「俺が休んでる間に敵が来たら迎撃出来るようにはしろよ?」
「……。」
「ふぁい…。」
「…クァ…ふぅ…。」
「全員疲れてるじゃねぇか。」
「…だって…。」
「爆弾除去見守るのも緊張するんですよ。」
「金庫だって重たいし。」
「なー。」
「だぁあッ!分かった!やる!やります!続きやりますから!起きなさい!立て!散れ!」
こんな状況下で少しでも休んだら敵の的になりかねないと瞬時に理解出来た
少しでも緊張感与えてやらないとコイツら絶対自分より起きない
無理やり立ち上がらせて自分も立ち上がる
「獲麟衆が解体されたら絶対に辞表出してやる。」
「やだ!」
「そんな事言わないで!」
「うるさい!駄々をこねるな!おじさんなの俺はもう!44歳!」
「おじさんもう少し居て〜…。」
「頼むよおじさん。」
「お前らも40行くんだから先輩風吹かせよ…。」
「嫌だね。」
「こんな頼りない先輩嫌だ。」
「おいてめぇそれは言っちゃいけねぇだろ。」
「喧嘩しないの!!」
今抗争してるんだよな?
獲麟衆を倒す為に鳳団一同頑張ってるんだよな?
なんで俺だけ保育園の先生みたいな事してるの?
台頭も支部長もこんな感じなの?
今にも十円ハゲが出来そうな空間から抜け出す為に必死になって爆弾の除去に勤しんだ
《獲麟衆》
「対策まぢ早〜。」
カチカチと押しても無反応なスイッチを見ながら呟く
ちゃんと一定区画に小型爆弾を設置したというのに
さぁ爆発するぞと意気込んだ矢先にコレだ
懸命に並べたからこそガッカリしてしまう
「ま、やるだけやったしもういっしょー。」
だが無反応なものは無反応だ
潔く割り切って体を伸ばして欠伸をしながらゆっくり歩く
親も居ないし恋人も居ない
別に死んでも誰も何も思わない
だからのんびり歩いた
そりゃもう道を堂々と
「ちゃんと戦場でウケる〜ウチ場違い。」
ウケるとは言いながらも笑ってはいない
火薬や血の匂いが蔓延る中を歩くなんて正気の沙汰じゃない
それを考えたらこの場にいる誰もが正気じゃないのかもしれないけど
だが稀に正気な人が居る
その人は物陰に隠れるように縮こまって震えていた
「お、鳳団じゃ〜ん。」
あえて自分から声を掛けに行く
捕まるのなら捕まる
殺されるのなら殺される
だがビクッと肩を跳ねさせた団員に自分を殺せるかは分からない
「まぢ聞いて〜ウチめっちゃ爆弾仕掛けたのに1個も起爆しなかったんだけど〜運悪くない?」
ドサッと団員の隣に座り愚痴を吐いた
団員は未だに膝を抱えて縮こまっている
見た所銃は見当たらないし怪我もしてない
でも腕周りが軽く血で汚れていた
「てかアンタ仲間と武器は?もしかしてぶっ飛び?」
『……………ぃ…』
「お互い運無いね〜、やれって言われた事も出来ないしやりたいと思った事も出来ないし。」
『うるさい!』
団員がこちらに掴みかかり押し倒される
『お前らが!お前らが爆弾なんて使うから!こっちは何人死んだと思ってんだ!!』
「まぢご冥福祈りん。」
『ふざけんじゃねぇ!見た事あんのかよ!仲間が目の前で死んでくのを!原型すら残らずにグチャグチャになるのを!』
「あるよん。」
『……ぇ…』
「ウチだって一応それなりにワルじゃん?そりゃ目の前で仲間死ぬのなんて日常茶飯事だし?原型留めるどころか原型膨らみ過ぎてパンパンマンみたいな?爆散みたいなのはなくても炎に燃えて灰になるとかまぢザラ。」
『……炎…』
「お?心当たり?ま、お互い敵同士だし命張ってんだからしゃーなしぢゃね?」
『……恨まないのか?』
「恨んでも良いけどどっかであるじゃん?“こんな事してるんだからしゃーなし”って気持ち。いんがおーほーってやつ?」
『……』
「だからウチはアンタに声掛けた。ぶっちゃけ上手くいかなかったし?最期にテケトーに誰かと喋って死の〜って。」
『怖くないのか?』
「怖くないよん。」
『死ぬんだぞ?』
「うん。」
『…なんで…』
「ウチなんも持ってないもん。」
『…仲間は…』
「爆弾持って走ってったから死んでんぢゃね?」
『…家族は…』
「ヤク中セク中でウチ産まれて即捨て、ホームレスに育ててもらったけどその人はホム狩りでお陀仏。」
『…なんで獲麟衆に…』
「当時の彼ピに連れてってもらった。」
『…恋人は…』
「無事お亡くなり爆笑。」
『……』
「まぢウケるよね〜なぁんも持ってないの。」
途中までは怒り心頭だった団員は力無く項垂れるように馬乗りになってる
絶望したってどーしよーもない
無いもんは無いし
失ったものは戻ってこないのだ
死ぬのなんて当たり前だし
殺されるのも当たり前
マフィアなら常識だが鳳団では常識と呼ぶには些か難しいらしい
「って訳で武器は?」
『…ナイフしか持ってないよ…』
「刺殺か〜サクッと死ねないやつ〜。」
『…死にたいの?』
「死にたくないよん。」
『じゃあなんで…』
「ウチとアンタは敵で、ウチは犯罪者でアンタは正義のヒーロー。なら殺るくね?」
『……』
「アンタの仲間殺した獲麟衆の1人って考えりゃ楽っしょ?」
団員はスルリとナイフを取り出した
そして自分の首に当てる
ヤク中セク中の腹から産まれて捨てられて
拾ってくれたホームレスは殺されて
10以上は上の恋人には先立たれて
自分だってマフィアの末端らしく人を殺した
クソみたいな人生だった
最後の最期で度胸見せようとしたのに失敗して
あーぁ、来世はもうちょいマシな人生に…
『ぅ…うぅ……』
自分の頬にポタポタと涙が零れてくる
団員は泣いていた
ナイフを持つ手をガクガクと震わせながら涙を流した
「萎える〜…。」
『なんで…なんで……なんで……』
「神のみぞ知る的な?」
『もう嫌だ…何も見たくない…死にたくない…殺したくない……殺す為に鳳団に来た訳じゃ無いのに……』
「じゃ逃げる?」
『逃げられない…だって…俺は……』
「頭カチカチでウケる、別に皆がやりたい事やってんだし1人2人逃げても許されるくね?」
団員は涙を流しながら葛藤を顔に浮かべる
この若い団員は“死”を眼前に突き付けられて心が折れてる
自分だってやる事出来ずに萎えてる
今ココに居るのは“鳳団”とも“獲麟衆”とも呼べないガッタガタになった歪な人間だけだ
「同じ任務したウチよりちょっと上のパツキンくんがね、“怖くなったら逃げていい”って言ってたんだよね。」
長い髪の毛をクルクルと指に巻き付けながら団員に戦いが本格化する前の話をする
団員は浅く引き攣った呼吸が段々と落ち着いていく
「死ぬ為に生きる〜じゃなくて、守る為に生きる〜っての。まぢ生きよ〜って感じ。」
『…守る為に……』
「そそ、LOVE&Peace的な?爆弾仕掛けるのだって攻撃よりも揺動目的だし?少しでもアジトに来る鳳団分散出来たらまぢラッキーくらい。」
団員がゆっくりとナイフをズラして地面に置いた
武器も何も持ってない
傷を負った青年と傷にマニキュア塗ったような自分
組織が違うだけで結局は何かを抱えて失った人間同士だ
「ぶっちゃけ怖くね?」
『…怖い』
「死にたくなくね?」
『死にたくない』
「んじゃ逃げね?」
青年と対話したら相手は自分の上から退いて手を差し出した
自分はその手を掴んで立ち上がる
『…ん……』
「隊服じゃ〜ん、どした?」
『一般市民の避難は終えてる…隊服来た方が少しは逃げやすいだろ…』
「まぢ天才的〜。」
青年が脱いで渡した鳳団隊服を身に纏う
胸はキツいが袖がズルっとしてた
デザインはシンプルで血の匂いがするけど着方によっては可愛いんじゃないか?
「え、ベルト欲し〜ちょーだい?」
『……はい…』
「これウエストラインちゃんと出したらまぢ可愛くね?」
『…まぁ…良いんじゃない?』
「ばっちし萌え袖きゃわ〜。」
任務に支障が出ないように袖がズルズルしたのは着てなかったがやっぱりいざズルズルしたのを着ると可愛い
自分の手がチョンっと出てるのが程よく媚びてる感じ
「じゃ、行こか。」
『…うん…』
鳳団隊服を分け合った自分達は手を繋いでゆっくり道を進んで行った
行き場所なんて分からない
分からないけれど
“逃げてもいい”
その言葉が優しく背中を押してくれてるから何処か心が軽かった
××××年××月××日
鳳団一般団員8名死亡
《鳳団》
獲麟衆の幹部や鳳団の台頭が衝突した
ソレを示すのは何処か見覚えのある季節外れの雪や轟く雷音、爆発とはまた違う意志を持った炎の揺らめき、まるで津波でも来るんじゃないかと思うくらいの激しい水流の音
まさか二番班台頭も前線に出るとは思いもしなかった
だが心強いに越したことはない
とはいえあの異常気象とも呼べる空間に飛び込める団員は少ない
行っても邪魔になるだけだ
「爆弾除去は順調?」
「ちゃんと。」
「モーターの破壊は?」
「順調です。」
「じゃあここから離れよう、邪魔になると思うから。」
ちょっと時間はかかったが獲麟衆アジトの包囲は完了してる
爆弾の除去も凡そ完了
見逃したものがあったとしても建物が崩れる以外の損害は起きないだろう
「逃げてくる構成員は見つけ次第射殺、隊服の有無で即時判断して。」
そして爆弾の入った金庫に魔改造小型モーターを突っ込み厳重に管理
爆発してもこちらへのダメージは軽減されるだろう
「何かしらの信号が出るまで持ち場を離れない事、包囲網を崩さないよう徹底。」
淡々と指示を出しながら仲間を配置する
背後や上空にも気をつけながら警戒態勢を解かない
終盤戦に入った対獲麟衆戦
無線機から朗報が入るのを今か今かと鳳団一同待つ
「…待つ事しか出来ないなんてさ…。」
小さく零した
自分達も鳳団の仲間だ
でもやっぱり最後は圧倒的戦力を誇る者達が動く
包囲網から構成員を探すのも
幹部やその直属隊とぶつかるのも
戦力があって初めて出来る
能力も何も持たない自分達は武器を持って見守るしか出来ない
なんとも言えない無力感を感じながら
勝利を願った
××××年××月××日
獲麟衆構成員14名死亡
獲麟衆のボスが討ち取られた報告が無線から聞こえる
雄叫びをあげる団員
泣きながら抱き締め合う団員
気を失って倒れる団員
未だに物陰で震える団員
まだ後始末があると動く団員
様々な鳳団団員の姿が居た
全てを察した構成員
護身用武器で自害を選んだ構成員
逃げ切った構成員
逃げたかった構成員
捕まってく構成員
それでもなお戦う構成員
様々な獲麟衆構成員の姿が居た
五体満足の勝利なんて何処にも無かった
全員が何かを失った
差は何かを手に入れられたか
何も残らなかったか
たかがそれだけだった
××××年××月××日
鳳団
死亡者数
85名
重傷者数
37名
軽傷者数
58名
行方不明
98名
獲麟衆
死亡者数
96名
捕縛者数
23名
行方不明
特定不能
【鳳凰帳~名も知らぬ戦士達~…あとがき】
誰1人名前が記載されない作品を読んでくださりありがとうございました
序盤から終盤に流れてく中で戦況が変わり死亡者数も変わり
なんともまぁ目紛るしい作品になったなと個人的に思っています
鳳凰帳参加者の皆様の作品や会話の流れを見ながら“こうしたらこのキャラ登場しやすいのでは?”とか“こうしたらあのセリフに重みが増すのでは?”とか試行錯誤を繰り返しながら様々な視点を書けてたらな…と思います
少々残酷な表現だなって部分は鳳団の“行方不明”が異常に多い所ですかね
この人数は“遺体が遺らなかった上に死亡を伝える人間も居なかった”が故の多さです
何人のグループで動いてたのかは明確、だけど確証の無い状態を“死亡”と判断するのか…と考えた時に…“行方不明”という形にしました
遺体が遺った方がマシなのか
遺体が見つからない方がマシなのか
自分としましては“見つからない方がマシ”と思いましたね
行方不明のうちは“まだ生きてるんじゃないか”とか“ひょっこり帰ってくるんじゃないか”とか…残酷な現実を淡い期待で隠せるので
今後、遺された人がどうなるのかは分かりかねます
どんな道を選ぶのかは遺された人の選択次第です
ましてや…この戦いの中、この作品に1mmも出てなくとも消えた命があります
“こんなに?”と思う人も居る反面
“こんなもんか”と思う人も居るでしょう
個人的にはネームドの5倍以上はモブが居ると考えながら作品を眺めてる者ですので数字もソレを基準にちょっと色を付けた感じになりました
…好きなモブは居ましたか?
自分はぶっちゃけ鳳団モブ一般団員のタバコ吸ってる人好きです
あとふかふかベッドぬくぬく獲麟衆モブ構成員も好きです
『何故ワタシを嫌う』
ふわふわとした黒いロングヘア
まるで蝶の羽のように広がる白いリボンの髪留め
小さな身長とは裏腹に子供を宿せる体
柔らかそうな胸や下半身は丁寧にドレスに包まれ
キラリと輝くお揃いのピアスが胸を刺す
「お前が俺の婚約者を…アリアを乗っ取ってるからだよ!」
黒くて大きな瞳
長い睫毛
柔らかそうな唇
そして絶対にアリアがしない頬を膨らます表情
『レヴィはこの体を愛してる、だからワタシも愛してる』
「違う!俺はアリアを愛してるんだ!お前がアリアの体を使おうが俺はお前を好きにならないんだよ!」
アリアの中には魔族の中の王
つまりは“魔王”と呼ばれる存在が入ってる
ソレは自分の性別も分からなければ
名前すらも持たない
アリアの体を傷付ける訳にはいかないからベッドにある枕を壁に投げつけた
『形は同じだぞ?』
「中身が違う」
『何処が違うんだ』
「アリアは…アリアはもっと……」
アリアとレヴィは政略結婚を元に結ばれた婚約者だ
初めて会ったのはまだ齢7歳
アリアなんて5歳だった
緊張しながら従者を引き連れてアリアに会いに行ったが彼女は王宮内に居らず
バタバタと誰もが探していた
その空間も怖くて今にも泣き出してしまいそうなレヴィの前にふわりと現れたのがアリアだ
白い肌と艶のある黒髪
そして無表情
まるで人形のような彼女は魔力消費の激しい転移魔法を易々と使いこなし颯爽と現れては綺麗なお辞儀をし
そしてドレスを着てるというのに紳士のように跪いて
色とりどりのハーデンベルギアをレヴィに差し出した
レヴィは最初こそ戸惑ったが恐る恐るハーデンベルギアを受け取ればアリアはスクッと立ち上がりスタスタと離れていく
無表情で無感情で無口
なのに行動力が高い
だから周りはアリアの扱いに困っていた
第二王子のレヴィと第三皇女のアリア
国際的に結ぶならこのくらいで充分だろ?とでも言えるような組み合わせ
だが幼いレヴィはまともに話せず落ち込んで自分の国に戻りハーデンベルギアの花について少し調べた
レヴィの国にもアリアの国にも咲かない花
紫やピンク、白のハーデンベルギアを集めるのに彼女は何回転移魔法を使ったのだろう
そしてハーデンベルギアを贈る意味を知った時
レヴィはアリアに恋したのだ
《出会えた事に感謝を》
そこからはレヴィがアリアにゾッコンだった
色々な話を振っても風で靡く草木を眺めるアリア
様々な贈り物をしても無表情で受け取るアリア
雨で馬車が動かせないと聞けば転移魔法で自分から来てくれるアリア
無表情でも無口でもアリアの行動一つ一つには優しさがあった
だからこそ…
『レヴィ?』
視界に入り込むように上目遣いで顔を覗き込むコイツが嫌いだった
『愛してる』
アリア自身から聞きたかった言葉をアリアじゃないナニカから聞くのが嫌だった
「なんで…なんでアリアなんだよ!」
『レヴィがこの体を愛していたk』
「体じゃない!違うって言ってんだろ!」
『……』
「なんで俺なんだよ!男が良いなら他にも沢山男が居るだろ!」
『ワタシはレヴィが良い』
「なんでだよ!」
『レヴィがワタシを見てた』
「知らねぇよ!そんな事!」
魔王とレヴィは一切話が噛み合わない
魔王はまるでずっと前からレヴィの事を知ってる口ぶりをする
でもレヴィは魔王がどんな容姿かも知らないのだ
見てただの会っただの言われてもレヴィには理解出来ない
『レヴィ…』
「なんだ…よ……」
アリアは一度も自分の名前を呼んだ事が無い
まずアリアの声をアリアから聞いた事が無い
だから名前を呼ばれるだけでも虫唾が走り怒鳴ろうとした
だが目の前に居るのは無表情でポロポロと涙を零すアリアだった
「…アリア……?」
そう呼んで涙を拭うように頬を撫でた途端
アリアのような無表情から一変
口角を上げて目尻を下げてニンマリと笑う
『レヴィはやっぱりこの体が好き』
頬に触れた手を優しく包まれる
アリアの体を使う魔王に嫌悪感が走る
『この体があって良かった』
魔王にとって“アリア”はレヴィを振り向かせる為の道具でしかない
レヴィがアリアを置いて逃げ出さないと理解してるから頑なに“アリア”を手放さない
怒りに包まれたレヴィを落ち着かせる為にアリアのような表情をしてから突き落とす
『レヴィ、愛してる、愛してる』
魔王はアリアの体を利用してレヴィの掌にキスをする
柔らかな感触と暖かな温度が掌に伝わる度に今度はレヴィがボロボロと涙を零した
もう限界だった
体だけでもアリアだからと割り切れればどれ程救われただろうか
アリアはこんなに愛を囁いてくれないしと吐き捨てられたらどれ程救われただろうか
「頼む…頼むよ…」
『なぁに?レヴィ』
「アリアだけは解放してくれ…頼む…」
『……』
「俺はこの際どうなっても良いから…アリアを…」
『なんで?』
レヴィが泣いて縋っても魔王には通じない
魔力暴走により後天性魔族と化した元人間とは違い
魔王のような感情に乗った魔力痕から生まれた先天性魔族は人間の感情を理解はしても共感は出来ない
『この体だからレヴィは優しい』
『この体だからレヴィは見てくれる』
『この体だからレヴィは話してくれる』
ちょっと無表情になり涙を流せばレヴィは何度もアリアを期待する
そして近付く度に魔王はレヴィに触れられる
アリアの体だからレヴィは魔王に暴力を振るわない
魔王が“アリア”で在り続ける限りレヴィは無視出来ない
『レヴィ』
涙と絶望でぐしゃぐしゃになったレヴィを優しくベッドに押し倒す
そしてレヴィの真似をするように白く小さな手で涙を拭う
『ワタシはお城もドレスも食事もベッドも全部レヴィの為に作った』
『レヴィに痛い思いはさせない』
頬に触れていた手がゆっくりと胸に滑り落ちる
『レヴィの居ない場所なら全部壊す』
魔王は本心を淡々と口にする
『愛してる』
そう言ってキスをしてレヴィの体をチロチロと舐める
魔王はたかがレヴィを手に入れる為に魔族の王に成り上がった
そして魔王として国と取引した
レヴィとアリアを渡せば魔族が入って来れないよう結界を張ってやる
断れば滅ぼす
レヴィの親もアリアの親も喜んで2人を差し出した
国同士でも戦争が起こり得る人間の世界
その中に魔族まで入られたら簡単に戦況が変わる
第二王子と第三皇女を渡すだけで魔族を遠ざけられるのならと
だからレヴィにもアリアにも帰れる場所は無い
『愛してる』
ちぅっちぅっと子供の戯れ合いみたいなキスを性行為だと勘違いしてる魔王のお陰で二人の貞操だけは守られてる
「…せめて黙っててくれ……」
そう言って布団を引き寄せて顔にかけた
香りや感触はアリアなんだ
日常生活なんてまともにしなくて良いから
こうして現実逃避しながら
アリアがまだ生きてると香りや感触で信じながら
静かに泣いていたい
お題:時を止めて
〜あとがき〜
あとがきに見せかけた世界観や魔王のかるぅいQ&A
Q.この世界観に神は存在しますか?
A.この世界観に神は存在しません
神は魔族にも人間にも手を差し伸べません
干渉もしません
認識出来ない空間から眺めるだけです
何もしないナニカは存在していないと同義と考えてます
なので彼らの視点で紡がれる彼らの世界に神は存在出来ないんです
Q.魔族以外の人外は出ないのですか?
A.魔族と人外は=の存在です
言葉を話せる種族は人間と魔族の2種類のみ、という世界観を構築しています
人間かそれ以外かのロー〇ンド方式じゃないと名前持ちキャラが増えすぎてしまうので…
なので例をあげるとエルフも魔族として扱う予定です
Q.何故魔王はレヴィが好きなんですか?
A.初めて欲しいと思えた存在だからです
どんな生物も初めての現象に何かしらの感情を抱くものです
人によっては“あまりにも些細なと捉えられる事”でも容易く欲を刺激します
ちなみに魔王は目が合って笑顔を返してくれたからという理由で愛してます
そういう事です
Q.魔王がレヴィに向ける感情は愛なんですか?
A.紛れもない愛です
魔王にとっての“レヴィに向ける最大級の愛”です
あくまで魔王の物差しですが“純愛”です
人間の物差しじゃないんです
人によっては不快にすら感じるかもしれません
Q.魔王とレヴィの濡れ場はありますか?
A.レヴィ次第です
“レヴィ×アリア”ならシてる
“レヴィ×アリア(魔王)”だからシてない
Q.魔王にまともな知識を入れたらまともになりますか?
A.ならないと思ってます
まともな知識は理性と汲み取る力を持って初めて意味を成すものです
魔王は理性が無いので汲み取ろうとしません
そのせいで知識の真意を全く理解出来ません
なので上辺だけの行動しか出来ない、つまりはまともになれないんです
Q.もし魔王がしてる事をやり返したらどうなりますか?
A.全部呑み込みます
魔王がしてる事は大きく3つです
・大切な人を乗っ取ってる
・強制的に引き剥がす事が不可能な状態にしてる
・本人は出ていく気無し
上記の3つを魔王に押し付けても魔王は『身体も大切な人も邪魔な奴も呑み込んでワタシのものにする』と返しました
行かないで欲しかった
何度も何度も離れないでと縋った
離れないでくれるなら何でもした
文字通り何でもした
でも世間は許してくれなかった
何でもする為には相応の責任が伴う
そんな当たり前の事を理解出来ないくらい
盲目だった
彼女が連れてかれるというのに
自分は大人の体に抑えられて
彼女の手を引く事も出来なかった
一緒に逃げ出せば良かった
世間が彼女を睨む前に
一緒に遠くに行けば良かった
抑えられるより前に自分が彼女の手を握って
うんと遠くに連れてって
彼女の欲という欲を叶えてあげれば良かった
中途半端に足踏みしなければ良かった
慢心して当たり前のように明日が来るなんて
思わなければ良かった
行くなら一緒に連れてって
行かないで
離れないで
自分の全てを壊して気付かせてくれた彼女が
まるで手で掬った水のように零れてく
その日自分は全てから逃げるように走った
お題:行かないでと、願ったのに
〜あとがき〜
14歳
※この作品には少量のグロ、性的描写が含まれています
※苦手な方は次の作品をご覧下さい
“雲類鷲 雫(うるわし しずく)”という人間は異質な個体だっただろう
産声をあげてよちよち歩きまでは良かったが掴まり立ちよりも早く喃語を話し自力で立ち上がれる頃には言葉を理解する知力もあった
最初こそは天才だと称賛の嵐を受けていたが3歳を越えてからは気味悪がられる事の方が増えていた
歳不相応な本や論文を手に取って辞典とパソコンを用いて小さな手で言葉を学ぶ様は両親も恐怖を覚えただろう
クレヨンで絵を描くよりも“クレヨンは何で出来ているのか”とかを調べたり絵画を調べたりする方が好きだった
色の交わりをクレヨンを溶かして学ぶのが好きだった
なんならクレヨンを作る方が好きだった
枠が決まった塗り絵とかよりも真っ白な画用紙に手作りのクレヨンで色を乗せて風景画を描く方が好きで
なんならクレヨンよりも絵の具の方が好きで
そこから絵の具の作り方を学んでは水彩画に行き着いたり
まぁ絵を描くという行為に半年で飽きたのだが
そこからは“父親という役割を与えられた個体”が所持するカメラを分解して再構築するを繰り返したり
“母親という役割を与えられた個体”が所持する化粧品の作り方や原材料を調べたり
調味料の作り方や制作方法で味が変わる理由を知ってからは環境問題に興味を持ったり
小学校という学業施設に身を置くまではソレはもう自由に学んで自由に吸収してきた
小学校というものはそれはもう退屈極まりない
決まった範囲内に収まらなければいけなかったし
興味が有るものも無いものも平等にスケジュールに組み込まれるし
齢5歳で親から白旗を上げられて金を渡すから関わらないでほしいと家から逃げ出された雫にコミュニケーションの大切さを説いて自分よりも知能の低い同年代とグループにされる
同年代は非常に感情的で思い通りにいかなければ怒り喚き泣き叫び
自分で“どんな行動をすれば思い通りの結果を得られる”と学ぶ前に癇癪を起こす周りに辟易する事が多かった
煩わしい事この上ない
《もっと優しい言葉で相手に寄り添ってあげて》と言われた事もあるが寄り添うというのは相手が相応の人間であると理解した上で出来る事だと反論した
ただ寄り添うだけで学びを得られるのなら誰しもがそうする
だが歳を重ねるごとに“寄り添う”とか“寄り添ってもらう”だけじゃ何も通用しなくなる
“寄り添われたいなら寄り添われる為の技術”が必要なのだ
裏を返せば“寄り添いたいのなら寄り添う為の技術”が必要でもある
雫は“心の寄り添い”よりも“利害の一致”や“需要と供給”の方が100倍理解が出来て意味があると思ってる
寄り添う事で利益に繋がるのならいくらでも寄り添うが雫が求めてるものを供給する個体は早々現れない
だから寄り添う必要性を感じなかったのだ
感じれなかったのだ
だから同年代や歳下は勿論、一定の大人とも関わらなくなった
愛嬌を振る舞うのも知能を下げて気を遣うのも疲れるから
13になる年になってからは登校日数を増やしてテストだけ受けてくれれば良いと担当教員に頭を下げられて初めて学校に通うようになった
窮屈な制服のボタンを閉じて長い前髪を耳にかけて特徴的な跳ね毛を揺らしながら春風を切る
周りの視線なんて気にする事なく入学式を終え、教室で自己紹介というものを端的に済ませて、その日以外は教室では無い何処かで時間を潰す
登校はしてる
テストは受ける
最初頭を下げた教員の言葉はしっかりとこなしながら興味がある授業にだけ参加する
クラスメイトからは“綺麗で可愛くスタイルが良い”という見た目の印象と“不気味で自己中で協調性が無い”という中身の印象を与えた
結果として見た目に寄ってきた男は“つまらん”という一言で一蹴
中身の悪さが噂立つ頃には孤立を極めて雫にとっては居心地が良かった
図書室で興味深い本を手に取って読める
理科室に隣接した実験室から物を拝借して好きに使う
パソコン室のパソコンのパスワードや設定を変える遊びも結構楽しかった
勿論全て元に戻すし授業の邪魔にならない範囲の時間帯を選んで行った
《自分が好きに行動するとしても、ソレが他者のやるべき事を邪魔していい理由にはならない》
ソレだけは一丁前に理解していた
だから授業を受ける気がない自分は受ける気がある他者と同じ空間に居るべきでは無いと判断したし
授業があるのなら自分が特定の部屋を陣取る事はしない
その行為が誰かのやる気を削ぐ事に繋がるのなら極力邪魔しない方が良い
だから屋上の出入口の裏
掃除が行き届いていなく誰も使用した痕跡のない狭い空間を私物で綺麗にして己の空間にした
基本的に屋上は不人気の場所だ
雫が入学する少し前に飛び降り自殺をした女生徒が居たらしく幽霊となって出てくるらしい
以来授業で使用しない限りは生徒がやってこない
無論教員も
まるで小人でも住んでるのでは?と勘違いするクオリティの秘密基地が完成するには半年の時間を要した
夏でも涼めるように太陽光発電を利用した蓄電器を設置して小型クーラーも完備
チープな折り畳みだが椅子も机もある
寝転がれるようにブルーシートの上に乗せられたセミシングルのエアベッドもある
勿論エアベッドの上には触り心地の良いタオルケットとクッションもある徹底ぶり
テント替わりになる撥水加工のシートと断熱材の確保は入手に困ったが上手く外壁に溶け込める色合いのものを見つけれて学校外から通報されないように対策もしてる
中にある小型ライトの光が外に漏れないように中は遮光カーテンを利用してた
雫の第2の自室状態と化した秘密基地は誰にも見つかる事なく次の学年へと上がった
新しい担当教員は授業にも出て欲しいと雫に言ったが即断った
それで背中を丸めトボトボと帰ったとしても同情はしない
“雲類鷲 雫という個体が中学校に登校してテストを受ける”という快挙を成し遂げ教員室で褒め称えられた元担当教員を前に現担当教員はそれより上の快挙を求められたのだろう
だがソレは現担当教員の問題であり雫がわざわざ身を呈して合わせる必要は無い
ソレを考えると元担当教員は良い妥協点を見つけて提示できていたのだなと強く感じた
……
学年が上がって2ヶ月
とある男子生徒が雫の楽しみという楽しみを尽く邪魔するかのように自分を探し始めた
独りで過ごす事が好きな雫にとっては厄介な存在だった
しかも相手は雫と同等の学力を有してる
テストの点だけで言えば同率1位として名前が並ぶ事の方が多かった男子生徒だ
名前と当人の噂は知っていれど好きな事を邪魔されて良い気分にはならない
『やっと見つけた。』
そう言って秘密基地の出入口を開ける彼
身長170越えと高く、白い髪と長い前髪を留めてるのであろう黄色の三角型ピン留めを2つも付けて誰にでも好かれそうな笑顔をこちらに向ける
長く白い睫毛に左目の下にある涙ボクロ
男性にしては白い肌
制服のボタンはキッチリ上まで閉じて腕まくりも無しと着崩れ一切見当たらない
コレが“湖登波 陽彗(ことは ひせ)”という“良い子”との出会いであり
「気色悪い笑顔を浮かべながら人を探すな、厄介野郎。」
初めての会話である
………………
そこから夏という季節が到来する頃には陽彗は雫の秘密基地に平気で遊びに来るようになった
最初こそは“授業に出よう”と誘われまくったから嫌悪感満載で対応していた雫だが
今となっては一緒に冷たいお茶を飲みながらクーラーの効いた涼やかな秘密基地で会話をするくらいの関係だ
『雫、前開けすぎじゃない?出るもん出てるよ?』
夏になると今にもボタンが弾け飛びそうなワイシャツを着崩し
最早下着に包まれた豊満な乳房を丸出しにするくらいが当たり前になってた
「気に食わないなら出てけ、此処は私が作った私の空間だ。」
そう言いながらくてぇとエアベッドに寝転がりながら答える
綺麗な白銀色の瞳が黒い下着に包まれた柔らかな乳房に向いては無理やり視線を戻すように目を合わせる
『気に食わないじゃなくて目のやり場に困るかな〜…。』
「じゃあ椅子の向きでも変えるんだな。」
人体について詳しく書かれた本をパラリパラリと読みながらサクサクと短く返す
目のやり場に困ると言いながらも“良い子”ちゃんはちゃっかり見るもんは見てる
“恋愛に興味無い”“もしかしたら同性愛者”の“完璧優等生”という噂は存外宛にならない
人の憶測で語られた“湖登波 陽彗”という存在は噂と違い、ツギハギが目立たないように精巧に作られた中身の無い人形のような存在だった
『いつか襲われるよ?』
「安心しろ、此処から出る時はちゃんと閉めてる。」
だから“人間”に戻してやった
雫にとって陽彗との関係はそれだけだった
本来“人間”と分類される個体を“人間”というカテゴリーに戻してやっただけ
それだけなのに陽彗はエアベッドで本を読む雫に近寄り本を奪って目を見つめながら
『襲われるよ?』
と再度伝えてくる
空っぽの人形に中身を詰めて人間に戻した
たかがそれだけで陽彗は雫という個体に全てを奪われた
最近だと友達よりも“友達でもなんでもない”自分との時間を優先にしてるらしい
“良い子”ちゃんが聞いて呆れる
「襲いたいのか?」
『うん。』
「…好きにしろ。」
陽彗は丁寧に机に本を置いてから甘えるように雫に擦り寄る
チュッチュと首筋にキスして汗ばたんだ雫の肌に舌を這わせて味わう
人間よりも狼に近いのかもな…なんて思いながら陽彗の求愛を眺め
ピンッと何かを思いついた
「陽彗。」
『…なに?雫。』
名前を呼ばれたら興奮冷めやらぬ状態でも口を離して潤んだ瞳なのにも関わらず目を合わせてくれる
狼よりも忠犬だ
「欲しいものがあるんだ、予定を空けろ。」
『何が欲しいの?』
「一切の金銭は発生しないが1人では手に入れられないものだ、協力して欲しい。」
『わかった、いつがいい?』
「出来るだけ早く。」
『じゃあ今日空いてるよ。』
陽彗は雫と会話をしながらも無意識に雫の下腹部に局部を擦り付けている
その感情があるなら今回欲しいものは簡単に手に入れられるはずだ
好奇心と興奮を覚えながらまるで褒めるように陽彗の頬や髪を撫で回してやった
早く学業施設から出れる時間になってほしい
楽しみ過ぎてついつい上がる口角をそのままに陽彗の可愛らしい求愛を受けていた
……
『本当に手土産とか買わなくて良いの?』
「要らん。」
『親御さんは?』
「どちらも不在だ。」
そんな会話をしながら炎天下から逃げるように陽彗の手を掴んで自分の家まで急ぐ
手に入るのならあの場でも良いのだが如何せん道具が足りない
だから早くソレらが揃ってる家に行きたい
『そんなに欲しいものってどんなものなの?』
「2つ欲しいが1つはとても貴重なものだ。1度失くしたらもう手に入らないかもしれない代物だよ。」
『…上手く協力出来るかな…。』
「安心しろ、陽彗。お前は手先が器用だ、なんなら集中力もある。」
『手先と集中力でなんとかなるものなんだ。』
早歩きで家に着いては鍵を使用して扉を開ける
“ただいま”も何も言わずにローファーを脱ぐ雫とは反対に“お邪魔します”と小さく行ってから靴を脱ぐ陽彗
それほど広くもなく小さくもない一軒家で靴を揃えてから雫は陽彗を洗面台に連れていき強制的に手洗いうがいをさせた
無論雫もやった
そして2階にある雫の自室に急かすよう陽彗を連れていく
初めての雫の家に緊張してるのか手が強ばってるが雫にとっては関係無い
「此処が私の部屋だ。何も触るな、清潔を保て。暇なら好きな物見てろ。必要なものを準備する。」
清潔感のある木目調の白い床に大きなベッド
勉強机と思わしき机の上には大きなパソコン
椅子は長時間座れるものを
大きな棚が3つもあって部屋は窮屈に見えなくもない
1つ目は服がしまってある棚
2つ目は様々な言語の小説や論文書
3つ目はホルマリン漬けにされた小動物や骨格模型、中には小さな目玉や脳みそが浮かんでるものもある
透明の標本ケースにはパッと見て名前が浮かばないものもある
陽彗が興味を持ったのは3つ目の棚だったらしい
『コレって本物?』
「あぁ、生きたまま持ち運ぶのが許されない外来種を捕ってその場で捌いたものもある。」
『このネズミは?』
「剥製だ。」
『骨格模型…』
「自分で作れるものは自作だ。」
『コレは?標本ケースに入ってるやつ。』
「厳重にされてるのはカビ。他は微生物。ドーム型のやつは虫だな。」
『凄いねぇ。』
「さ、自由時間は終わりだ。」
雫はベッド脇の小さなテーブルから本を退けてベッドに乗るには些か邪魔な位置に移動させる
自分の手を再度消毒液で清潔にしてから使い捨ての手袋を手際よく付けて
熱消毒済みのトレーには清潔なガーゼが敷かれ、上には膣洗浄機、クスコやメッツェンバウム剪刀、更に薄くて丸い標本ケースも乗せてある
無論全て消毒済みのものだ
ベッド近くにある小さなテーブルの上にトレーを置いて陽彗に使い捨ての手袋を装着させる
『な、ぇ、何するの?』
「欲しいものを手に入れるんだよ。」
『何が欲しいのか明確に教えて欲しい。』
「処女膜だ。」
『…ぇ……。』
陽彗は手に使い捨て手袋を付けられながら欲しいものの名称を聞いて軽く絶句した
そりゃそうだ、処女の女を欲しがる奴は居ても処女膜だけを欲しがる奴は珍しい
「前々から欲しかったんだが鏡と自分では難しくてな。」
『いや、その。』
「もう中を見る事も難しいから処女膜を拝むのも出来なかった…あぁ、良ければ写真も撮って欲しい。撮った後は私に送れ。あと手袋も付け替えるんだ、あそこにあるから。」
『でも俺男だよ!?』
「だからこそだ。女性器というものに興味はあるだろ?性器を見せ合うのは同性に比べ容易い。」
『確かに興味はあるけど…。』
「嫌なら断ってくれて構わない、別の協力者が現れるのを待…」
『やる。』
別の人間の気配を察知した瞬間陽彗は即答をした
コレが独占欲というものか…なんて思いながら制服のスカートをハラリと脱いで黒いレースの下着を脱ぐ
そして清潔な防水シート越しに枕やクッションを重ねて位置を調整して摘出の様が見えるように軽く上体を起こせる形にしつつその上にいそいそと寝転がった
「使い方は分かるか?」
『全然。』
「まず陽彗も近くに来い、ベッドの上より脇に座った方が見やすいだろ。」
『……女の子のって…こう…もっとグロいイメージがあった。』
「私は未経験だから色が薄いだけだ。」
『触ってもいい?』
「まずは膜の採取だ。」
雫はそう言ってから膣洗浄液のキャップを外して女性器の表面に軽く洗浄液をかけてから膣内に先端を挿入して中を綺麗にする
そして空になったものを器具に触れないように離して置き直し…後は陽彗にやってもらう為に指示をした
「その銀色の丸いヤツがあるだろ?クスコ膣鏡と言われるものだ。ソレを少しだけ挿入してから膣を広げて欲しい。少しだけだとアレだな…まずは1cm挿入して軽く広げてくれ、思ったより奥に膜があったらもう少し挿入して良い。」
陽彗は言われた通りにクスコを手に取り雫の柔らかな大陰唇を僅かに広げて膣に器具を軽く挿入した
そしてゆっくりと開いて
中は綺麗な色合いでくすみも何も無い
そして環状処女膜が露になる
『ど、どこまで切って良いの?』
「さぁな。」
『さぁなって…。』
「まずは形を教えて欲しい。」
『えっと…なんか…なみなみしてる?』
「ふむ、真ん中に隙間があるか?」
『ある。』
「じゃあそこから2mmくらいを目安に切り取ってくれ、クスコは私が固定しておく。そこの細い鋏があるだろ?アレを使うんだ。」
『…わかった。』
陽彗からクスコの持ち手を受け取り自分は開き過ぎず閉じ過ぎず、明かりの位置で影になりづらいように持ち手の位置を調整
その間陽彗は鋏を手に持って開き具合や閉じ具合を確認してから軽く息を吐く
「出来るか?」
『やる。』
「任せた。」
短い会話をしてからゆっくりとメッツェンバウム剪刀が膣内に入り
処女膜の1部をチャキッと小さな音を立てて切った
そして小さな金属音がチャキ…チャキ…と部屋に響く
お互い何も喋らないのは集中してるからなのと単純に痛いからである
処女膜も内臓の1部だ
ソレを麻酔無しで切除すれば相応に痛い
だがソレと同時にやっと手に入るという高揚感がアドレナリンの分泌を促して気持ちマシに感じた
『き…切れたよ……。』
「軽く挟んでケースに入れてくれ。」
陽彗はゆっくりと膣内から処女膜を取り出してケースに入れ、ちょいちょいと形を整えてからメッツェンバウム剪刀をガーゼの上に置いて初めて息をついた
雫もクスコを閉じて抜いてガーゼに置いてからキラッキラの瞳で標本ケースの蓋を閉めて持ち上げる
「こ、コレが処女膜…本で見るよりも感動的だ。上手く漬けて保存しておいてやるからな。」
キャッキャと下半身裸のまま喜んで愛おしそうにケースを撫でる雫を他所に陽彗は軽くベッドに寄りかかっていた
『痛くないの?』
「痛みより興奮が勝つに決まってるだろ!この日をどんなに待ち侘びた事か…。」
『嬉しいなら良かったよ。』
「という訳で次は2つ目だな。」
『…へ?』
ケースをガーゼに包んで勉強机に置いてから手袋を外してトレーの置いてある小さなテーブルを元の位置に戻す
さっさと防水シートを拭って小さく纏めてゴミ箱に詰めた
「言っただろう?2つ欲しいものがあるって。」
『でも今凄く疲れてるよ?出来る?』
「陽彗、お前は若い。出来る。」
『今度必要なのは若さなんだ…。』
雫は今度は少し縦長の標本ケースを持って来た
何に使うのか陽彗には検討も付かないだろう
1つ目が手に入った喜びと2つ目へのワクワクが止まらないのか歳相応のあどけない笑顔で陽彗に要求を話す
「2つ目は“精液”だ。脱げ。」
『……はい?』
「精液だ、ザーメンでも良い。」
『こ、この状況で?』
雫は標本ケースを両手に持ちながら陽彗の前にちょんっと座る
そして陽彗の胸に手を添えて渾身の上目遣いで一言発した
「…嫌か?」
『良いよ。』
「よし、なら脱げ。」
『…ぁ〜…も〜…。』
言質さえ取れればこちらのものだ
即座に立ち上がり上目遣いをやめてぽすぽすぽすとベッドを叩く
雫の渾身の上目遣いにまんまと引っかかった陽彗は顔を覆って悔しがる
そして今度は陽彗が下半身の衣服を脱ぐ番になった
ベルトを外して制服のスラックスを膝まで脱いでから黒い下着を下ろす
「なんだ、ノリ気じゃないか。」
『…思っても言わないでください…///』
初めて性器を露出させたからか顔を赤くして声も小さくなる
だが陽彗の男性器は重力に逆らうように持ち上がってる
ソレを見た雫は興味津々にツンと指先で陽彗のに触れた
『ちょっ!?///』
「どうせ精液を採取する為に刺激を与えるんだ。少しくらい観察させろ。」
『待って!恥ずかしい!1人でやる!///』
「!?待ってくれ!私はただ人間が射精する瞬間を見たいだけだから!」
『ソレを見られるのが恥ずかしい!///』
「じゃあ私は何を見せれば良い!?」
『そういう問題じゃなくて!///』
陽彗が恥ずかしくて下着もスラックスも上げる前に雫は夏用のワイシャツを脱いではブラも脱いでニーハイソックスだけになってから陽彗を無理やりベッドに座らせる
「いくらでも見て構わない、頼む。」
14歳にしては大きな乳房を陽彗に押し付ける
雫の体では精液を採取する事が出来ない
誰かと性行為を行ったとしても自分の分泌液やコンドームの潤滑剤などの不純物が混ざるから自慰行為してもらうのが1番良い
欲を言うなら射精する様やその際の男性器の特徴も見たい
だから手段は選ばない
『……わか……った…///』
「ちなみに唾液や愛液が混ざるのは困るから手伝い方は限られてる。陽彗が私に触れるのは良いが私はあまり尿道周りに触れられない。陽彗は右利きか?左利きか?とりあえず私に触れる時は利き手とは違う手で触れて欲しい。あと射精する時は目の前で見せて欲しい。」
『………………はい…。』
再度言質を頂いた為パッと離れてから注文をつらつらと並べながら手に持ってる標本ケースをフリフリする
その多い注文に陽彗は声を絞り出してからたどたどしく自分の性器に触れて上下に手を動かした
陽彗の足の間にちょこんと座るようにしてその様を興味津々に眺める
頬を赤らめて目線を逸らす陽彗の事なんてお構い無しだ
「少し触れて良いか?」
『い、良いよ///』
ちゃんと許可を得てから陽彗の睾丸に軽く手を触れる
熱くて時折ぴくんッと動き、柔らかいのに中に程よい固さを感じられる
自分には無い部位に興奮が隠せず睾丸の重さを手で計ったり付け根の部分をさわさわしたりと触れる手が止まらない
『雫…くすぐったい……///』
「はっ…すまない、あまりにも魅力的で…。」
『…俺も雫を触りたい…///』
「良いぞ、いくらでも触って良い。」
『…キスして…///』
まるでオネダリするように接吻を要求されればベッドに片膝を乗せて唇にキスをする
まるで陽彗が首筋や鎖骨、胸元にしてたように
…そういえば唇でキスをするのは初めてだ
口を離せば顔を赤らめて目をぱちくりさせる陽彗が居た
「口は間違いだったか?」
『俺…はじめて…。』
「私もだ。」
そう言ってから今度は間違えないように右手側に体を寄せて首にキスしたり鎖骨にキスしたりする
荒くなる息が伝わる中陽彗は右腕で雫を引き寄せて髪の香りを嗅いだり柔らかな胸を右手で揉んだりし始めた
直に触られるのは初めてだから少しだけ肩が跳ねる
いつもの求愛とは違う触り方だから驚いただけだと自分を誤魔化した
「私の匂いは好きか?」
陽彗はコクコクと頷く
「私の体は好きか?」
『…雫の全部好き。』
頷くだけかと思いきや言葉で返された
体という限定的な言葉に反論した結果なのかは分からないが右腕で強く抱き締められる
そこまで好かれる程の関係なのか?とも思うが…そう思ってくれるのならありがたい
人間は好意を抱いてる人に愛を囁かれるとドーパミンやオキシトシン、PEAが分泌されるからだ
「愛してるよ、陽彗。」
『!?ッぅあッ!?』
そう耳元で囁いた途端ビクッと陽彗の体が跳ねる
反射的に標本ケースを近づけた
危ない、採取が遅れる所だった
びゅっと出てくる白い液体は思った以上に濃くて粘度が高い
あと…
「多くないか?」
標本ケースの蓋が閉じれなくなる前に離したがパタタっと床に精液が飛ぶ
なんなら陽彗本人の手にも精液がべっとりと付着している
男性の平均射精量3mlという知識はあるが明らかに3mlとは思えない
ビクビクと男性器が跳ねて、ソレを握る手が震え、フッフッという浅い息が聞こえる
やっと止まったのか呼吸を整えようと必死になる陽彗の頭をポンポンと撫でながら標本ケースに入った精液を眺めた
これの中心くらいから少量採取して真空状態のパックに移し冷凍すれば精子は長持ちするだろうか
『しず…雫…雫…。』
「どうした?陽彗。」
『俺もすき、愛してる、好き。』
自分を強く抱きしめるこの男…多幸感を感じるホルモン分泌に慣れてないのではなかろうか
それか“良い子”で居るためにそういうものをシャットダウンしたのか
理由は分からないが自分に対しメロメロになってる陽彗の頭を優しく撫でてあげた
「陽彗…。」
『…なぁに?』
「収まらないのか?」
ずっと勃起状態の陽彗に問いかけたらこくんと頷かれた
興奮状態が続いてると勃ち続けてしまうというのは知識にある
本来なら自分は服を着て陽彗を落ち着かせるべきなんだろうけど
右腕が離れる事を許してくれないし
なんなら離れないように左腕も追加された
「…収まるまで付き合うよ…。」
散々煽ったツケくらいは払わなければいけない
……………………
「ぃ"ッンッッ♡ひせッ♡ま"っッ♡♡ﮩ٨ـﮩ♡ـﮩ٨ـﮩ!?♡♡」
もう二度とツケなんて払いたくないと思うくらいには陽彗の体力と性欲を甘くみていた
男という生物についての知識が足りなかった
採取に使えるかと思って購入し、使えないと判断していたボックスのコンドームが全部消費されたのは言うまでもない
お題:秘密の標本
〜あとがき〜
連日こんな作品で申し訳ないごめんなさい
※この作品には特殊なものや性的描写が含まれます
※苦手な方は次の作品をお読みください
「寒いのは嫌いか?」
分厚い雲が太陽光をこれでもかと覆い隠し
午後4時だと言うのに外は夜の如く暗くなり始めていた
そんな中で“雲類鷲 雫(うるわし しずく)”という名の女子が“湖登波 陽彗(ことは ひせ)”という名の男子に問いかける
「嫌いじゃないよ?」
「そうか。」
その問に対して嘘でも“YES”と答えるべきだった
雫は先程までは儚げな横顔を見せながら自室の窓の外、遠くを見つめていたというのに
ゆるゆるふわふわのくせっ毛とハートを象ったようなアホ毛を揺らして陽彗に視線を向けてニヤリと笑った
黒くて大きな瞳がふっくらとした涙袋と二重線の入った瞼で細められて
長い睫毛がただでさえ少ないハイライトを影で隠し更に怪しさを増している
雫の艶のある黒髪と正反対の白髪を緩く結ぶ陽彗は嫌な予感が顎を擽るように忍び寄るのを感じた
……
「流石に寒いよ?」
「嫌いじゃないなら良いんだよ。」
分厚い雲からチラチラと雪が降り始めて数時間…靴底からムギュっという音を鳴らしながら日にちが変わるか否かの時刻を雫と陽彗は楽しげに散歩する
「普通に風邪引くって…。」
「風邪で休むくらいじゃ騒ぎにならんさ。」
主に楽しげなのは雫だ
少々特殊な形の厚手の黒タイツ
裾にふわふわとしたファーが付いた白いロングスカート
ケープ付きの黒い上着は白銀に近づく世界に合わせたかのような銀のボタンが規則正しく横並びで2つ、縦並びに3つ、合計6つ
モコモコの長いマフラーをもふっと首に巻いて足元は黒いロングブーツ
「そういう意味じゃなくて…なんでこういうの持ってるの?」
対して陽彗の服装は不憫と脳裏に浮かべて構わない
白い髪がよく映える黒いロングコート
……
のみだ
いや、“のみ”と使用するには些か語弊が含まれる
詳しく言うのなら雫の家に遊びに来た時に履いてた黒い無地の靴下とフェイクレザーを使用したスマートカジュアルなデザインの黒い靴
ワンコーデというものの説明をするのならコレだけである
雫は黒い上着の下に厚手のタイトセーターを着ているにも関わらず
陽彗のコートの下は何も着ていない
また語弊が失礼した
着させて貰えなかった
「コートは私を作った精子側から拝借した。」
「父親の呼び方改めた方が良いよ。」
「それともこちらの方が気になるかな?」
雫は自分が両親の事を“卵子側”と“精子側”…なんて呼んでる
人様に聞かれたら一度は聞き返してしまうような呼称は何度耳に入れても馴染まないもの
だがそんなものよりも陽彗が目に映るのは手綱だ
持ちやすいように握る部分はしっかりと柔らかな布で構築されてるというのにそこから垂れる銀色の鎖は重力に従い
そして逆らうように陽彗の首に繋がってる
コレが“野外露出プレイwithお散歩コース”というやつらしい
意味がわからない
「首輪もそうだけど人の目が1番気になるかな…。」
「そういう忠犬くんの為に泣く泣くこの時間にしたんだ。我ながら随分譲歩した方だと自画自賛してしまう。」
「100歩譲る気持ちで来て欲しかったよ。」
「譲っただろう?」
……
雫が思い立ったのは午後4時
陽彗が本音という回答が誤ちだったと気付いたのはそこから数分後の話である
ジャラリと音を立てて首輪を出された時は145cmの雫を前に30cmは視点が上の陽彗が部屋の隅に追い詰められ縮こまる自体になった
『陽彗、お散歩しよう。』
綺麗で整った顔で、とてつもなく良い笑顔で放たれた言葉に体質上色白な肌から血の気が引いて青ざめる感覚を覚えた
ただ体が朽ち果てる“死”ではない
目の前にあるのは生き地獄になるであろう“社会的な死”だ
『待って、俺マフラー持ってないから。』
『そんなもの必要ない。』
『パッと見て分かる変質者になるよ?良いの?』
『卵子側と精子側も常時不在、学業もある手前ペットを飼った事が無かったんだ。』
『質問の答えになってないよ?』
『愛玩動物(ペット)と散歩はしてみたいものなんだよ。理想は叶えてなんぼだ。』
『人間をペット扱いしてる時点で変質者の代表だよ…。』
『さ、行こう。』
『ま、待って…。』
『散歩より芸を覚える方が好きならそう言ってもらっても構わない。』
笑顔で対人間用の、“そういうプレイ”用の本格的な首輪を握る雫の“芸”という言葉があまりにも想像出来なくて必死に妥協に妥協を重ねる話し合いが行われた
いや、話し合いと表現するのも間違いだ
己の欲に全てを全振りした雫の要求を陽彗が懸命に引き伸ばしただけの時間稼ぎに過ぎない
……
《せめて人目の少ない時間が良い》
《愛玩動物の個体性質に合わない空間に放り出さないで欲しい》
唯一通った陽彗の要求は“《》”で示したものだけだ
もう陽彗は自ら自分を“ペット”として認識した上で説得していた
なんかもうそうしないとコートや靴は愚か靴下すら履かせて貰えなかったかもしれないからだ
「雫の100歩の価値観が俺と違いすぎるよ…。」
「人の価値観は千差万別だ。誰しもが己と同じ価値観だと思うと、こうして足元を掬われるぞ?」
今にも鼻歌を歌いスキップしそうなくらい上機嫌な声色でジャラジャラと鎖を揺らす雫からは説得力しか感じない
価値観の違いと立場の違いを脳でも目でも理解できる
「本来あの場で逃げ出して“私(変人)と関わらない”って選択肢もあったんだ。ソレを自ら手放してたのは紛れもなく陽彗自身、そうだろう?」
更に追撃を喰らえばぐうの音も出てこない
本来は自分よりも小さくか弱い雫を押し退けて逃げる事だって陽彗には出来た
出来たのだ
それと同時に出来なかったのだ
「コレが“私(変人)と生きていく”という選択をした者の末路だ。嫌なら今から服を取りに家に帰っても良い、私は“来る者拒まず去るもの追わず”をモットーに生きてるからな。」
その言葉を聞いた途端、陽彗は反射的に雫の上着のケープを優しくキュッと握った
陽彗の視界に映るのは自分よりも小さくか弱い同年代の女子の服を割れ物でも扱うかのようにか弱く握る…関節部分が血色を帯びた男の手だった
「そんなに私から離れるのが怖いのか?」
雫はそんな陽彗の為に立ち止まり
己の持っていた手綱をグイッと引いた
身長差も相まってグンッと音を立てて頭が持っていかれる
強く響いたジャラリという音が鼓膜を揺らし首がギュッと瞬間的に締め付けられる
その直後に雫の胸にもふっと顔を埋めた
「可愛い忠犬め。こんなド変態極まりない人間の愛が欲しいほどに飢えてたのか?」
厚めの上着やセーターの生地を貫通する雫の高い体温と女性の柔らかさ
カクンと折れる膝が日本特有の湿った雪に付き、ロングコートが濡れていく
なのにすぐ立ち上がる事もせずに陽彗は雫を抱き締めた
豊満な胸とは裏腹に細くて簡単に折れてしまいそうな腰周りに程よく筋肉がついた腕が絡む
「…行かないで……。」
小さく小さく陽彗は絞り出した
それはもう小さな声だ
「陽彗は“良い子”と称される部類の人間だ。」
「…いらない……。」
「陽彗の親も陽彗の事を自慢に思ってる、陽彗は友達だって大勢だ、教師からの信頼も厚く成績も優秀の優等生。」
「…そんなのいらない…。」
「そんな陽彗がどうして“親にも見てもらえず友達も作らず教師の期待を裏切る欠陥品(私)”に…」
「そんなの要らない!」
陽彗は何も知らなかった
“良い子”で居るのが当たり前だと思ってた
親が自慢げに自分の話をして周りから羨ましがられる地位に恍惚とした表情を浮かべてたのも
女友達が自分を顔や態度や将来の可能性で計ってあわよくば手にしたいと目をギラつかせてたのも
男友達が自分を恋のキューピットと称して意中の子の傷心を舐めて己の物にしたと団欒してたのも
先生が手のかからない良い子ですとニコニコと会話してまた問題児と同じクラスにして負担を減らす手段にしようとしてたのも
全部陽彗なのに“陽彗”じゃなかった
「…“悪い子”でいい…。」
「“良い子”の方が都合が良い。」
「じゃあ雫にだけ都合が良い俺がいい。」
それに1番早く気付いたのは当時名前しか知らなかった“雲類鷲 雫”だ
陽彗が当たり前だと思い込んでた全てを壊して壊して壊して
違う世界を見せて選択肢というものを広げてくれたのが雫だ
『当たり前が当たり前じゃない、だから人類は発展した。』
そう言って陽彗の世界を、視野を、選択を
広げるだけ広げて背を向ける雫
今まで“良い子”というレールの上を歩く自分を前に雫は常に“選択肢”を与えた
雑に言うのなら《“やる”か“やらない”か》
初めて自分にも様々な“やる”と“やらない”が存在する事に気付いた
“全てやる”が“良い子”だったから
「雫が望むなら悪い子でも良い子でも良い。」
更に追記するのなら雫は選択肢を出す前に必ず“陽彗本人の気持ち”を確認する
陽彗が“嫌い”とか“嫌だ”と言えば“同じ質問を繰り返さない”
そこからは流されるように雫の要求が出され
陽彗は戸惑いはするも何でもした
そこには“陽彗だから”ではなく“雫本人がやりたい”のだと分かるから
裏を返せば雫は陽彗じゃなくても構わないのだ
雫がやりたい事が出来るのなら誰でも良いのだ
つまり“良い子”を取り繕う必要も無ければ
100点満点なんて出さなくて良い
こうして情けなく縋り付いても良い
こうして胸に顔を埋めて甘えても良い
「クハハッ“悪い子”だな。」
耳も鼻も頬も赤くした顔で女々しくポロポロと大粒の涙を零しても良い
陽彗の耳を覆うように雫の暖かい手が添えられ顔を上げさせられる
そして表面が冷たい唇と暖かくて柔らかい唇が触れ合う
「陽彗、私は“悪い子”だ。」
「…知ってるよ。」
「それに着いてくるお前も“悪い子”だ。」
雫はそう言って柔らかな白髪を撫でた
陽彗は心底嬉しかった
どれほど“良い子”と言われてきてもこんなに嬉しく思う事は無い
あまりにも心地好くて嬉しくて仕方なくて
ソレが言葉よりも体に出てしまうのが少々悔しくなる
「ココでは出来ないな。」
下着もボトムスも着用してないならテントなんて簡単に張れる
ソレがスカート越しに柔らかな太腿に当たれば言わずもがなバレるものだ
「おいで、近くに公園がある。少し寂れてはいるが寧ろ助かるだろ?」
雫の言葉にコクリと頷いてから立ち上がってお散歩に戻る
今さっきと違うのは雫の手には手綱が、陽彗の手には雫のアウターのケープがチョンっと摘まれてるところ
人通りの少ない道を通って錆びた遊具にまみれた公園に行き着く
真ん中にある所々錆びた複合型遊具、端に添えられた鉄棒とブランコ
あと薄暗い講習用トイレ
「さ、どれがいい?」
「どれって…?」
「選択肢は4つだ。好きなのを選べ。」
なんか雫の言いたい事がわかった気がする
この雑草が生えまくった寂れた公園は見てわかるように手入れがされてない
ソレを踏まえた上で公衆トイレでバレずに発散するか
雫の目線の高さに近い鉄棒を彼女に握らせて発散するか
…ブランコは想像出来ないが
「じゃあアレ。」
「わかった。」
陽彗が指し示すは複合型遊具だ
ジャラリジャラリと鳴る鎖の音
ムギュっギュッと鳴る足音
雫が滑らないように登るのをサポートしながら複合型遊具に登って
今度は愛玩動物がこっちこっちと言うように複合型遊具の上を軽く歩く
そしてトンネルのように設置されたドラム缶の前に来た
「雪も積もってないし公衆トイレよりは綺麗だよ。」
「ふむ、スリルは60点だが音が響くという点では少し面白いな。」
そう言って雫は鎖を肩に乗せるようにして屈みドラム缶の中に入っていく
勿論繋がった陽彗も入らなきゃいけない
「意外と中は広いんだな。」
「俺に取っては少し狭いかな。」
「ふん、まぁ高い低いよりこちらの処理の方だな。」
「ぁッ///」
雫は意外と強気で無敵な人に見えるが身長に対しては軽くコンプレックスを抱いてる
《小さいけど態度と胸がデカい女》
男子の中では名前すらも覚えて貰えずにそう呼ばれていた
だがコンプレックスを軽く刺激されたからと言って怒るような人ではない
少しばかりムッとはするが今ではコート越しに膨らんだ陽彗の先端を擽るように指の腹で優しく触り擽ってくる
そして空いた手で器用に首輪から鎖を外した
「忠犬くん、ドッグランでは“お友達”と遊ぶらしいね。」
「違うよ、雫。」
「ほう?」
「“友達”じゃなくて“好きな相手”だよ、あと俺は遊びじゃなくて真剣。」
「クハハッ、確かにソレもそうか。」
雫は上着の小さなポケットから“はい”とゴムを一つ陽彗に手渡して、ケープを外してクッション代わりにしてから鎖と手綱をそこに置いた
そして胸膝位の体制に入っては長いロングスカートを捲る
そこには恥部を良い感じに隠すふわふわの尻尾がある
“そういうプレイ”用の尻尾の付け方は後ろの穴を使用するやつ
最初は陽彗が付けられそうになったが裸コートで構わないからソレはいつかにしてくれと頼みに頼んだ結果何故か雫がつけている
まぁソレが見えるという事はつまり…お尻や恥部といった本来下着で守らなきゃいけない部分を雫は露出させながら歩いてた訳だ
特徴的な厚手のタイツは“股空きタイツ”というもの
「忠犬くんは“好きな相手”とやらに優しくするタイプかな?それとも…“真剣”にヤるタイプか?」
「それは雫が自分の部屋で考えてよ。」
「答えを焦らすタイプは嫌いじゃない。」
コートのボタンを軽く外して陽彗はそそり立つ肉棒を顕にし、コンドームを装着した
そして頭がゴインとドラム缶にぶつからないように雫にマウンティング
自分より小さな手や背中、細い腕や腰、脇腹からむにぃっと溢れた胸の肉
柔らかな髪に顔を寄せて0距離で甘いシャンプーの香りを堪能しながら重力に従う尻尾を雫の腰に乗せる
そして先端をぷにぷにの大陰唇に押し当てて筋をクニクニと押しながら撫でた
「…濡れてる。」
「わん。」
「え、そこから?」
くちゅ…と優しくなる水音がドラム缶に響いた感想を零したらとてつもなく可愛らしい声で鳴かれた
もしかして自分達とてつもなく高度なプレイをしてないか?と陽彗は思った
だが少しだけ上体を上げてスリスリと顔を擦り寄らせて“クーン”とわざとらしく鳴く雫を前にするとぶっちゃけ凄く興奮する
ぷにぷにの大陰唇を押し退けて
濡れた小陰唇を軽く腰を揺らして左右に分けて
1番濡れて濡れてたまらない膣口に挿入した
「んッ…ンゎん…ッ♡」
狭い膣内にも関わらずキュンキュンと膣肉は締め付ける
フッフッフッと荒い息を雫に押し付けるように抱き締めて上半身を押し潰しながら腰を振った
最初は水音だけを響かせるゆっくりとしたピストンだったがGスポットと真反対の位置の膣肉の盛り上がりに興奮が止まらなくて肌を打ち付ける音も響かせる
「ぁんッンきゅッ♡ゎうぅッ♡♡」
いつもの喘ぎ声とは違い犬のように鳴きながら艶声をドラム缶内に響かせる雫
陽彗はいけない扉が開いてしまいそうだったから抱きしめる腕をズラし大きな手で口を塞いだ
柔らかな頬と唇の感触と声を出す事で感じる振動
それよりもGスポットを押し潰し
奥に先端を届かせる度に吸い付く子宮口に潜らんとばかりに押し上げる
2人の荒い息と肌の音と水音が響くだけの暗い空間で犬みたいな性交をする
好きな相手が逃げないように必死に押さえ付けて押し潰して苦しそうな息が手にぶつかっても気にせずうねる膣肉を掻き分けて大事な臓器に濃厚なキスを落とす落とす
「ん"ッ♡〜ッッ♡♡」
膣肉がキューッと締め付けビクビクと跳ね、ビチャチャッという音がドラム缶内に響く
その意味を理解してるのに理性が働いてくれなくて腰が止まらない
口を抑える手に唾液が絡むのが分かる
“ごめん”とでも言うように雫の頭に頬を擦り寄せて何度もキスした
だからと言って陽彗は腰を止めるつもりはサラサラ無いらしい
……
「ン"ッう"ッーッ"♡ん"ッ〜ッッ♡♡」
何度も何度もギューっと膣肉が締め付けられる度にタイツもコートもスカートも濡れる
狭い空間のせいで体制を変える事も許されず
抑え付けられてるせいで身を捩る事も許されず
ただただ快感を与えに与えられた聡明な脳みそは膣内と同様に蕩けてる
陽彗が遅漏というよりか雫が敏感で絶頂しやすいのが正解なんだが
流石に絶頂したばかりの体に追い打ちを続けまくる陽彗も陽彗
「…ッ…ィくッ。」
端的にソレだけ伝えてから下半身を押し付け
別に子宮内に出せる訳でも無いのに最奥で種付けするように射精する
尿道を押し広げるくらい濃い精液がゴムを伸ばしていく
「しずッ…今ッだめッ…///」
陽彗は自分が吐精したと同時に締め付ける膣肉に肩を跳ねさせた
男も女も達した時が1番敏感なのは知ってる
知ってるけど搾り取られるような感覚でうねり締め付けられたら止まるものも止まらない
たっぷりと出し切ってから雫の口元から手を離す
濡れた掌から銀糸が伸びて雫が大きく息を吸って吐いてを繰り返す
「…ぉい…。」
「…苦しかった…?」
「そっちじゃない。」
「…ぇっと…。」
「…なぜ私だけワンコロしてお前は普通に人語を喋るんだ?」
「そっち?」
ぷいっとそっぽ向いてしまう雫が可愛くて唾液まみれじゃない方の手でよしよし頭を撫でてから抜こうと陽彗が上体をあげた時
ゴインッ
良い音がドラム缶内に響いた
思いっきり後頭部をぶつけた陽彗は声にならない声を出しながら痛みに耐える
「……クハハハハッワンコロしないからだ、バチが当たってやがる。」
ケラケラと笑う雫にムッとして腰に乗せられた尻尾を濡れてる手で掴んで軽く引っ張ってやった
「ン"ア"ッ!?♡♡」
少しばかり盛り上がる肛門から尻尾が抜けないようにクイックイッと引っ張って弄ぶ
「今度は俺がリード引いてあげようか?雫はスカート脱いでさ。」
「ンッ♡ぅッ♡ぬけるッだろッ♡♡」
「じゃあ抱っこしてあげるよ。」
「ン"ッぉ"ッぉまえッちょうしにッッ♡♡」
ちゅぽんっと音を立てて肛門からビーズ一つ分を抜いてやる
ビクビクと膣肉が跳ねて“/╲︿_ღ__/╲_ッッ♡♡♡”などというソレはもう声にならない声を響かせる
「じゃ、雫。家に帰ろっか♡」
今手綱を握ってるのは雫ではない
陽彗は手を伸ばして鎖だけを回収してから膣内から肉棒を引き抜く
たぷんっと膨らんだゴムを上手く脱いで縛って…なんか公園に捨てるのは忍びないから顔も知らない雫のお父さんに謝罪しながらポケットにしまった
ドラム缶から出て這いずるように言う事の聞かない下半身を持ってしまった雫をズルリと抜くように抱き上げる
そして脱がしはしないけどスカートを託しあげた状態でお姫様抱っこ
つまりは垂れる尻尾を見せびらかすように雫の家に向かった
「温度差凄くて寒いね。」
「…私は…熱い…。」
「体温高いからね。」
「…もっとゆっくり歩いてくれないか?揺れる。」
「尻尾が?」
「そうだ。」
「もう1個抜いてみる?」
「ココでか?」
雪が積もり凍えそうな寒空の下
きっと日付も変わった時間帯
誰の目にも触れずに2人は親の居ない雫の家に戻った
ベッドの上で尻尾を外した後の雫の姿に興奮して第2Rが始まった事に関しては言うまでもない
2人共14歳とまだまだ若いのだ
お題:凍える朝
〜あとがき〜
凍える朝は対義語である熱い夜で相殺します
お題に抗うのもこのアプリの面白い所
自分の作品と自創作子でありながら随分とまぁ特殊極まりないプレイをしてますね…
という事はさておき
陽彗という自創作子は本来は男性なんですけど私の趣味で女体化させて遊んだりしてる為
このアプリ内では“女性の陽彗”と“男性の陽彗”が混在してると思います
なので改めてココで言わせて頂くと“男性の陽彗が本軸であり女性の陽彗はif”です
という事で皆様凍える朝も夜も続いていきますしまだ始まったばかりですが
風邪をひかないようお気をつけください