《誰しもが主人公だ》
その言葉を放つ人間の大半はちゃんと主人公のような人生を歩めたんだろう
然し残酷ながらこの世の中というのは大半がモブで出来ている
その人が死んでもフルネームが後世に遺る事は決してない
身内が嘆き悲しみ啜り泣いて葬式を行ったとしても
半世紀くらい時が経てば名前を思い出すのも困難だろう
墓に彫られるのは苗字であり“その一族が生きた証”でしかなくて
その中の何人の名前を覚えていられるかと問われれば大半が“覚えてる訳がない”と言う
それが“モブ”だ
誰にも名前を覚えられる事も無い
小説で言えば容姿こそ端的に書かれても名前までは出てこない
アニメで言えばワンシーンの一部に溶け込むだけで声を当てられたら幸運くらいだ
豪華声優が当てられるネームドやネームドモブにもなれない存在がモブだ
じゃあモブは本当に景色でしかないのだろうか?
声も持たない、心も無い、価値も無い、誰の中にも遺らない
本当にそう思えるだろうか?
自分の人生を見返して欲しい
何か素晴らしい事をやり遂げたか?
誰かの人生を大きく変えれたのか?
後世に繋げれる物を生み出せたか?
結局自分だって半世紀後には名前も覚えられてないモブなのだ
そんな“名前を遺せる事を何一つ成し遂げてないモブ”にも人生がある
この作品に名前すら載せてもらないモブにも人生がある
メインじゃない存在にも一丁前に生きて死ぬ過程がある
ソレを綴るだけの作品を創る自分もモブでしかない
だから書きたかった
少々モブにお付き合いください
【鳳凰帳~名も知らぬ戦士達~】
《獲麟衆》
鳳団が獲麟衆を攻め込む事が決まった
獲麟衆の面々はピリピリとした緊張感に包まれながらも各々がどう動くかを話し合い
名前を覚えてもらってるかも怪しいモブ構成員は命令に従うのみだった
『みんな、小型モーターは持った?あと護身用の武器は必ず持つ事、仕掛ける爆弾は雑でも良いから一定区画で置いてこう。』
捨て駒のように扱われるモブ構成員に指示を出すふわふわ金髪の優しげな好青年は皆の腰にきちんと小型モーターが付けられてるか、一定数の小型爆弾を持ててるかを確認してく
モブ構成員が強い鳳団団員と戦っても即死するだけ
だから小型モーターで受信機を狂わせながら各々が鳳団拠点に向かうように爆弾を仕掛けて時間を見計らいながら爆発させていく
そうする事で鳳団拠点にも獲麟衆が向かってると思わせ、少しでも獲麟衆アジトに流れ込む鳳団を分散させる作戦
無論、見つかり次第殺される
「……死にたくないです…。」
だから自分は零した
本来ならこのタイミングで口にしてはいけない言葉だ
獲麟衆に身を置いた者として発してはいけない言葉だ
でも小型爆弾の詰まったリュックの重みがあまりにも生々しくて
つい零してしまった
「死にたくないです。」
言葉と涙が止まらない
今から戦場に近い空間に放り込まれる
小型爆弾の入った荷物に弾丸が入れば自分は爆散する
獲麟衆よりもデカい組織である鳳団の面々に見つからない保証なんて何処にも無い
自分が生き残れる保証なんて無い
ネガティブ思考がこれでもかと脳みそを包んでしまえば足が震えて今にも膝から崩れ落ちそうになる
『×××くん…』
白と黒のリボンで前髪を留めた好青年が自分に近付く
息をするのが苦しい自分を彼は抱き締めた
『いつでも逃げていいよ』
獲麟衆の幹部直属隊が伝えるべき言葉では無いものが耳に入れば困惑するしかなかった
『オレも死にたくないもん』
そう言って笑う彼の手も少し震えている
『守る為に生きるんだよ、死ぬ為に生きるんじゃないんだよ』
手を優しく握られながら伝えられる
『だから怖くなったらすぐに逃げていいの』
小型爆弾の詰まったリュックの上に乗っていたプレッシャーがゆっくりと解けていく
“逃げていい”という言葉は戦地に赴く自分にとって1番欲しかった言葉だ
叱咤激励よりも
逃げ出したいと心の底から願ってしまう自分を認めてもらいたかった
「でも…でも…。」
『大丈夫』
緊張のせいで穴という穴から吹き出した汗でジットリとした髪の毛を優しく撫でられる
せめて何か貢献してから死ねと追い詰めていたのは自分だったのかもしれない
『みんな!生きよう!怖くなったらいつでも爆弾もモーターも置いてっていい!全力で走ろう!オレらがやるのはあくまで時間稼ぎ!死ぬ為に行くんじゃない!生き抜こう!』
笑顔で周りに居るモブ構成員にも伝える好青年も小型爆弾の入ったリュックを背負った
そして一人一人にハグして回る
小さく聞こえる各々の名前と“生きて”という言葉
覚悟が決まるキッカケというのは思いの外小さいのかもしれない
《鳳団》
鳳団が獲麟衆を攻め込む事が決まった
中には拠点に残る班員も居れば
残らずに敵と対峙しに行く班員も居る
自分は後者だ
上司の指示を聞く為の小型無線機を耳に付けて各々の得意武器を手に取る
この日の為に何度も訓練をした
何度も血を飲むような訓練を繰り返した
だが敵は“獲麟衆”
明確な戦力は愚か何人の構成員が居るのかも不透明
なんなら台頭の一人が獲麟衆を相手にして欠損したとまで聞く
きっと自分達だけでは勝てない
脳裏に過ぎる言葉を無理やり追い出すように首を横に振った
自分達だけじゃない
何人も仲間が居る
心強い支部長も台頭も居る
自分達は一人じゃない
「おい、手が震えてんぞ?」
「安心しろよ、武者震いだ」
簡単な言葉で団員同士で緊張を解しあった
自分達は一人じゃない
死ぬのなら1人でも獲麟衆を持ってって死ね
俺らがやるべき事は獲麟衆という巨悪を滅ぼす事
それ以外考えるな
震える手は未だ収まらないまま
戦いは始まる
《獲麟衆》
「ハッハッハッ……。」
懸命に獲麟衆アジトから距離を取るように走る
小型爆弾が詰められた重いリュックはもうそろそろ空になる
もう手で持った方が早いと判断してからは両手で抱えながら走った
小型モーターがザザザッと音を鳴らす度に口角が上がる
小型モーターの電波が受信機の電波とぶつかり鳳団の指示を邪魔してるからだ
音が鳴るという事は確実に電波障害を起こしてるのが分かる
“してやったり”と思いながら鳳団拠点に走った
鳳団拠点に近付けば近付く程見つかる確率は上がる
何人がどのくらいの距離で立ち止まるかを考えると自分はもっと近付くべきだと判断した
『死にたくないです』
そう放ったモブ構成員が居たから
尚更近付かなければと無理やり足を動かす
『生きて』
そりゃぁ生きたいとも
生きたいさ
なんだかんだ言って死ぬ気なんてサラサラ無い
でも何も成せずに生きたくない
俺はきっと大馬鹿野郎だ
獲麟衆に何もかもを与えられた訳でもないし
名前すら覚えて貰ってるかも分からない
でも走るんだ
走るんだよ
自分の名前を口にして生きてって言ってくれるような“お人好し”が一人でも居る獲麟衆の為に
『動くな!!』
『持ってる物を捨てろ!!』
既に一般市民の避難が終わった道を走ってれば鳳団団員の声が聞こえる
ソレで全部捨てる訳が無いだろ
「おーおーおー!随分大人数で大したこった!」
あえて煽るような口振りを見せてから対峙するように足を止める
銃口が無数もこちらに向いてる
「良いよなテメェらは!正義の為なら一人二人殺しても賞賛されるだけだ!」
そう絶叫してから奴らに突っ込む
奴らが無線を使用するが無駄だ
銃弾を何発も撃ち込まれても無駄だ
誰にも賞賛されなくても構わない
名前が遺らなくても体が遺らなくても構わない
「コレが俺の生き様だ!こんがり焼けろや正義共!!」
小型爆弾と言っても遠くに居る鳳団の視界に映るほどの高火力のものだ
一人の男は小型爆弾のスイッチを押した
××××年××月××日
鳳団一般団員8名死亡
鳳団一般団員4名重症
性別は男性
年齢は24歳
獲麟衆構成員1名死亡
《鳳団》
「無線機はダメ!?」
「ダメです!ノイズが酷くて使い物になりません!」
「クソッ!!」
鳳団の動きに亀裂が入り始めたのは獲麟衆アジトへの道中の3分の1も行けてない場所だ
無線機に酷いノイズが走り支部長の声が上手く聞こえない
最初こそは上手く踏み出せて分散しながら敵を殲滅しようとした
いくら進むべき道がハッキリしていても順調に動けてるかを報告し合えなければどう動けば良いか分からなくなる
「とりあえず進もう!仲間を信じるんだ!」
必死に鼓舞するも1度不穏を感じ取れば足並みは崩れていく
本当に進んでいいのか?
このまま進んで一般団員のみ先に獲麟衆に着いてしまったら?
サポートも何も出来ずに死んでしまうのか?
空気が変わるのが即座に分かる
「ッ……自分を信じろ!!」
大声で叫んだ
強い仲間…支部長や台頭に何処か凭れてた一般団員に叫ぶ
「私達の努力は決して無駄にはならない!足を進めろ!少しでも多く獲麟衆の人間を殺せ!!」
そう言って無理やり引き摺るようにグループで動く
武器を握る力が強くなる
強過ぎる光は時に濃い影を生む
今自分達が立つ場所は影なのか
はたまた光が射し込んでるのか
そんな事も分からなくなった
「進め!鳳団の名にかけて!!」
それでも鳳団は動かなければならない
自分の成すべき事が光であると信じて
進まなければいけない
いつまで強い光を眺めるだけでいるつもりだ
いつまで憧れの存在と同じ空間に居れるだけで満足してるつもりだ
強い光になれ
憧れの存在と肩を並べろ
それくらいの気持ちを持たずして
赤いラインの入った隊服を着るな
《獲麟衆》
無理だった
鳳団拠点が近付くと同時に心臓が煩くなり
足が震えて上手く走れなくなり
今はもう物陰に隠れてるだけで精一杯だ
まだまだリュックには小型爆弾が半分も残ってる
つまり半分しか仕掛けられてない
「死ぬ…死ぬ…もう死ぬんだ…。」
自分もあの場で“死にたくない”と言えば良かった
そう思ってももう遅い
最初こそは“いつでも逃げていいんだから”と誤魔化せてた
でもいざ銃声が聞こえると“死”というものが明確に頭に浮かぶ
気楽にやって良いものじゃなかった
「に、にげ、逃げていい、逃げていい。」
そう言いながら震える足を無理やり立ち上がらせる
まだ小型爆弾が残りに残ったリュックを見た
でもすぐに目を離した
獲麟衆に居る時点で自分は死んだようなものだ
鳳団に投降しても運が良くて終身刑だろう
怖い
怖い
怖い
怖い
震えなんか忘れて懸命に獲麟衆アジトからも鳳団拠点からも離れるように走った
きっと後々罪悪感が膨れていくだろう
でも今は生存欲に支配されてた
とりあえず逃げ出したかった
いつ死ぬかも分からない現状から逃げたかっ
キ"ャンッ
背中を強く押されたような感覚を覚えた
その勢いで前に倒れる
何が起きたのかも分からずに自分の胸に触れた
その手は赤く染まっている
『獲麟衆と思わしき人物を発見』
『…あぁ…やっぱり無線はダメだな』
『仕方ない、何をするか分からないんだ』
『胸に当たってる、長くない』
『楽にしてやれ』
ジクジクと響く痛みと溢れるアドレナリンが殴り合って
勝ったのは激痛だ
「ぅ…ぅあ…あぁあア"ァアァァ"アァ!!!!」
死にたくない
死にたくない
死にたくない
死にたくない
そう思いながら小型爆弾のスイッチをがむしゃらに押す
だが自分が離れてしまったせいで自分に向けられる銃口が消える事は無かった
××××年××月××日
性別は女性
年齢は21歳
獲麟衆構成員1名死亡
《鳳団》
1人の女性と対峙する
こちらは鳳団の隊服を纏う10名のグループ
対して目の前の女はワイシャツにスラックスというパッと見一般市民の服装をしている
だが一般市民の避難は既に終わらせた
つまり目の前の女は確実に“一般市民ではない”
「投降しろ。」
銃口を向けながら伝えれば女性は両手を上げた
円を描くように包囲してからゆっくりと近付く
そして手首に拘束具を付けてから地面にしゃがませた
それでも尚、銃口は女性を逃さない
「随分と大人しいな。」
『…フフッ』
「何がおかしい!!」
女性は含み笑いを浮かべた
こんな戦場で余裕綽々な獲麟衆に苛立ちを隠せず胸倉を掴み怒号を飛ばす
ワイシャツのボタンが弾けて黒い下着が露になる
それと同時に
柔らかな胸にくい込んだ小型爆弾が視界に映った
「総員退h」
言い切る前に女性は口内に隠してたスイッチを舌の上に乗せて前歯で押した
××××年××月××日
性別は男性
年齢は27歳
性別は男性
年齢は25歳
性別は男性
年齢は24歳
性別は男性
年齢は22歳
性別は男性
年齢は20歳
性別は男性
年齢は19歳
性別は女性
年齢は25歳
性別は女性
年齢は24歳
性別は女性
年齢は22歳
性別は女性
年齢は18歳
鳳団一般団員10名死亡
獲麟衆構成員1名死亡
《獲麟衆》
仲間は無事だろうか
なんて思いながら小型爆弾を1つ仕掛ける
精巧に作られた小型爆弾は女性の掌でも簡単に包める程だ
こんなに小さくても建物の一部を破壊して赤い炎と黒煙を出せるくらいの威力が出る
付け方次第では建物を倒壊させる事も可能だろう
「ふぅ、やっと残り2個か。」
掌に乗せられた小型爆弾を見ては鳳団拠点を眺めた
いつ見付かってもおかしくないのに心は酷く穏やかだ
自分が手を汚しに汚した事は充分理解してる
だからこそ自分が死んでも自業自得だと理解してた
「さぁて、ちょっとだけイタズラしに行くか。」
その一言と共に鳳団拠点を目指して走る
最後に嬉しい言葉と温もりを貰った
汚れた自分にも優しくしてくれる存在が居る
本来なら子供が居てもおかしくない自分が10も歳下の若造の一言一行動で満足させられるとは思わなかった
金だけじゃ満たせないものがある
ソレを教えてくれたのは紛れもなく獲麟衆だ
『止まれ!!』
鳳団拠点に武器を持つ人間が居るのは重々承知
さぁ撃て撃て
自分も拳銃を取り出して応戦する
お前らは“殺すしかない犯罪者”しか殺した事無いかもしれないが
こちとら身分関係無しに殺してきた男だぞ
撃たれる覚悟も撃つ覚悟もこっちのが上だ
前線張ってる奴らと違わねぇだろ
「ハッハッハッハッ!!まだ死ぬのが怖ぇかガキ共!!」
盛大に笑って鳳団拠点を囲む一般団員に突っ込んだ
身体中から血が吹き出す中でスイッチを押す
いつ死んでも構わねぇ
無敵の人間は怖いだろ
なぁ
鳳団
××××年××月××日
鳳団一般団員28名死亡
鳳団一般団員5名重症
鳳団一般団員8名軽傷
性別は男性
年齢は34歳
獲麟衆構成員1名死亡
《鳳団》
憧れの人が居た
その人は前線を駆けるべき人だった
自分もその中の一人として生きている
その事が何よりも誇らしくて
どんな大義を成し遂げるよりも嬉しかった
「獲麟衆の人間、何人殺した?」
「5名です。」
「ふんふん、良い感じ。」
ほぼほぼ使えなくなった無線で上司に報告出来ないのは悔やまれるが
自分が少しでも貢献出来てる事が数字で表されるのが嬉しい
長いポニーテールは憧れの人を真似て伸ばしてるものだ
女性の台頭なんて憧れでしかない
事情は勿論知ってる
それでも毅然と律する様は1一般団員として尊敬して止まない
「どんどん行くぞ!」
あの方に直接褒められる事があるかは分からないが
自分の功績に少しばかり口角を上げてくださればそれで良い
その気持ちで歩き出した瞬間
耳を劈く爆発音と共に目の前が暗くなった
「…ぅ…うぅ…。」
爆風に吹き飛ばされて背中を強打した自分は少しばかり気を失っていたようだ
まさか一般市民が避難した建物に爆弾が仕掛けられてたなんて思いもしなかった
もしかして誘導?
それともそういう能力?
冷静に分析しようと頭を回しながらゆっくりと立ち上がり瞬きを繰り返す
「皆…大丈……。」
言葉を失った
自分が率いてたグループの大半が血に溺れ地面には腕や足がゴロンと転がってる
自分の視界が赤く染まったから頭に手を添えた
どうやら強打したのは背中だけじゃないようだ
引き摺るように肉片になってない仲間に近付く
「起きて…まだ…まだ終わってない…。」
軽く揺さぶってからその体が冷たい事に気付いた
1人、また1人と触れるが生きてるのは2人
自分と1人だけだ
グループの人数は?
武器は壊れてない?
まだ動けるのは自分だけ?
段々と自分が何をしてるのかを理解した
戦場の前線に自分は居る
生命を賭けて戦ってる
何処かで慢心していた
正義側の自分達は勝利する
だから自分達も大丈夫
なんて浅はかな考えだろう
向こうが正々堂々と向かってくる理由なんて何処にも無いのに
「た、立たなきゃ…やらなきゃ…少しでも…少しでも…。」
満身創痍の心身を無理やり立たせる
まだ生きてる団員が居る
今から背負って鳳団拠点に向かえば間に合うか?
否、今の自分じゃ無理だ
「かく…獲麟……かk…。」
ガクンと膝が折れた
ドクドクと流れる血が止まらない
意識が朦朧とする
待ってくれ
頼む、動いてくれ
少しでも多く貢献させてくれ
頼むから
お願いだから
お願いだから
××××年××月××日
性別は女性
年齢は23歳
性別は女性
年齢は23歳
性別は女性
年齢は20歳
性別は男性
年齢は26歳
性別は男性
年齢は24歳
性別は男性
年齢は23歳
性別は男性
年齢は20歳
性別は男性
年齢は20歳
性別は男性
年齢は19歳
性別は男性
年齢は18歳
鳳団一般団員10名死亡
獲麟衆構成員5名死亡
《獲麟衆》
小型爆弾を仕掛け終わり次第、早々に自分は逃げ出した
一定区画とは言われていたが結構雑に置きすぎて上手く設置出来たかは分からない
やるだけやった
後はお役御免だ
「離脱離脱〜。」
何処か呑気にそう言いながら一般市民の避難が完了してる区域を抜けるように走る
一般市民に紛れ込めればこっちのもの
わざわざ1人1人の顔を向こうが覚えてる訳無いんだから
そして路地裏を上手く通って逃げ遅れた一般市民のフリをしながら助けを叫ぶ
「助けてくれ!助けてくれぇ!」
そう言うと同時に一般市民は早く建物に入れと大声で返してくれた
よし、ここら辺は大丈夫だ
獲麟衆が小型爆弾を仕掛けてなければの話だが
「た、助かった!ありがとう、ありがとう。」
建物に招き入れてくれた一般市民に涙を見せながら感謝を伝える
あの中からよく生きて避難できたなと背中を叩いてくれる一般市民
ホントその通りだ
そう思いながらリビングに移動すれば戦場と化した元自分が居た場所が窓から見えた
黒煙が舞うのを見て怯えるように口を塞いで嘔吐くと共にフラフラと揺れる
ソレを見た一般市民はトイレに案内してくれる
「俺の家が…家族は…。」
なんて外に聞こえるようにぶつくさ言いながら口内に指を突っ込んでビチャビチャとトイレの中に腹にあるもん全部出してやった
ココでスイッチを押す
任務完了
そう思いながら小さなスイッチをトイレットペーパーに包んでトイレに流した
《鳳団》
〈こt…ザザッ…ザッ…か…ザザッ…〉
ガシャンッ
「どうだ?」
1人の獲麟衆を弾丸一発で殺し、軽く身体検査をした
見つけたのは小型爆弾と小型モーター、そして武器と起爆用の小さなスイッチ
発見した一般団員は即座に小型モーターを破壊し仲間に問いかけた
「こちら○○!こちら○○!聞こえますか!」
〈こちら二番班、聞こえます。〉
「獲麟衆構成員が小型モーターを使用し電波障害を引き起こしてるのを確認!見つけ次第破壊するよう伝達をお願いします!」
〈了解。〉
「その他!設置型小型爆弾とスイッチの所持を確認!建物に注意!」
〈了解。〉
やっとの事で繋がった無線で出来る限りの情報を伝える
獲麟衆の幹部以外にも警戒しなければいけないものがあると伝えられただけでも充分だ
「たくっクソみてぇな物持たせやがって…。」
「でも良かったです、原因が分かっt」
「良くねぇよ。」
「…ぇ…。」
自分はこっそり持ち運んでいたクシャクシャになった紙箱からタバコを1本取り出して火を付けた
そして煙を吸って吐き出す
「大人数で戦う為に必要なのは情報伝達だ。こんな物持ってる奴らがそこかしこに散らばれば大半の団員が…特に近くに全信頼を置ける人物が居ない団員が混乱する。」
「…支部長や二次手や台頭が居ないグループ…。」
「よく分かってんじゃねぇか。」
タバコを吸いながら立ち上がり、口に咥えてる部分を軽く噛む
きちんと厄介な事をしてくれる
強い奴と戦うには心許ない奴らを捨て駒に揺動
更にはこちらが不用意に近付けば自爆
挙句の果てには弾丸1発間違えれば小型爆弾の量次第で大爆発
「俺らがやる事は分かった。獲麟衆アジトに向かうんじゃなく電波障害が起こる場所から獲麟衆構成員の位置を特定して殺し、小型モーターを破壊する。」
自分の率いるグループが口を揃えて“了解”と口にする
そして短くなったタバコの煙を吐きながら更に付け加えた
「使うのは1構成員に付き弾丸1発だ、頭を狙い確実に即死させろ。爆発による被害を最小限に動くぞ。」
そしてタバコの火を手で握るように消した
簡単にタバコ一本捨てられない状況
その中で自分達のやるべき事を遂行する為に歩を進めた
××××年××月××日
獲麟衆構成員1名死亡
《獲麟衆》
明らかに爆発の音が少なくなってきた
各構成員に渡された小型爆弾の数と爆発音が合わない
途中で逃げ出したせいで設置しきれなかったか
もしくはスイッチを押す前に殺されたか
「嫌ね、死ぬのなんて。」
自分達が期待されてないのは理解していたが実際音や景色で仲間が消えてくのが分かってしまうなんて辛いものだ
多かれ少なかれ苦楽を共にしたのだから
生きて欲しい、なんて我儘な話だろうか
「やっと来たの?遅いわよ。」
わざと見えやすい位置に空のリュックを置いてビルの屋上で待ってた自分は登ってきた鳳団団員に背後を取られた
そして立ち上がってから振り返る
『スイッチを捨てろ』
「嫌よ。」
そう言って撃たれる前にスイッチを押した
爆発音と共にビルが激しく揺れる
「私ね、鳥に憧れてたのよ。1度“群れで飛んでみたかった”の。」
自分が仕掛けたのは今居るビルの根元だ
ゆっくりとビルが傾く
銃声が鳴り響いて体を貫くのが分かる
黒煙が吸い込まれるように空に昇ってく
「どうせなら…。」
夢を叶えて死にたいじゃないか
一本のビルが黒煙に呑み込まれた
××××年××月××日
鳳団一般団員9名死亡
性別は女性
年齢は27歳
獲麟衆構成員1名死亡
《鳳団》
「……まだ直らないのか…。」
そうポツリと呟いて窓から空を見る
爆発に巻き込まれた仲間達を懸命に安全と思わしき建物に避難させてから無線機を使用するも返ってくるのはノイズ音だ
「痛てぇよな。」
建物の一室で呻き声や啜り泣く声が聞こえる
いっその事即死した方が楽だったのかもしれない
全員が体の一部を壊して黒い隊服を赤黒く染めている
かく言う自分もその1人だ
「ごめんな、お前らを拠点に連れてく事も出来ねぇんだ。」
ソッと視線を下半身に持っていく
左足に破いた隊服をキツく縛って止血しただけ
その先は無い
片足で仲間達を避難させたからか体力も僅か
せめて助けが来れば…そう思いながら何度も無線機を使ったが意味は無かった
自分の手に持つ銃を眺める
弾丸は凡そ12発
自分含め一室に居るのは12人
大きく息を吸って吐いた
そして覚悟を決めてから片腕で窓を開けて身を乗り出し空に弾丸を放つ
ダン
ダン
ダン
ダダン
ダダン
ダダン
ダン
ダン
ダン
銃でモールス信号を送る事なんて初めてだ
もしかしたら仲間には罠だと思われるかもしれないし
敵が先に来るかもしれない
でも賭けた
弾丸の無くなった銃に引き裂いた隊服を括って窓の外に投げる
一見何の変哲もない布が巻かれただけの使えない銃
でも隊服の所属班を示すラインが巻き付いていれば仲間は気付いてくれる
「おめぇら!死にたくねぇなら体力を使うな!使えねぇ銃を寄越せ!火を起こす!」
懸命に這いずりながら仲間に声掛けをする
そして震える手から銃身の折れたものを受け取り中から弾薬を取り出して火薬を取り出す為に慎重に分解してから少量だけ取り事故が起きないように弾薬を元に戻す
少量の火薬を脱いだ隊服で包み、ナイフを擦り合わせて散る火花を何度も当てれば自然と火は起こせた
そしてナイフを熱してから自分の欠損部に当てる
「ぅ"ッ……ー"ッ……。」
荒々しいやり方だが1番出血を止められる
「汚ぇ痕が残っても文句言うなよ。」
そう言ってから仲間の欠損部位や出血部位に熱したナイフを当てて回った
悲鳴や悲痛が聞こえても気にせず止血をする
そして終わり次第火の付いた隊服を火傷も気にせず窓の外に投げ捨てた
「…あとは…待つ…だけだな……。」
出来る限りの事はした
こんな事を常日頃やってる一番班や四番班は凄い奴らだ
そう思いながら重くなる瞼を擦る
あれ?俺手焼けてなかったっけ?
まぁどうでもいいか
少し休もう
きっと助けが来る
仲間を信じるんだ
凭れかかった壁からズルリと体を崩した
××××年××月××日
性別は男性
年齢は32歳
鳳団一般団員1名死亡
鳳団一般団員11名重症
《獲麟衆》
「モーターバレちゃってそ。」
「ほな捨てて正解じゃ。」
基本1人で散らばって行動
その中でもあえて2人組を作った自分達は爆発音が止まない戦場を眺め推察しながら進む
仲間達の経路とか鳳団の動きとか
獲麟衆アジトに堂々と一直線で来るのはそれなりの戦力なのでは…
それを踏まえたら周りをグルっと囲むように動くのは戦力こそあれど獲麟衆幹部達に比べやや劣るのでは…
となれば直線を動かずに鳳団拠点に向かう構成員は鳳団の中でもややマシな者と対峙する事になる
「泥沼だねぇ。」
「まぁ大きな抗争なんてそんなもんじゃ。」
諸々の推察から行き着いたのは“1人で動くより2人で動いた方が生存確率が上がる”というものだ
起爆スイッチをあえて交換して裏切り防止と先に見つかった方が死ぬという成約付き
「誰がモーターバレしたんじゃろ?」
「知らないや、即殺されてもわざわざ死体ベタベタ触る余裕持ちド変態が居ない限りバレないと思うし。」
「そんにゃらド変態案件じゃな。」
自分達はある程度小型爆弾を仕掛け
いざとなった時の自爆用で2個ほどを胸と項に装着
そこからは小型モーターを物陰に置いて鳳団の動きを観察してた
そして“ド変態”を見つけ次第射殺している
「弾切れたらどしよ。」
「全速力で逃げ。」
「この中を?わぁお刺激的。」
「チキチキレースじゃ。」
本来は小型爆弾を仕掛け次第離れても良かったが2人して獲麟衆に恩人が居る
拾ってもらったり
教えてもらったり
治してもらったり
癒してもらったり
一々思い出語りする性分じゃないが恩は忘れずに返すもん返したいという利害の一致で自分達は動いてた
「やる事やって逃げたら何食いたい?」
「女。」
「脳みそちんこじゃねぇか。」
「そう言うお前は何食いたいんじゃ?」
「女。」
「クズしか居らん。」
ケラケラ笑いながら再度“ド変態”を見つけて銃を向ける
お互いの弾丸が切れるまで交互に撃ち殺す
途中までは殺せばOKだったが作業ゲーと化した状況に段々と調子に乗ってた
先に弾が無くなった方の負け
つまりは1発で仕留めて弾を温存出来た方の勝ち
しょうもないゲーム
「ちゃぁんと1発じゃ。」
「お前あと何発?」
「ん〜……20くらい?」
「俺15発。」
「もっと撃っとった。」
「俺の玉入れて15。」
「にゃら俺は魂も入れて23くらいじゃ。」
「現実〜。」
男同士ならではの下品な会話を重ねながら笑ってたら背後から声が聞こえた
『とても嫌な景色がよく見える場所を好んでますね。黒煙と同じでしょうか?馬鹿と煙は高いところが好き…とはよく言ったものです』
2人してバッと後ろを振り返ると黄色いラインの入った隊服を身につけた大柄な団員が目に入る
長い髪とマントを風に靡かせながら無表情でこちらを見ていた
「高身長はタイプか?」
「巨乳ならOKじゃ。」
「なーなーお姉さん、こんなクソみてぇな状況で1人でご登場って事は仲間死んで傷心なんじゃねぇの?遊んでかない?」
先程までゆったり座ってた自分達は立ち上がる
陵辱モノもイける口じゃなきゃ裏の世界なんて生きてらんない
だから女性に銃を向けた
傷物でも穴があれば楽しめる
『そうですねぇ…沢山の仲間の死体を見ました。かなり消耗しています』
「なら話は早いじゃん?」
『貴方達の判断は遅いようですけど』
パチュンッ
嫌な音と共に自分の視界から銃が吹き飛びガクンッと下に落ちた
射撃だ
何処から
いつバレた
「おい!」
「無理じゃ!腕と両足イカれてる!」
『いつでも爆発して大丈夫ですよ?爆弾の威力なら理解しています』
声は笑ってる癖して顔は無表情の不気味な団員は囮だ
そちらに気を引いた自分達を遠くから狙撃する
でも無線機はまともに動かせないはずじゃ…
『私の支部では非常時の教育も怠っておりません』
団員がそう告げると同時に首を絞められた感覚を覚えた
“私の支部”ということは目の前に居る団員は一般団員ではない
支部長だ
『ハンドサインというものをご存知ですか?誰にでも分かる明確なものもありますけど…私の支部では独自の“サイン”が存在します』
運が悪かったと言えばそれまでだ
だがこちらにはスイッチがある
相手がもう少し近くに来れば殺せる
支部長を殺せる
『例えるなら指を2本口元に持っていけば敵は2人、その指で唇を軽く押し上げて2回トントンと動かしたら武器を持つ部位と足を狙撃しろという意味だったりします。他にもありますけど』
「支部自慢より自分で動きやデカパイ女、ふっとい手足が泣いとるじゃろ。」
「膝付かせて見下ろすのが趣味?Sっ気ある女ってモテたりする?」
二人で目の前の支部長と思わしき存在を煽る
相手は“ド変態”だ
いや、自分達が言ってた“ド変態”を簡単に上回る程のイカれた奴
小型モーターで位置を特定するくらいなら予想出来た
だが小型モーターの位置や爆発した場所を計算して先回りしてくる奴なんざ普通居ない
『では自爆でも試みます?』
しかも出血多量まで引き伸ばす気まである
こういう冷静なド変態は嫌だ
自分達は目を合わせて軽く頷きスイッチを同時に押した
『…ふむ、情報提供をありがとうございます』
「お、お前ひよったか!?」
「目の前で押したじゃろ!」
「俺だって押したよ!」
『少々骨が折れる作業でした。モーターで電波障害を起こさない遠隔爆破装置なんて特殊なものは初めてでしたから…』
「な、何言うとるんじゃ…。」
『特殊な電気信号を利用して簡単に電波障害が起こらない仕組みとは面白いですね、しかも1人1人の電気信号は別物…考えられたものです』
「く…来るな……。」
『まぁ“特殊な電気信号”には“特殊な電気信号”で応戦するのが1番手っ取り早いと思いましてね』
ゆっくりと支部長と思わしき団員は歩み寄ってから自分達の前にしゃがみ
とある物を見せてきた
そう、小型モーターだ
しかも自分達の持ってた物を魔改造されたヤツ
『良い案でしたので採用してみました』
痛みによる脂汗と推測や想像を凌駕する化け物を前にした冷や汗で全身が濡れていく
目には目を歯には歯を
電気信号を利用してるのなら電気信号を遮断出来るものを
小型モーターがバレたのは分かる
でも爆発が遠隔操作である事を理解し、小型モーターから仕組みを推察し、わざわざ小型モーターを魔改造してスイッチを持ってるであろう構成員の位置を特定し、スイッチを押させて答え合わせをする
待ってくれ
魔改造と位置の特定が分からない
この短時間でソレが出来る技術も小型モーターから位置を特定するのも難しい
なんならビル下から見るだけじゃ自分達は見えなかったはずだ
『この情報はしっかりと伝えさせて頂きます。材料に情報の提供…何から何までありがとうございますね』
自分の頭を踏みつけられる
メリッとコンクリートに頬が沈みミシミシと頭蓋骨から嫌な音が聞こえる
自分と行動を共にしてた男が止めようと足を掴んでる
多分無駄なんだろうな
『“悪”は効率良く滅ぼしませんとね』
ゴチュッ
××××年××月××日
鳳団一般団員17名死亡
性別は男性
年齢は24歳
性別は男性
年齢は23歳
獲麟衆構成員8名死亡
《鳳団》
爆発音が程よく収まる中
自分達のグループはすばしっこい構成員に翻弄されていた
「相手は大荷物だぞ!すぐに見つけろ!」
相手は小型爆弾が入ってると思わしきリュックを背負いながら建物内や裏路地をちょこまかと動いてる
不用意に近付いたら死ぬ
だからこそ上手く射殺しないといけないのに相手は高い身体能力と建物を利用しながら逃げていた
「〜ッ…もうアイツは諦めましょう!」
「あの爆弾の量で拠点に突っ込まれたら大変な事になる!ココで仕留めろ!」
本来ならたかが構成員1人に大人数で対応するなんて無駄だ
でも相手が小型爆弾を持ってるなら話は別
取り逃して被害が出る前に上手く殺さなければいけない
「また建物だ!」
「チッ…道連れにするつもりか…。」
高いビルの中に入られればこちらは突入を躊躇する
とりあえずビルからビルへ移動出来ないように、外に簡単に出られないようにするしか出来ない
「…俺が行く、お前らは少し離れた位置に居ろ。何かあったらお前が指示をするんだ。」
「……了解。」
だがいつまでも鬼ごっこは出来ない
相手が武器を持ってる事を覚悟の上で仲間に武器を手渡した
道連れにされるなら1人の方が鳳団へのダメージも少ない
静かに呼吸しながら相手を探す
1部屋1部屋確認しながら奥に進み階段を上る
その道中だった
目の前にリュックがドサッと落ちる
ブワッと鳥肌が立ち全てがスローモーションに感じた
今から死ぬ
この量が爆発したら範囲はどれくらいだ
外に居る仲間は無事に済むか
建物が崩れたらどうする
今から遠くに投げたら間に合うか
そう考えてたらふわりと爆弾と自分の間に構成員が1人入ってくる
まるで翼でも生えてるのかと錯覚するくらいの柔らかな着地
そして慈悲深さを感じる悲しげな表情
ズンッと腹に衝撃が入った
「…ッ……おえ"…ッ……。」
鳩尾に綺麗に入った膝蹴りに崩れ落ちる
階段にビチャビチャと吐瀉物が落ちて何度も咳き込んだ
鈍く響く痛みに腹を抱えてしまう
構成員は再度リュックを持ち直して自分を見下ろす
命を奪い合ってるというのに目の前の男は今にも泣きそうな顔をしながら自分の頭を撫でた
『ごめんね…ちょっとだけ眠っててね…』
そして顎に軽い衝撃が入る
薄れゆく意識の中で
仲間達が自分を心配してこの建物に入らない事を願った
××××年××月××日
鳳団一般団員27名軽傷
《獲麟衆》
小型モーターから音が鳴らない事が増えた
つまりは自分の付近で無線機を使用してる団員が居ない事が分かる
まぁ使用してないだけで団員が居ないとは限らないが
各々が爆弾をどう扱うかは分からないが自分はあえて道の真ん中にポツンと置いてソレを避けようと動く鳳団一行にリュック丸ごとプレゼントする形でスイッチを押した
視線を道の真ん中…下に誘導して回り道に大量の爆弾という最悪のプレゼントだ
大爆発を見た後はテテテーと遠くに逃げる
本来は物陰や建物内に身を潜めたいがぶっちゃけ違う仲間の爆弾に巻き込まれるのは怖い
「冷静に考えるとヤベェです。」
素直な感想が漏れた
小型モーターを利用するという事は自分達も情報交換出来ないという事
つまり仲間の連携次第ではお互い無意識に殺し合ってしまう
見つかるか見つからないかよりもソレが1番怖いかもしれない
「何処に逃げたら良いんだろ。」
安全地帯が分からない
見渡しの良い所なら爆弾の位置も分かる
だが見つかる確率が上がる
裏路地や建物を利用すれば見つかる確率が下がる
だが爆発に巻き込まれる可能性がある
八方塞がりだ
「早々に抜けた方が良かったです。」
ため息を着きながら建物の周りを確認し、設置爆弾が無いと判断した所の中心地の一軒家に入る
勿論中も隅々まで確認した
そして避難でバタバタしたのであろう内装から地下の貯蔵庫を発見
この中に入れば幾分かマシだろう
リビングのテーブルに小型モーターを置いてから貯蔵庫に潜り込んだ
と同時に嫌なものを見た
中には貯蔵庫のワインを煽りながら恐怖を紛らわす仲間が居たのだ
リュックが無いのを見るに仕掛けるだけ仕掛けたのだろう
そして自分と同じように逃げ道が分からずココに居る
多分
「出てった方が良いでs」
言い切る前に先程まで座っていた仲間がワインの瓶が倒れる事も気にせず自分に飛びついて床に押し倒された
「どうせ…見つかればぁ死ぬんだ。」
「…そうですね…。」
「なら、なら何してもいいだろ…。」
明らかに気が動転してる上に酒も入ってる仲間を見て嫌な汗が出る
自分もそうだが仲間も立派な犯罪者だ
そして自分は比較的小柄な女で相手は男と来た
運が悪い
「遠慮したいのですが…。」
「黙れ!」
護身用の武器の一つであるナイフが自分の首に当てられる
中肉中背の男が馬乗りになって身動き取れないというのに随分短気
役満だ
是非とも点数をください神様
荒い鼻息と共に溢れるアルコール臭…眉間に皺がよる
乱暴に服を剥がされて下着をナイフで切り取られ…谷間と呼ぶには些か浅い自分の胸に傷がついた
極限状態の人間はここまで落ちぶれるのか
「……ゴム無しかぁ…。」
自害用の爆弾とっとくんだった
《鳳団》
無線機が徐々に調子を取り戻していけば流れが変わったのが分かる
小型モーターを所持してる構成員が少しづつ処理されていってるのだ
おかげで鳳団団員の足並みも戻ってきた
「獲麟衆構成員を1人発見、リュックは無し。」
〈スイッチを押す前に殺せ、周りには気をつけろ。〉
「了解。」
構成員は両手を上げているがこちらは一定の距離を保ったまま銃口を向ける
不用意に建物に仲間を近付かせないよう配置には充分気をつけながら狙いを定めた
『も、もう無理だ…俺には無理だ…出来ない…助けてくれ…』
敵は泣きながら言葉を紡ぐ
銃を持つ手に力が入る
殺せと許可は貰った
何を躊躇してる
『爆弾を仕掛けてて気付いた…俺らは自分達で自分達の逃げ場を潰してる…』
その通りだとも
こちらの連絡手段を邪魔してるのだから向こうだって連絡手段を確保しにくいはずだ
そんな中、無作法に爆弾を設置しながら各々が鳳団拠点を目指せば否が応でも逃げ道は少なくなる
『最初は…おま、お前らを…邪魔すりゃ…それで…それで良いと思ってたんだ…でも…いざ…音を聞くと……もう…怖くて…スイッチも持てねぇ…』
ガクガクと足を震わせながら失禁する大の大人が居る
嘘には見えない
嘘には見えないが
信じる事も出来ない
『足を洗う…なんでもする……』
心臓が煩く鳴り響く
敵意が無いとこれでもかと視覚聴覚を刺激するのに
相手が1度敵になったからには撃たなければならない
『抗争で…妻が死んだ……金が無くて…治療が遅れたんだ……自暴自棄になってた……馬鹿なのは分かってる…全部俺が悪いのは分かってる…』
獲麟衆という一大組織が現れてから名を馳せるまで
その期間が1番裏世界での抗争が激しかっただろう
ソレに巻き込まれた一般市民だって大勢居た
その中で何かを失って絶望した人間が道を踏み外した
誰だって起こり得る
誰だって目の前の男と同じになる可能性を秘めている
『でも…でももう…無理だ……俺はもう…着いてけねぇ…喪失感だけじゃ…マフィアの末端を生きるのも出来ねぇ……』
呼吸が浅くなる
撃て
早く撃つんだ
指に力を入れるだけの簡単な動作だ
『こんな汚れた手じゃ…死んでも妻を抱き締めれねぇ…』
これ以上聞いちゃいけない
『罪を…償わせてくれ……頼む……少しでも…少しで良い…』
「…なら…なら!!」
ドンッ
男はドシャッと膝から崩れ倒れた
赤い血が地面を汚していく
撃ったのは自分じゃない
隣に居る仲間だ
「…気持ちは…よく…分かります。」
「……。」
「……でも今は…気持ちより…任務を……。」
「…そうだよな…ごめん…。」
自分は敵意が見えない男を撃てなかった
殺せという指示が出てるのに
指が動くより先に相手と対話しようとした
ソレで仲間が死ぬかもしれないというのに
「俺は…向いてないよ…こういうの……。」
項垂れる自分の横で鼻をすする音が聞こえた
そちらに視線を向ければ撃ったはずの仲間がボロボロと泣いている
「なんでおまえが泣くんだよ…。」
「正義が…なんの為に…なんの為にあるのかが…分かりません…。」
「……。」
「彼も…一般市民でした…守るべき存在でした…でも!でも守れてなかった!」
「全部が全部先回りして救えたら苦労しないだろ?」
「それは分かってます!」
「だから対話が必要だったんだ。」
例え
どんなに法律があっても
どんなに医療が発達しても
どんなに正義が必死になっても
全員を救いきる事は出来ない
「だから俺達は“正義”と“悪”じゃなく人間同士で対話が必要なんだよ。対話が出来ない相手ならまだマシだ…少しはマシだ!でも結局は俺らがやってるのは人殺しだ!対話を諦めて殺して目を逸らしてる!」
今まで構成員を殺してきた
相手がきちんと殺そうとしてきたから
殺した
例え正義を背中に貼り付けたとしても“殺し”には変わりない
変わらない
「正義なんてそんなもんだ!自分の罪を無くせる大義名分だ!そんなんで人を誰しも救える訳が無いのに俺らは必死になってる!躍起になってる!救えるかもしれない存在を見て見ぬフリしてる!1度道を踏み外しただけで簡単に“守るべき存在”から人間を分けて“犯罪者”で括って“悪”で括って!情状酌量も上辺の情報じゃ意味を成さない世界で!何が正しいのか分からねぇ!」
殺してきた構成員が絡みつく
殺さなきゃ殺される状況にも関わらず
罪悪感がゆっくりと這い上がる
「なんで仲間の為に爆弾背負って走ってる奴らを…俺らは…俺は……。」
爆弾で死んだ仲間だって居る
理解してる
でも自分も殺した
向こうにも向こうの仲間が居て
自分にも自分の仲間が居て
お互いの“正しい”がぶつかって
恨み辛みばかり募ってく
お互いが“仲間の為に”殺し合ってる
「…助けてくれ……。」
1度気付いてしまったら手遅れだ
今さっき死んだ男と同じ
手も武器も真っ赤な血で汚れている
自分が率いてた仲間が徐々に崩れてく
全員が自分のしてきた事が“正しい”と断言出来なくなってる
死にたくない
死なせたくない
殺されたくない
殺したくない
グチャグチャになった戦場で自分達は武器を捨てて隊服を脱いだ
もう鳳団を名乗る資格は自分達には無かった
××××年××月××日
獲麟衆構成員16名死亡
《獲麟衆》
『起きろ』
頭にコツコツと銃口を当てられて目が覚める
鳳団拠点からも獲麟衆アジトからも程よく離れた民家に居た自分は爆弾を仕掛け終わり、スイッチを押した後だ
一般市民に紛れ込むまで走るのも手だった
だけど自分は運悪く道中で死ぬかもしれないと思い
1度くらいふかふかのベッドで寝てみたい、なんて考えてちょっぴり大きな豪邸にお邪魔してふかふかのベッドに横になって
爆睡
「…そんな物騒なもん押し付けないでよ…。」
とりあえず起き上がってはもう使い物にならないスイッチと武器をポイポイと団員の足元に投げて服を脱いで
もう何も所持してないのを下着を脱いでまで証明してからベッドに寝転がって柔らかな布団に包まった
『コレで…』
「全部全部、持ってっちゃって。」
『…爆弾は?』
「全部使った、そのスイッチも使用済み。」
『罪の意識は無いのか?』
「君達も上の命令で僕らを殺し回ってるんでしょ?僕も同じで上の命令で起爆しただけ、一々罪の意識持ってたらお互いキリ無いって。」
柔らかなベッドから離れられない自分の髪を団員が掴んで引き摺り下ろす
裸だから床が冷たくて仕方がない
『お前らと俺らを一緒にするな!マフィアに落ちた分際で!』
「…何言ってんの?流れ着いた先が違うだけでやってる事は人殺しじゃん。冷静に考えてみなよ。僕も君も敵を殺してるだけ、邪魔な奴を殺してるだけ、お互いがお互いの立場とか命とか仲間とか…なんか色んなものの為に殺してる。」
『お前らは罪の無い一般市民も平気で殺す!』
「だから言ってるだろ?“邪魔な奴を殺してる”んだよ。君らから見れば一般市民、でも僕らから見れば邪魔な奴だった。君らも同じ、僕らが邪魔だから殺す。」
『これ以上被害者を出さないように殺すんだ!分かるか!?』
「じゃあ僕は生かされるって事?だってこれ以上被害者出せないもんね?爆弾も使ったし武器も手放したし服もぜぇんぶ脱いでThe無力。まぁ捕らえても僕みたいな末端から出せる情報なんて君らが知ってる情報だけだろうけd」
自分の言葉を遮るように銃で殴られる
正義って乱暴だな
素っ裸で殴られるなんて初めてだ
「…君も殺す?自分にとって不快極まりない邪魔な奴。」
団員の1人が自分の真横に銃弾を放った
威嚇射撃にしては近すぎる
鼓膜破れちゃうよ
「どうせ死ぬならあのベッドの上でが良いな、僕生まれも育ちも卑しいからふかふかベッドとか夢のまた夢だったんだよね。」
『抗弁垂れるだけ垂れて逃げる道でも探ってるのか?』
「いんや?俺はやる事やったし渡すもん渡したし…再度寝ようとしたら君らが質問してきたり無理やり引き摺り出したんじゃん。そっからは軽い口論しただけだよ、お互いの主張をぶつけただけ。僕は殴られたり威嚇射撃食らったけど。」
『……。』
団員はやっとの事で自分を解放したからのそのそとベッドに戻って再度布団に包まった
やっぱりふかふかのベッドは最高だ
もう二度と寝れないようなものなんだからたっぷり堪能してから逝きたい
「頭出しといた方が良い?」
『…急にどうした…』
「僕ベッドに入れたし、頭見えてた方が殺しやすいかなって。」
自分の言葉に団員は絶句する
そしてドサッと1人が腰を下ろした
『ばかばかしくなってきた…』
「あらま、任務終わってないのに?」
『…アンタみたいなのを殺し回らなきゃいけない事自体がばかばかしいの…』
「お互いちゃんと大変じゃん、ちょっと休憩しない?ベッドは僕が使ってるけどこの豪邸凄いよ。ソファもカーペットもふわふわ、どこでも寝れる。」
団員は全員が顔を見合せてからため息をついて各々が腰を下ろした
あまりにもマイペースを極めてる自分のせいで調子を崩したらしい
「ちなみに僕の仲間は何人殺したの?」
『…それを聞いて復讐でも誓うか?』
「僕は復讐よりもこうして柔らかいベッドで寝てたい派。」
『…23人だ…』
「おぉ、凄いじゃん。でもキリ悪いね、僕殺してからもう1人殺しに行く?」
『…もういい』
『黙ってくれ』
『休憩させろ』
『頭痛いお前との会話』
『疲れてんだよこっちも』
「こりゃ失礼。」
『食べ物無い?』
『はいよ』
「僕にもちょーだい。」
『…ほい』
「わぁい。………かたぁい…まずぅい…。」
『…携帯食料なんてそんなもんだよ』
「もう少しマシなの支給してもらいなよ、食べ物ぐらいちゃんとしないと長期戦とかもたないよ?」
『お前とりあえずベッド詰めろよ』
「いやん僕のここ。…ちょっとマジで入ってくるの?助けて嫌だ血と汗の匂いすんごい、匂いが雄過ぎる、何が悲しくてふかふかベッドに裸で男と寝ないといけないの。やだやだ。」
お互い誰かを殺してる
だが全員が休息を求めてるのは確かだ
武器を持つ敵に囲まれながら
筋肉質な団員に押し潰されながら
敵味方関係なしで休んだ
「…くるしぃ…くちゃい…。」
安眠に必要なのはふかふかベッドとそれを一人で独占できる余裕なのかもしれない
××××年××月××日
獲麟衆構成員23名死亡
《鳳団》
設置された小型爆弾を慎重に外しては金庫に入れて閉じるを繰り返す
小型爆弾はスイッチから送られる電気信号で爆破する遠隔操作式
とある支部長に魔改造された小型モーターを手渡されて爆弾除去に任命された時は自分の命もここまでかと覚悟した
だが思いの外順調に爆弾を除去出来ている
「マジで効くのかコレ…。」
魔改造されたせいで少々不格好になった小型モーターを見ては半信半疑で眺めた
今の所除去出来た爆弾は50…その間一回も爆発に巻き込まれていない
自分も仲間も
「運だけでここまで上手くいくのなら出来すぎてますよ。」
「それもそうか…。」
魔改造小型モーターの信憑性が高くなればなるほど仲間達が雛のように段々と寄ってきて気分は餌を持った親鳥のようだ
死にたくないが故の無意識だから何も言えないが…ハッキリ言うと爆弾除去の緊張もあって少し休憩させて欲しい
「一旦休憩しないか?」
「何言ってるんですか!?」
「爆弾除去出来るグループ俺らだけかもしれないんですよ!?」
「そうですよ!!」
「1個でも多く取り除かないと!!」
「じゃあお前ら代わってくれよ。」
自分の一言を聞いた瞬間皆して目を逸らす
年長者に全投げしないでくれ
白髪増えちまうよ
「じゃあ少し休ませてくれ…流石にいつ爆発するかも分からない物を神経使って取ってるんだ…。」
そう言って路地裏の壁に凭れかかった途端仲間達が近寄ってくる
「待て、頼む、一人で…はぁ…分かったよ、分かった。」
男女年齢問わず…いや、全員歳下なんだが…
自分にベッタリとくっつくようにされればほぼおしくらまんじゅうである
そんな狭い範囲に留まらなくても良いとは思うが彼らもきっと不安で仕方ないのだろう
「俺が休んでる間に敵が来たら迎撃出来るようにはしろよ?」
「……。」
「ふぁい…。」
「…クァ…ふぅ…。」
「全員疲れてるじゃねぇか。」
「…だって…。」
「爆弾除去見守るのも緊張するんですよ。」
「金庫だって重たいし。」
「なー。」
「だぁあッ!分かった!やる!やります!続きやりますから!起きなさい!立て!散れ!」
こんな状況下で少しでも休んだら敵の的になりかねないと瞬時に理解出来た
少しでも緊張感与えてやらないとコイツら絶対自分より起きない
無理やり立ち上がらせて自分も立ち上がる
「獲麟衆が解体されたら絶対に辞表出してやる。」
「やだ!」
「そんな事言わないで!」
「うるさい!駄々をこねるな!おじさんなの俺はもう!44歳!」
「おじさんもう少し居て〜…。」
「頼むよおじさん。」
「お前らも40行くんだから先輩風吹かせよ…。」
「嫌だね。」
「こんな頼りない先輩嫌だ。」
「おいてめぇそれは言っちゃいけねぇだろ。」
「喧嘩しないの!!」
今抗争してるんだよな?
獲麟衆を倒す為に鳳団一同頑張ってるんだよな?
なんで俺だけ保育園の先生みたいな事してるの?
台頭も支部長もこんな感じなの?
今にも十円ハゲが出来そうな空間から抜け出す為に必死になって爆弾の除去に勤しんだ
《獲麟衆》
「対策まぢ早〜。」
カチカチと押しても無反応なスイッチを見ながら呟く
ちゃんと一定区画に小型爆弾を設置したというのに
さぁ爆発するぞと意気込んだ矢先にコレだ
懸命に並べたからこそガッカリしてしまう
「ま、やるだけやったしもういっしょー。」
だが無反応なものは無反応だ
潔く割り切って体を伸ばして欠伸をしながらゆっくり歩く
親も居ないし恋人も居ない
別に死んでも誰も何も思わない
だからのんびり歩いた
そりゃもう道を堂々と
「ちゃんと戦場でウケる〜ウチ場違い。」
ウケるとは言いながらも笑ってはいない
火薬や血の匂いが蔓延る中を歩くなんて正気の沙汰じゃない
それを考えたらこの場にいる誰もが正気じゃないのかもしれないけど
だが稀に正気な人が居る
その人は物陰に隠れるように縮こまって震えていた
「お、鳳団じゃ〜ん。」
あえて自分から声を掛けに行く
捕まるのなら捕まる
殺されるのなら殺される
だがビクッと肩を跳ねさせた団員に自分を殺せるかは分からない
「まぢ聞いて〜ウチめっちゃ爆弾仕掛けたのに1個も起爆しなかったんだけど〜運悪くない?」
ドサッと団員の隣に座り愚痴を吐いた
団員は未だに膝を抱えて縮こまっている
見た所銃は見当たらないし怪我もしてない
でも腕周りが軽く血で汚れていた
「てかアンタ仲間と武器は?もしかしてぶっ飛び?」
『……………ぃ…』
「お互い運無いね〜、やれって言われた事も出来ないしやりたいと思った事も出来ないし。」
『うるさい!』
団員がこちらに掴みかかり押し倒される
『お前らが!お前らが爆弾なんて使うから!こっちは何人死んだと思ってんだ!!』
「まぢご冥福祈りん。」
『ふざけんじゃねぇ!見た事あんのかよ!仲間が目の前で死んでくのを!原型すら残らずにグチャグチャになるのを!』
「あるよん。」
『……ぇ…』
「ウチだって一応それなりにワルじゃん?そりゃ目の前で仲間死ぬのなんて日常茶飯事だし?原型留めるどころか原型膨らみ過ぎてパンパンマンみたいな?爆散みたいなのはなくても炎に燃えて灰になるとかまぢザラ。」
『……炎…』
「お?心当たり?ま、お互い敵同士だし命張ってんだからしゃーなしぢゃね?」
『……恨まないのか?』
「恨んでも良いけどどっかであるじゃん?“こんな事してるんだからしゃーなし”って気持ち。いんがおーほーってやつ?」
『……』
「だからウチはアンタに声掛けた。ぶっちゃけ上手くいかなかったし?最期にテケトーに誰かと喋って死の〜って。」
『怖くないのか?』
「怖くないよん。」
『死ぬんだぞ?』
「うん。」
『…なんで…』
「ウチなんも持ってないもん。」
『…仲間は…』
「爆弾持って走ってったから死んでんぢゃね?」
『…家族は…』
「ヤク中セク中でウチ産まれて即捨て、ホームレスに育ててもらったけどその人はホム狩りでお陀仏。」
『…なんで獲麟衆に…』
「当時の彼ピに連れてってもらった。」
『…恋人は…』
「無事お亡くなり爆笑。」
『……』
「まぢウケるよね〜なぁんも持ってないの。」
途中までは怒り心頭だった団員は力無く項垂れるように馬乗りになってる
絶望したってどーしよーもない
無いもんは無いし
失ったものは戻ってこないのだ
死ぬのなんて当たり前だし
殺されるのも当たり前
マフィアなら常識だが鳳団では常識と呼ぶには些か難しいらしい
「って訳で武器は?」
『…ナイフしか持ってないよ…』
「刺殺か〜サクッと死ねないやつ〜。」
『…死にたいの?』
「死にたくないよん。」
『じゃあなんで…』
「ウチとアンタは敵で、ウチは犯罪者でアンタは正義のヒーロー。なら殺るくね?」
『……』
「アンタの仲間殺した獲麟衆の1人って考えりゃ楽っしょ?」
団員はスルリとナイフを取り出した
そして自分の首に当てる
ヤク中セク中の腹から産まれて捨てられて
拾ってくれたホームレスは殺されて
10以上は上の恋人には先立たれて
自分だってマフィアの末端らしく人を殺した
クソみたいな人生だった
最後の最期で度胸見せようとしたのに失敗して
あーぁ、来世はもうちょいマシな人生に…
『ぅ…うぅ……』
自分の頬にポタポタと涙が零れてくる
団員は泣いていた
ナイフを持つ手をガクガクと震わせながら涙を流した
「萎える〜…。」
『なんで…なんで……なんで……』
「神のみぞ知る的な?」
『もう嫌だ…何も見たくない…死にたくない…殺したくない……殺す為に鳳団に来た訳じゃ無いのに……』
「じゃ逃げる?」
『逃げられない…だって…俺は……』
「頭カチカチでウケる、別に皆がやりたい事やってんだし1人2人逃げても許されるくね?」
団員は涙を流しながら葛藤を顔に浮かべる
この若い団員は“死”を眼前に突き付けられて心が折れてる
自分だってやる事出来ずに萎えてる
今ココに居るのは“鳳団”とも“獲麟衆”とも呼べないガッタガタになった歪な人間だけだ
「同じ任務したウチよりちょっと上のパツキンくんがね、“怖くなったら逃げていい”って言ってたんだよね。」
長い髪の毛をクルクルと指に巻き付けながら団員に戦いが本格化する前の話をする
団員は浅く引き攣った呼吸が段々と落ち着いていく
「死ぬ為に生きる〜じゃなくて、守る為に生きる〜っての。まぢ生きよ〜って感じ。」
『…守る為に……』
「そそ、LOVE&Peace的な?爆弾仕掛けるのだって攻撃よりも揺動目的だし?少しでもアジトに来る鳳団分散出来たらまぢラッキーくらい。」
団員がゆっくりとナイフをズラして地面に置いた
武器も何も持ってない
傷を負った青年と傷にマニキュア塗ったような自分
組織が違うだけで結局は何かを抱えて失った人間同士だ
「ぶっちゃけ怖くね?」
『…怖い』
「死にたくなくね?」
『死にたくない』
「んじゃ逃げね?」
青年と対話したら相手は自分の上から退いて手を差し出した
自分はその手を掴んで立ち上がる
『…ん……』
「隊服じゃ〜ん、どした?」
『一般市民の避難は終えてる…隊服来た方が少しは逃げやすいだろ…』
「まぢ天才的〜。」
青年が脱いで渡した鳳団隊服を身に纏う
胸はキツいが袖がズルっとしてた
デザインはシンプルで血の匂いがするけど着方によっては可愛いんじゃないか?
「え、ベルト欲し〜ちょーだい?」
『……はい…』
「これウエストラインちゃんと出したらまぢ可愛くね?」
『…まぁ…良いんじゃない?』
「ばっちし萌え袖きゃわ〜。」
任務に支障が出ないように袖がズルズルしたのは着てなかったがやっぱりいざズルズルしたのを着ると可愛い
自分の手がチョンっと出てるのが程よく媚びてる感じ
「じゃ、行こか。」
『…うん…』
鳳団隊服を分け合った自分達は手を繋いでゆっくり道を進んで行った
行き場所なんて分からない
分からないけれど
“逃げてもいい”
その言葉が優しく背中を押してくれてるから何処か心が軽かった
××××年××月××日
鳳団一般団員8名死亡
《鳳団》
獲麟衆の幹部や鳳団の台頭が衝突した
ソレを示すのは何処か見覚えのある季節外れの雪や轟く雷音、爆発とはまた違う意志を持った炎の揺らめき、まるで津波でも来るんじゃないかと思うくらいの激しい水流の音
まさか二番班台頭も前線に出るとは思いもしなかった
だが心強いに越したことはない
とはいえあの異常気象とも呼べる空間に飛び込める団員は少ない
行っても邪魔になるだけだ
「爆弾除去は順調?」
「ちゃんと。」
「モーターの破壊は?」
「順調です。」
「じゃあここから離れよう、邪魔になると思うから。」
ちょっと時間はかかったが獲麟衆アジトの包囲は完了してる
爆弾の除去も凡そ完了
見逃したものがあったとしても建物が崩れる以外の損害は起きないだろう
「逃げてくる構成員は見つけ次第射殺、隊服の有無で即時判断して。」
そして爆弾の入った金庫に魔改造小型モーターを突っ込み厳重に管理
爆発してもこちらへのダメージは軽減されるだろう
「何かしらの信号が出るまで持ち場を離れない事、包囲網を崩さないよう徹底。」
淡々と指示を出しながら仲間を配置する
背後や上空にも気をつけながら警戒態勢を解かない
終盤戦に入った対獲麟衆戦
無線機から朗報が入るのを今か今かと鳳団一同待つ
「…待つ事しか出来ないなんてさ…。」
小さく零した
自分達も鳳団の仲間だ
でもやっぱり最後は圧倒的戦力を誇る者達が動く
包囲網から構成員を探すのも
幹部やその直属隊とぶつかるのも
戦力があって初めて出来る
能力も何も持たない自分達は武器を持って見守るしか出来ない
なんとも言えない無力感を感じながら
勝利を願った
××××年××月××日
獲麟衆構成員14名死亡
獲麟衆のボスが討ち取られた報告が無線から聞こえる
雄叫びをあげる団員
泣きながら抱き締め合う団員
気を失って倒れる団員
未だに物陰で震える団員
まだ後始末があると動く団員
様々な鳳団団員の姿が居た
全てを察した構成員
護身用武器で自害を選んだ構成員
逃げ切った構成員
逃げたかった構成員
捕まってく構成員
それでもなお戦う構成員
様々な獲麟衆構成員の姿が居た
五体満足の勝利なんて何処にも無かった
全員が何かを失った
差は何かを手に入れられたか
何も残らなかったか
たかがそれだけだった
××××年××月××日
鳳団
死亡者数
85名
重傷者数
37名
軽傷者数
58名
行方不明
98名
獲麟衆
死亡者数
96名
捕縛者数
23名
行方不明
特定不能
【鳳凰帳~名も知らぬ戦士達~…あとがき】
誰1人名前が記載されない作品を読んでくださりありがとうございました
序盤から終盤に流れてく中で戦況が変わり死亡者数も変わり
なんともまぁ目紛るしい作品になったなと個人的に思っています
鳳凰帳参加者の皆様の作品や会話の流れを見ながら“こうしたらこのキャラ登場しやすいのでは?”とか“こうしたらあのセリフに重みが増すのでは?”とか試行錯誤を繰り返しながら様々な視点を書けてたらな…と思います
少々残酷な表現だなって部分は鳳団の“行方不明”が異常に多い所ですかね
この人数は“遺体が遺らなかった上に死亡を伝える人間も居なかった”が故の多さです
何人のグループで動いてたのかは明確、だけど確証の無い状態を“死亡”と判断するのか…と考えた時に…“行方不明”という形にしました
遺体が遺った方がマシなのか
遺体が見つからない方がマシなのか
自分としましては“見つからない方がマシ”と思いましたね
行方不明のうちは“まだ生きてるんじゃないか”とか“ひょっこり帰ってくるんじゃないか”とか…残酷な現実を淡い期待で隠せるので
今後、遺された人がどうなるのかは分かりかねます
どんな道を選ぶのかは遺された人の選択次第です
ましてや…この戦いの中、この作品に1mmも出てなくとも消えた命があります
“こんなに?”と思う人も居る反面
“こんなもんか”と思う人も居るでしょう
個人的にはネームドの5倍以上はモブが居ると考えながら作品を眺めてる者ですので数字もソレを基準にちょっと色を付けた感じになりました
…好きなモブは居ましたか?
自分はぶっちゃけ鳳団モブ一般団員のタバコ吸ってる人好きです
あとふかふかベッドぬくぬく獲麟衆モブ構成員も好きです
11/7/2025, 12:56:57 PM