『何故ワタシを嫌う』
ふわふわとした黒いロングヘア
まるで蝶の羽のように広がる白いリボンの髪留め
小さな身長とは裏腹に子供を宿せる体
柔らかそうな胸や下半身は丁寧にドレスに包まれ
キラリと輝くお揃いのピアスが胸を刺す
「お前が俺の婚約者を…アリアを乗っ取ってるからだよ!」
黒くて大きな瞳
長い睫毛
柔らかそうな唇
そして絶対にアリアがしない頬を膨らます表情
『レヴィはこの体を愛してる、だからワタシも愛してる』
「違う!俺はアリアを愛してるんだ!お前がアリアの体を使おうが俺はお前を好きにならないんだよ!」
アリアの中には魔族の中の王
つまりは“魔王”と呼ばれる存在が入ってる
ソレは自分の性別も分からなければ
名前すらも持たない
アリアの体を傷付ける訳にはいかないからベッドにある枕を壁に投げつけた
『形は同じだぞ?』
「中身が違う」
『何処が違うんだ』
「アリアは…アリアはもっと……」
アリアとレヴィは政略結婚を元に結ばれた婚約者だ
初めて会ったのはまだ齢7歳
アリアなんて5歳だった
緊張しながら従者を引き連れてアリアに会いに行ったが彼女は王宮内に居らず
バタバタと誰もが探していた
その空間も怖くて今にも泣き出してしまいそうなレヴィの前にふわりと現れたのがアリアだ
白い肌と艶のある黒髪
そして無表情
まるで人形のような彼女は魔力消費の激しい転移魔法を易々と使いこなし颯爽と現れては綺麗なお辞儀をし
そしてドレスを着てるというのに紳士のように跪いて
色とりどりのハーデンベルギアをレヴィに差し出した
レヴィは最初こそ戸惑ったが恐る恐るハーデンベルギアを受け取ればアリアはスクッと立ち上がりスタスタと離れていく
無表情で無感情で無口
なのに行動力が高い
だから周りはアリアの扱いに困っていた
第二王子のレヴィと第三皇女のアリア
国際的に結ぶならこのくらいで充分だろ?とでも言えるような組み合わせ
だが幼いレヴィはまともに話せず落ち込んで自分の国に戻りハーデンベルギアの花について少し調べた
レヴィの国にもアリアの国にも咲かない花
紫やピンク、白のハーデンベルギアを集めるのに彼女は何回転移魔法を使ったのだろう
そしてハーデンベルギアを贈る意味を知った時
レヴィはアリアに恋したのだ
《出会えた事に感謝を》
そこからはレヴィがアリアにゾッコンだった
色々な話を振っても風で靡く草木を眺めるアリア
様々な贈り物をしても無表情で受け取るアリア
雨で馬車が動かせないと聞けば転移魔法で自分から来てくれるアリア
無表情でも無口でもアリアの行動一つ一つには優しさがあった
だからこそ…
『レヴィ?』
視界に入り込むように上目遣いで顔を覗き込むコイツが嫌いだった
『愛してる』
アリア自身から聞きたかった言葉をアリアじゃないナニカから聞くのが嫌だった
「なんで…なんでアリアなんだよ!」
『レヴィがこの体を愛していたk』
「体じゃない!違うって言ってんだろ!」
『……』
「なんで俺なんだよ!男が良いなら他にも沢山男が居るだろ!」
『ワタシはレヴィが良い』
「なんでだよ!」
『レヴィがワタシを見てた』
「知らねぇよ!そんな事!」
魔王とレヴィは一切話が噛み合わない
魔王はまるでずっと前からレヴィの事を知ってる口ぶりをする
でもレヴィは魔王がどんな容姿かも知らないのだ
見てただの会っただの言われてもレヴィには理解出来ない
『レヴィ…』
「なんだ…よ……」
アリアは一度も自分の名前を呼んだ事が無い
まずアリアの声をアリアから聞いた事が無い
だから名前を呼ばれるだけでも虫唾が走り怒鳴ろうとした
だが目の前に居るのは無表情でポロポロと涙を零すアリアだった
「…アリア……?」
そう呼んで涙を拭うように頬を撫でた途端
アリアのような無表情から一変
口角を上げて目尻を下げてニンマリと笑う
『レヴィはやっぱりこの体が好き』
頬に触れた手を優しく包まれる
アリアの体を使う魔王に嫌悪感が走る
『この体があって良かった』
魔王にとって“アリア”はレヴィを振り向かせる為の道具でしかない
レヴィがアリアを置いて逃げ出さないと理解してるから頑なに“アリア”を手放さない
怒りに包まれたレヴィを落ち着かせる為にアリアのような表情をしてから突き落とす
『レヴィ、愛してる、愛してる』
魔王はアリアの体を利用してレヴィの掌にキスをする
柔らかな感触と暖かな温度が掌に伝わる度に今度はレヴィがボロボロと涙を零した
もう限界だった
体だけでもアリアだからと割り切れればどれ程救われただろうか
アリアはこんなに愛を囁いてくれないしと吐き捨てられたらどれ程救われただろうか
「頼む…頼むよ…」
『なぁに?レヴィ』
「アリアだけは解放してくれ…頼む…」
『……』
「俺はこの際どうなっても良いから…アリアを…」
『なんで?』
レヴィが泣いて縋っても魔王には通じない
魔力暴走により後天性魔族と化した元人間とは違い
魔王のような感情に乗った魔力痕から生まれた先天性魔族は人間の感情を理解はしても共感は出来ない
『この体だからレヴィは優しい』
『この体だからレヴィは見てくれる』
『この体だからレヴィは話してくれる』
ちょっと無表情になり涙を流せばレヴィは何度もアリアを期待する
そして近付く度に魔王はレヴィに触れられる
アリアの体だからレヴィは魔王に暴力を振るわない
魔王が“アリア”で在り続ける限りレヴィは無視出来ない
『レヴィ』
涙と絶望でぐしゃぐしゃになったレヴィを優しくベッドに押し倒す
そしてレヴィの真似をするように白く小さな手で涙を拭う
『ワタシはお城もドレスも食事もベッドも全部レヴィの為に作った』
『レヴィに痛い思いはさせない』
頬に触れていた手がゆっくりと胸に滑り落ちる
『レヴィの居ない場所なら全部壊す』
魔王は本心を淡々と口にする
『愛してる』
そう言ってキスをしてレヴィの体をチロチロと舐める
魔王はたかがレヴィを手に入れる為に魔族の王に成り上がった
そして魔王として国と取引した
レヴィとアリアを渡せば魔族が入って来れないよう結界を張ってやる
断れば滅ぼす
レヴィの親もアリアの親も喜んで2人を差し出した
国同士でも戦争が起こり得る人間の世界
その中に魔族まで入られたら簡単に戦況が変わる
第二王子と第三皇女を渡すだけで魔族を遠ざけられるのならと
だからレヴィにもアリアにも帰れる場所は無い
『愛してる』
ちぅっちぅっと子供の戯れ合いみたいなキスを性行為だと勘違いしてる魔王のお陰で二人の貞操だけは守られてる
「…せめて黙っててくれ……」
そう言って布団を引き寄せて顔にかけた
香りや感触はアリアなんだ
日常生活なんてまともにしなくて良いから
こうして現実逃避しながら
アリアがまだ生きてると香りや感触で信じながら
静かに泣いていたい
お題:時を止めて
〜あとがき〜
あとがきに見せかけた世界観や魔王のかるぅいQ&A
Q.この世界観に神は存在しますか?
A.この世界観に神は存在しません
神は魔族にも人間にも手を差し伸べません
干渉もしません
認識出来ない空間から眺めるだけです
何もしないナニカは存在していないと同義と考えてます
なので彼らの視点で紡がれる彼らの世界に神は存在出来ないんです
Q.魔族以外の人外は出ないのですか?
A.魔族と人外は=の存在です
言葉を話せる種族は人間と魔族の2種類のみ、という世界観を構築しています
人間かそれ以外かのロー〇ンド方式じゃないと名前持ちキャラが増えすぎてしまうので…
なので例をあげるとエルフも魔族として扱う予定です
Q.何故魔王はレヴィが好きなんですか?
A.初めて欲しいと思えた存在だからです
どんな生物も初めての現象に何かしらの感情を抱くものです
人によっては“あまりにも些細なと捉えられる事”でも容易く欲を刺激します
ちなみに魔王は目が合って笑顔を返してくれたからという理由で愛してます
そういう事です
Q.魔王がレヴィに向ける感情は愛なんですか?
A.紛れもない愛です
魔王にとっての“レヴィに向ける最大級の愛”です
あくまで魔王の物差しですが“純愛”です
人間の物差しじゃないんです
人によっては不快にすら感じるかもしれません
Q.魔王とレヴィの濡れ場はありますか?
A.レヴィ次第です
“レヴィ×アリア”ならシてる
“レヴィ×アリア(魔王)”だからシてない
Q.魔王にまともな知識を入れたらまともになりますか?
A.ならないと思ってます
まともな知識は理性と汲み取る力を持って初めて意味を成すものです
魔王は理性が無いので汲み取ろうとしません
そのせいで知識の真意を全く理解出来ません
なので上辺だけの行動しか出来ない、つまりはまともになれないんです
Q.もし魔王がしてる事をやり返したらどうなりますか?
A.全部呑み込みます
魔王がしてる事は大きく3つです
・大切な人を乗っ取ってる
・強制的に引き剥がす事が不可能な状態にしてる
・本人は出ていく気無し
上記の3つを魔王に押し付けても魔王は『身体も大切な人も邪魔な奴も呑み込んでワタシのものにする』と返しました
11/5/2025, 2:49:00 PM