夜になると、シーツの海から抜け出せなくなる。横になってしまえば起き上がれない。ベッドの頭の方の柵が月明かりによって影を作り、檻の柵のようで、監禁されているようだった。
部屋の電気もつけられず、ただ、世間からシャットダウンしていた。
頑張ったところで褒めてはもらえない。当たり前だとか、さらに頑張れとか。それが足枷となり、重石の様に重たく頭上に乗っているかのようだった。
日中は足枷を引き摺り回し、頭上の重石をあたかも、無いふりをしているからそこ、夜は動けない。ご飯を食べなきゃいけない。メイクを落とさなきゃいけない。部屋を片付けなきゃいけない。明日の支度をしなきゃいけない。
しなきゃいけないことが部屋に充満していて、呼吸すらしにくい。このまま一生眠ってしまいたい。
「世界が、一生真夜中だったら良かったのに。」
そう言って、私は静かに泣いた。
No.17 _真夜中_
母の口癖は
「貴方はいつまでも私の子供なのよ。」
だ。歩いているときも、私が車を認知しているのに
「車が来てるから気をつけて。」
と言う。正直、分かっていることに対して言われるのがムカついた。私だって大人だ。そのくらい一人でも分かるし行動できる。
「わかってるから、いちいち言わないで。」
そういうと、母は
「しょうがないじゃない。貴方はいつまでも子供なんだから。」
と笑った。変わらない姿勢に苛立ちを込めて、また前を向いて歩き出した。
私が、母をこんな風に思っているのは昔からじゃなかった。昔は、逆に心配してほしかったくらいだった。
母は、恋多き人だった。血の繋がった父、前の父、そして今の父。その間にも彼氏が何人かいた。どんなに男に裏切られても、ひたすら別の男へと向かい、恋をしていた印象が強い。だからこそ、意識が男の方へと向きがちで、幼い頃は、結構放置をされていた。
母は、土日は家におらず、彼氏の家でゆっくりしていた。平日は、祖父母の家に預けられ、家に帰っても母は常に彼氏と電話を繋いだり、メールのやり取りをずっとしていた。
「母さん、あのね。」
そう言うと
「はいはい、よかったね。」
それだけ。空返事をされ、私はそれ以来学校の事も基本的には話さなかった。
学校からの保護者へ渡す、子供の生活態度の紙に【自宅で、学校のことを話すかどうか】という内容の質問に対して【話さない。】と書いていた。話さないじゃない。話しても意味がない。と、反論したかったが、どうせ聞いてくれないから辞めようと、口をつむんだ。
こんな風に生きた幼少期だからこそ、今更子供扱いされても嬉しくはないし、なんで今更。という気持ちが強かった。
私を、子供のままで居させてくれなかったのは、貴方だ。
No.16 _子供のままで_ ノンフィクション
「ばかー!」
そう言って、彼からもらったネックレスを海へ投げた。彼は昨日、私を裏切った。女の人と腕を組んで歩いていた。そのことを問い詰めると彼は白状した。なんと私のほうが浮気相手だったらしい。私は彼に別れを告げ、独り身へと戻った。
家に帰り、ベッドに倒れ込むように横になると、チャリっという音がした。彼からもらったネックレスの音だった。彼とお揃いのネックレス。彼はよくアクセサリーを付けた。ネックレス、指輪、ピアス、服の装飾。すべてが好きで、全てが憎たらしい。
「好きだったな…。」
しかし、いつまでも未練たらしく思っているわけにはいかないので、彼と初めて行った海へ行き、区切りを付けようと思い、今に至る。
波にさらわれたネックレスは海の反射と同じ様に海を光らせ、まるでこれ本来の役目だったかのように消えた。
気が済むまで海を眺め、そろそろ帰ろうと歩き始めた。その時、別の人がけがあることに気がついた。元カレと元彼の本カノだった。彼らは私の存在にも気が付かず、まるで世界に2人しか生きていないかのように、イチャイチャとしていた。
「愛してるー!」
そう、彼は海に向かって愛を叫んだ。私も、初デートで彼に海へ叫ばれ「やめてよぉw」なんて、したものだ。
そうだ、アレも捨てなきゃ。
私は、全力で走りにくい砂浜を全力で走り、彼を海へ突き飛ばした。
「ばーーか!!!浮気者ー!!!」
うちに突き飛ばされた彼は、キラキラと海の反射と同じ役割をしていて、すごく綺麗だった。
No16 _愛を叫ぶ_
雨によって羽を濡らし、飛べなくなった蝶を見たことがある。白かったから、多分モンシロチョウだと思う。バタバタと羽を動かし抗う姿に心打たれた。
その日から、雨が降る前に虫に伝えた。
「今日は雨が降るよ。」
もちろん、伝わるわけがないが、一応言っておく。折角羽を授かり、空を飛ぶ自由を持っているのだから、雨のせいで地に落ちるのはあまりに可哀想だという、ただのエゴでしか無かった。
だが、伝わっていないはずなのに、虫たちは屋根のある場所や、葉の下へと身を置いた。雨に濡れず安全な場所へ。
雨の降る日、私は必ず傘をさしてある場所へ行く。モンシロチョウが死んだ場所へ。意味があるわけではないが、自然と足が動き、気がついたらそこに立っていた。そんな日が続く梅雨時。私はまたフラフラとモンシロチョウが死んだ場所へと向かっていった。
「…あ、また来ちゃった。」
意識が鮮明になり、自分がしていたことに毎度ながら新鮮味を感じて家に帰ろうとしたとき、ふと足元に蝶々が居た。
「君、雨だよ。濡れたら死んじゃうよ。」
そう、声を掛けると後ろから、石を踏む「ジャリ」っという音がした。本能的な動きとともに振り向くと、可愛らしい女の子が立っていた。
「優しいんですね。虫に雨を伝えるなんて。」
「え、あ、なんとなく、伝えなきゃなって思ってて。」
「…私のことは見殺しにしたくせに。」
その表紙に突き飛ばされ、地面に頭をぶつけ視界が曇った。目に雨が入るが拭う力がなかった。押された部分を見ると、白い鱗粉がついていた
No.15 _モンシロチョウ_
「1年後、私はどうなっていますか。」
今、思い浮かんだ質問。このお題が出て一番最初に出た質問。
職場に慣れているだろうか。つらくて泣いているのだろうか。親に見捨てられているのだろうか。幸せだろうか。
1年後、この場所にいるだろうか。
わからない。
わかるわけがない。
しかし、もし残っていたのであれば、1年後、この質問に答えるようの小説を書いて欲しい。
1年後への私へ課す課題。
No.14 _1年後_