雨によって羽を濡らし、飛べなくなった蝶を見たことがある。白かったから、多分モンシロチョウだと思う。バタバタと羽を動かし抗う姿に心打たれた。
その日から、雨が降る前に虫に伝えた。
「今日は雨が降るよ。」
もちろん、伝わるわけがないが、一応言っておく。折角羽を授かり、空を飛ぶ自由を持っているのだから、雨のせいで地に落ちるのはあまりに可哀想だという、ただのエゴでしか無かった。
だが、伝わっていないはずなのに、虫たちは屋根のある場所や、葉の下へと身を置いた。雨に濡れず安全な場所へ。
雨の降る日、私は必ず傘をさしてある場所へ行く。モンシロチョウが死んだ場所へ。意味があるわけではないが、自然と足が動き、気がついたらそこに立っていた。そんな日が続く梅雨時。私はまたフラフラとモンシロチョウが死んだ場所へと向かっていった。
「…あ、また来ちゃった。」
意識が鮮明になり、自分がしていたことに毎度ながら新鮮味を感じて家に帰ろうとしたとき、ふと足元に蝶々が居た。
「君、雨だよ。濡れたら死んじゃうよ。」
そう、声を掛けると後ろから、石を踏む「ジャリ」っという音がした。本能的な動きとともに振り向くと、可愛らしい女の子が立っていた。
「優しいんですね。虫に雨を伝えるなんて。」
「え、あ、なんとなく、伝えなきゃなって思ってて。」
「…私のことは見殺しにしたくせに。」
その表紙に突き飛ばされ、地面に頭をぶつけ視界が曇った。目に雨が入るが拭う力がなかった。押された部分を見ると、白い鱗粉がついていた
No.15 _モンシロチョウ_
5/11/2024, 10:17:29 AM