草原で目を瞑るとそのまま夢の世界へ引き込まれていく。
「もう部活終わんねぇかな」
「まだ始まったばっかりじゃん笑」
幼馴染くんといつもは話さないアップの時間。不思議だな、君から話しかけに来てくれるなんて。私たち雨も降っていないのに中での部活。各セクションに分かれた練習になると私は1人で黙々とメニューをこなす。割と今日は順調に進んでいる。うんうん、今日は調子良いなんて思っているとまたまた不思議な場所へ。学校にはあるはずもないガラス張りの部屋。1階には君がいた。私が一か八か手を振ってみると気づいてくれたみたいだ。可愛い…
「ねぇ、好き」
私は口パクで君に伝えた。すると君は頬を赤らめるんだ。またまた場所が変わり今度は教室。私の席の目の前には君がいた。私はどうやら眠っていたみたいだ。だとしても!さっきのアレは言いすぎたかも。
「な、何よ、そんなにジロジロ見て…」
「だって俺もう非リアじゃなくなるし」
にんまりと笑う君に多少恥ずかしさは増したがこれで私たちはようやくハッピーエンドってことなのね。はいはい……
「……い。おーい、寝てるのか?」
目を開けると君が私の顔を覗き込んでいる。
「なんで見てんのよ、アホたれ」
恥ずかしくてこんな夢の話、君に出来るわけないよ。
幼馴染くんへ
急にでごめんね。びっくりしたと思う。私も急になんでこんなことしてるのか…ごめん、本当に今になって恥ずかしいほどわかるの。小学生の頃、クラスも離れてて掃除の時間くらいしか関わる機会がなかったよね。だから中学生になって君が急に私に話しに来てくれて本当に嬉しかった。蛙化現象が怖かった私に構わず突き放してもちゃんとそばに居てくれた。ずっと不思議だった、君がなんでこんなモブキャラみたいな私に構うのかも。それでも君がちゃんと伝えてくれたから私も気持ちを知ることができた。君はいつも遠回しだから伝わりにくい。私だって恋愛に慣れてなかったから鈍感なんだし!君が追いかけてきてくれたって夏祭りに誘ってくれたって…今思えば本当に恥ずかしい。それでもこの1年間君が伝え続けてくれた想いがわかったの。
伝えるのが遅くなってごめん。今までありがとう。これからもよろしく。でも私も君みたいに遠回しに想いを伝えたい訳じゃないから。
私も君のことが大好きです!
優しくしないでよ…もう。
今日はやっと久しぶりの部活があるんだ。みんなとまたくだらない話をして笑い合えるんだ。
「なぁ、見て。技術室で拾った 笑」
「え、なに。見して見して…え、これ1年のじゃん。ヤバイヤツの 笑笑」
とても心地の良い笑い声だ、誰だっけ、この人。私から15cmくらいの位置に幼馴染くん。久しぶりかな、この距離感。いや、いつもか笑。でもこんなに近くにいたら誤解されるに決まってる。でもそんなこと気にせずに笑える君に少し腹が立った。
「ロリコン (ニヤ)」
「は、はぁ!?」
君に構ってる暇なんか…な、ないんだ…嘘です、あります。
友達と次の教室へ移動する。
「ロリコンじゃねぇし」
私のすぐ横を通って行った君の匂いが一気に広がる。
「…ば、ばーか」
甘い匂いが私の顔をほんのり赤く染めていく。
「昼休みだァ!」
そう言って私は教室を飛び出す。あ、幼馴染くん!?君がホールに出してある机で課題をしている。お互い休んだクセに先生に提出してなかったのかよ笑。それでも君は男子からの人気者だから私が話しかけるなんて出来るわけない。だから女子と絡みに行く。あーまた男子が…。あ、今1人だ。あぁーまた来た男子ィ…。その子は私のこと知ってるから
「あ、察し (ニヤ)」
ドンッと力強く押されて私は君の元へ。
「わぁっ!?」
「っ!?…びっくりした」
「ご、ごめん 」
この沈黙に耐えきれず私たちは笑いだした。
「君って結構真面目?」
机に顔を近づけ覗くようにワークシートを見る。
「わっかんねぇもん。答え見てるし真面目じゃねぇよ笑」
君の匂いがじんわり広がって肺いっぱいに染み渡る。そのあまぁい匂いに君が動かすシャーペンの音。君がワークシートを見つめる顔に私は見とれる。じぃーっと君のことを無意識に見つめてしまう。
「なぁに、なんかあった?」
ニヤリと私に向き直る君に色気が増す。そんな歳でもそんな性格でもないのに…私はまた熱が上がる。そんなに…優しくしないでよね。今くらいならバレないかと私もまた君に少しだけ近づく。心の距離がまた縮まっていく。
カラフルな世界で生きる私。モノクロの世界で生きる私。変わるものってなんだと思う?隣にいてくれる人がどうか。
この3日間、私は幼馴染くんに会ってなかった。でも、金曜は君も病院で休んでたなんて…。どっちにしろ会えなかったんだろうけど。あぁ、もういいや。
「なぁ、今日部活あんの?」
「…はひ!?」
隣に君がいる。し、死角だった。私左耳聞こえづらいから油断してた。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ…どうしよう、どうしよう…
「ん…」
「セクハラ!?」
君が私の脇腹にツンツンする。もうまた熱が上がりそうなんだけど。一気にカラフルに染まる世界に私はまだ慣れないでいる。
楽園なんてただの夢物語じゃないのか。クソだるい世の中に楽園なんて存在するものか。まわりの大人たちは腐るほどの煙草を吸って溺れるほどの酒に酔いしれてる。男も女もカラダ目当て。今夜の遊び相手のお探しごっこ。
「ねぇ僕、こんなところにいて大丈夫?こっちにおいで」
「あら、珍しい。青い子だわ。こういうところは初めて?」
「ここでイケナイことしていかない、僕?」
残念、僕は女だ。夜のお姉さんたちは次々と僕に声をかける。クソッタレな世の中で楽園なんて。笑える。加速する酔いに身を任せる野郎どもの戯れなんて興味無い。そこのバーが並ぶ通りを歩けば路地裏でキスをしてる奴らなんて五万と見てきた。同性愛者だって存在する。毒に身を腐らせたやからどもが今日もまたうじゃうじゃ湧き出す。
光る街を眺めながら漂う酒と煙草の匂いを肺いっぱいに吸い込む。
「あ、お前さぁ…もっとわかりやすいところにいろよ。今日も来る?」
「…うん」
君がいる世界は楽園だなんて…ここは罪深き牢獄の中なのにな。