『過ぎ去った日々』は共に追憶する人がいなければそのうち、容易に思い出せなくなる。それはその記憶へと至る神経接続を強化し続けるから、ということなのだろうが、それを知りながら、辛い記憶ばかりを忘れられないのは何故だろう? などと首を傾げてしまう、記憶を誰とも共有せずとも繰り返し、繰り返しその記憶の再生ボタンを押し続けているのは、他でもなく自分自身であり、けれど自身だけではそれを止められなかったりもするから、本当に厄介だ。
それはもう過ぎ去ったこと、過去のことなのだ、と傷つけた相手に思ってもらえるには、どれくらいの時間が必要なのだろう? そしてそれは「許される」と同義になるとは限らず。
それでも。傷つけられた強くて優しい人は、許せないけれど過ぎ去ったこととするし、許さないけれど復讐や報復をしない。
そのことがその人の「強さ」だとか「優しさ」なんかで片付けられてしまわないように、どうかその人が報われますようにと、遠く及ばないけれど自分もその人みたいになれますように──そう願いつつも私は偽善者であるから、同時に「どうか自分の罪が許されますように」とも、しっかり願うのだ。
──と。
こんな矛盾ばかりの落としどころの無い雑文を最後まで読んでくれた優しいアナタがこの世にいることで、私は勝手に「許された」ような感覚を得る。承認要求を満たすことと、許されることとはまったく別のものなのにね、でも、読んでくれたことがうれしいから……ありがとう!
これまでのあらすじ:陽菜ちゃん(5歳)は転んで頭をぶつけたせいで、前世で大好きだった推し、りょーじくんのことを思い出した! 陽菜ちゃんのことが大好きで心配性なパパの協力のもと、日々推し活にいそしんでいるよ! (先月の『ブランコ』『待ってて』『バレンタイン』のつづきだよ!)
「陽菜ちゃ〜ん💕 今日は『ひなまつり』! ひなまつりってのはつまり、陽菜ちゃんのためのお祭りなんだよ〜! ……ん? これは……」
「あのね! ひな、よーちえんで、おひなしゃまつくったの〜」
「そっかそっか! うん、とってもかわいい、上手! ウチの陽菜ってやっぱり、神童なんじゃないかな……と、あれ? こっちのは、」
「りょーじくんの、あくしゅた?」
「うん。これ、りょーじくんのアクスタに、折り紙の着物着せてるのって、」
「えへへっ。あのね、おひなしゃま!」
「えーと、この水色の着物のりょーじくんがお内裏様だよね? 隣の紫色の着物着せたアクスタは、」
「いっぺーくん!」
「そう、いっぺーくん。……りょーじくんと、いっぺーくんの結婚……?」
「あっ、えっとねえっとね、けっこんとか、わかんなくって、んっとね……なかよし、なの!」
「っ、なかよしね、なるほど! なかよしさんだからかー、そっかそっか。結婚とか、陽菜ちゃんにはまだわかんないよなー、うん、わかんなくっていいんだよー、ハハハッ。じゃあ、なかよしさんをウチのお雛様と一緒に飾ってあげようか。でも、他のメンバーのアクスタは、なかよしさんの仲間にしてあげないの?」
「それは、おしかぷ……」
「ん? かぷ?」
「あわわ、えっとねえっとね、パパだいしゅき〜!」
「っっっ! パパも陽菜が大好きだよ〜💕」
暗黒に飲み込まれようとしている、この世界で。
神が我らにその存在を示した『たった1つの希望』──すなわち、神託が選んだ聖女は他でもない、貴女様なのです。
さあ、この世の暗黒たる魔王を討ち果たすべく、いざ共に参りましょう!
「……無理」
「……え?」
「いま、無理だから。とっとと帰って」
「っ、そんな! 貴女様がいなければ、世界は!」
「いまワタシがいなくなれば、この店は! 空腹に耐えかねた冒険者たちがそれこそ、魔物の群れのように暴れ回るでしょうよ! 見てわかんない? いまちょうど満席になって、料理の注文がドカンと入ってきたトコなんだから!」
「え……あの、でも、」
「うーるさーいっ! 集中して作りたいの、話なら後にして! ヒマならそこの鍋とフライパン、洗っといて!」
「はっ、はい!」
◇
「えええ? いまそこに伸びてる中年のオッサン……相手の状況をこれっぽっちも見れない、洗い物もろくに出来なくて使えなかったコイツ、いやこの方が、本当に王弟殿下で? しかも、魔王討伐のためのパーティーを率いる、勇者だって? 大体さぁ、食堂のオバチャン、って呼ばれてるワタシが聖女って、神託がどうかしてるとしか、」
「手をかざして「ヒール」と唱えてみてください」
「はぁ。……ヒール」
「……はっ。私はいったい……あっそうだ、とにかく鍋を洗わねば、」
「殿下、気がつかれてよかったです。ほら、貴女様の呪文で、王弟殿下がちゃんと、回復しましたよね?」
「えええ……ワタシに、こんな力があるなんて。ってか、こんなオッサンとオバチャンのパーティーって、」
「ちなみに魔法使い様も同年代ですのでご安心を」
「なにをどう安心しろと?」
『欲望』
欲望を感じて
うずり、と
手足のない
生き物のように
蠢く
心臓あたりの
あの器官が
感じる
愛おしさに
きゅう、と
無垢なもののように
痛む
不可解さ
いまごろ気づいたけど
欲望にも
承認欲求があるのだ
ここにいるのに
いないものとされる
行き場の無さを
想像して
痛む
あの場所だけは
わたしの
欲望の存在を
否定せず
肯定する
どんなにそれを
否定したとしても
なお
関係者各位:
春の日差しの麗らかなる本日、当方の10年来の片想いの相手に想い人がいることが判明し、これによって当方の失恋が確定しました。
ついては、今後の人生で彼の姿を絶対に見ることのないどこか『遠くの街へ』拠点を移すことを決心しましたので、この告知書にてご報告させていただきます。
なお、皆様への個別の挨拶等行き届かないことをどうぞ、皆様の寛大なるお心を持ってお許しくださいませ。
「……ほらっ、書いてやったわよ! これで文句ないでしょ、じゃあワタシは行くから」
「待て待て待て、待ってくれ! あのなぁ、Sランク冒険者のギルド移動は、国にも承認をもらわねばならんのだ、だから、」
「っ、ちょっと! さっきは、ギルド所属の他の冒険者が納得しないって、そういう説明だったわよね? だから告知書にこうやって、自分の傷に塩塗るようなことまで書いてやったんじゃないっ、詐欺よ詐欺、ギルド長のくせに詐欺なんて、恥を知りなさい!」
「落ち着けって! 大体、失恋くらいで、」
「失恋くらいで、ですって……? 」
「あっ、いや違う、その……悪かった、失言だった、すまん。だが違うんだ、言いたかったのはそういうことじゃなくて……つまり、だな。失恋には新しい恋が効く、とか……あっ、頼むから、ちょっと待ってくれ!」
「いっちばん言われたくないことを、いっちばん言われたくない人に言われて、待てるわけないでしょうっ! ……え、なんでドアが開かないのよ。って……魔法障壁?! どうゆうこと、これって、外から閉じ込められてる、ってことよね?!」
「あー……あいつら、本当にやりやがった……」
「心当たりがあるの? ……違うわね。要するに、ギルド長の差し金ってことかしら……?」
「違う! 本っ当に、違うから! ただあいつらは、俺のためを思って、だな……」
「っ、もう! こーなったら、力ずくで……」
「わあああっ! 抜剣、禁止! ギルドを半壊させる気かあああっ!」
◇
「……おい。扉の向こう、なんか言い争ってるようなんだが?」
「よーし、そろそろ警戒しておかなくちゃだな。オレたちはとにかく、この扉を死守しなくてはならない」
「魔法使い3人の三重障壁なら、たとえアイツが何かしらの理由でキレて、扉をぶっ壊そうとしても、持ち堪えられるだろ? ……たぶん」
「Sランクのアイツの剣気を、魔法使い3人以外のメンツで剣気使って受けて魔法使いたちの盾になる、って算段にもなってるわけだし、まぁ数分は……」
「ってかさぁ、ギルド長の奴! とっとと告白しろよなぁ、なんで言い争いになっちゃってるわけ?」
「大体、アイツの失恋ってのも誤解なんだし。どこでどうやって知ったのか、ギルド長に想い人がいる、って……」
「あああ〜クソッ、その想い人ってのはオマエだ、オマエ! って、声を大にして言ってやりてぇ〜!」
「あと、アイツの10年来の片想いの相手はオマエだよ! って、奴にもな〜!」
「にしても二人とも、なんでそれに気づけねぇんだ? なんなら、この街の人間の全員が知ってるってのに」
「それも、10年も……」
「そりゃ、奴らが自力で気づけてたらこんな、「告白しないと出られない部屋」なんて、必要ねぇだろ」
「まぁ、確かにな」
「っ、おいっ! 扉の向こう、いま「抜剣禁止」って、奴がっ!」
「全員、防御態勢! あんのクソ馬鹿野郎が、まさか、まだ告白出来てねぇのかよーーー?!」