「お前んちに行きたい、とか言われたって無理無理、『おもてなし』とか考えなくっていいからさ、ってね、いやもうおもてなし以前の問題でね? 部屋狭いし勿論汚いし掃除したってたかがしれてるし、あースリッパないお皿もカップも揃ってるのないしその前に椅子&テーブルもしくはちゃぶ台&座布団もない、最悪それら買ってくるとしていったいいくらかかるんだろ? そもそもお金ないからねその時点で無理なモンは無理だしあとよく考えたら他人を自分ちに入れるってトコから無理なんだわ〜。ね〜やっばりさぁこのミッションクリアしないと彼とバッドエンドになっちゃうよね? でも頑張って部屋に呼んだとしてそっちのほうが即バッドエンドな気がするぅ……」
「……あーうん、なるほど? ……で、一応訊くんだがな、いま現在この部屋に招かれてる俺は、どういう扱い?」
「え? いやだって、アンタは他人じゃないし。招くとかそんな、お客サマ扱いする必要ないでしょ?」
「…………」
ったく、オマエは。部屋に呼べない男なんかと付き合うんじゃねえよ。俺だったら部屋にオマエがいるってだけで『おもてなし』完了なんだ、早くそれに気づけっての!
いくつもの焔を身の内に抱えて生きるのはもう嫌だ、そう言いながらお前はそれを消さない。『消えない焔』だって? ハッ、そりゃ消えないだろう、お前が日々コツコツと油を継ぎ足しているのだからなぁ。怒り、憎しみ、恨み、嫉妬……どの火種もお前が四六時中夢中になって囚われるほどの好物、ならば、よくよく油を絶やさないことだ。さすれば焔が消えることはなかろうよ。
『終わらない問い』
終わらない問いよ
お前とはもう随分と
長い付き合いになる
どんな天気の日だってお前は
私への問いかけををやめない
(どうしてそんなに愚図なんだ?)
(あんな言い方はなかったよな?)
(同じ失敗ばかり何度繰り返す?)
私に呆れてながらも
お前は私を見放さず
その声は
やまない
ああそうか
お前の声は
死の淵に於いてこそ
やむことはないのだ
(何も叶えられなかったな?)
(何者にもなれずに終わり?)
(こんなはずじゃなかった?)
──終わらない問いよ
お前は私の傍らに立ち続ける
ならば同じものを共に見よう
月や星や
空や雲や
花や鳥や
この世のそういう
美しいものたちを
時にはお互い
口をつぐんで
「求愛行動〜」
言いながら奴が手にしているのは、本物の孔雀羽根だ。フサフサと『揺れる羽根』には、まるでトルコの魔除けのナザールボンジュウ🧿、あの藍色の目玉みたいな模様が描かれている。
自然に抜け落ちた羽根を消毒したもの、という説明付きでネットショップで売られていた、さっき届いたばかりの20本の孔雀の羽根──それを奴が、俺に向かって広げてみせたのだ。
「孔雀が羽根広げるのはオスの求愛行動なんだって、知ってた?」
「っ、知ってるし、そんなん……こっちに向けんな、バカ」
羽根の複数の目の圧から逃れるように、俺は顔を背ける。文化祭は3日後、小道具の羽根飾りはいまやっと材料が揃ったところ。係である奴と俺の二人だけで仕上げなきゃならないし、だから徹夜、泊まりでとにかくどうにかしよう……ってことになったんだが。
一人暮らしの奴の部屋で二人きり、とかいうこの事態、それで浮かれてるのを奴には、気づかれたくないってのに。
そんなん、されたら……本気にするぞ?
「あーあ。なーんだ、求愛失敗か〜」
「ふざけてる場合か、時間ねぇんだ」
「わかってるって。……うん。じゃあ、羽根飾りが仕上がったら、またチャレンジしてみよっと!」
「……は、あ?」
奴が思わせぶりに、しかし爽やかに笑ってみせる横で俺は、動揺と期待で頭ん中がぐちゃぐちゃになっている。どうすんだ、俺……あと3日、正気でいられンのかよ?
『秘密の箱』の情景3篇
その1:
「あら? あんなところにお菓子の缶……あ、タケルくんの、かな?」
「そう。これは『秘密の箱』だからママも見ちゃダメ、ですって」
「あら。フフフッ」
「まぁでも見るんだけどね」
「あら? 見ちゃうんだ?」
「いちばん最初が……カマキリの卵」
「あああー」
その2:
「先輩、このお宅って……」
「なにも言うな。プロの引っ越し屋なら黙って運べ」
「でもこんな……全部の箱に『秘密』ってわざわざ書いてあるってのは、いったいどういう、」
「割れ物かどうかだけは客にしっかり確認しろ。本社が査定のために手配した仕込みの客かもしれない」
「えっ。そんなのあるんスか?」
「そうだったらいいなっていう、俺のただの願望だ」
その3:
「先輩、好きです! 私の『秘密の箱』、受け取ってくださいっ」
「俺も実は、お前のことが……これ、開けていい?」
「ダメです!」
「あーそっか、ごめんごめん。持ち帰って家で、」
「絶対に開けちゃダメです、秘密なので!」
「……えーと?」
「大好きな先輩だから渡すんです、私の秘密」
「でも、開けちゃダメなんだよね?」
「大事な秘密ですから!」
「……ええっと、とりあえず……軽いけど、カバンには入らないな」
「あっ、この面を上にして水平キープです。それと火気厳禁」
「なにを試されてるの、俺?」