配送員A

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1/28/2023, 12:16:50 PM

街へゆく
街で働く
街から戻る
郊外の小さなマンションに戻って眠る
目を覚まし
街へゆき
街で働き
街から戻る
その繰り返し
その繰り返し
街には人がいる
それはたくさんの人がいる
街には仕事がある
だから俺のようなものも
なんとか仕事にありつける
俺は街へゆき
街で働き
街から戻る
働いた分だけ駄賃を持ち帰る
米や野菜を買うときは
近所の販売所へ行く
田んぼと畑に囲まれて住んでいるから
そこで穫れたのを金と換えてもらう
欲しい本があるときは
街の本屋に行って買う
思うに
田舎に住んで田んぼや畑をやる人は
自分で食うものを自分で用意できるのだから
ずいぶん気楽でいられるだろう
街に住む人は田んぼも畑もやらずに
本など書いて暮らしているのだろう
そして書いた本を売って得た金で
米だの野菜だのを買うのだろう
そして田んぼも畑もやらず
また本を書くこともしない俺のようなものが
街を出たり入ったり
世間はそんなふうにできているのではなかろうか
畑をする人と本を書く人
そしてそのどちらもしない俺
世間にいるのはそれだけのことかもしれない

1/27/2023, 11:21:58 AM

親切へのお礼を言ってから
あなたは本当に優しい人だと褒めたら
彼は微かにほほ笑んだ
そのほほ笑みに含まれる
わずかばかりの頑なさを感じ取り
若かった私は口をつぐんだ
今考えればよく分かる
私は彼の行いについて
ほんの皮層しか見ていなかった
まるで彼が天使の生まれ変わりで
地面に足をつけたこともないように思っていた
彼が人に優しくあろうとして支払った努力を
ひとつも見てはいなかった
今の私なら彼になんと言うだろう
そして何を言わずにおくだろう
ときどき考えるが答えはまちまちだ
それよりも
私が思うのは彼のことだ
優しくなろうと誓ってその通りに生きた
彼はやはり優しい人だったなと

1/8/2023, 5:02:34 AM

住んでいるところを尋ねられて答えると
それはさぞお寒いでしょうと言われる
確かに寒いは寒いのだが
この辺りは雪というものが一向に降らない
何年か前に膝の下のあたりまで積もった時などは
子どものみならず大人まで表に出て珍しがった
そういう土地柄だから
年がら年中バイクで走ることになるわけだ
今日も風は冷たく乾き切って
ナイフの刃のように鋭く頬を切りつけてくる
全く呆れるほどによく晴れた冬空で
ロマンチックな雪の結晶などかけらも見えない
あれは寒さといくばくかの湿り気があってこそだから
このからからに乾いた土地に降ることはない
冬の弱々しい太陽も黄色く万物を照らして
まことにのどかというほかない

私は雪を夢想する
空から次々に落ちてくる
白く柔らかく軽やかな雪片
風は止み
無数の、数えきれないほどの、そのかけらが
冬枯れの草も丸裸の庭木もブロック塀も包みこみ
夜にはしんと静まり返る
窓から漏れる暖かな灯りが白さに反射する
アスファルトには黒い轍……
ああ滑りやすいだろうな
車と違いバイクにはスノータイヤもチェーンもないので
雪なんぞ降ったらさぞ面倒だろう
ロマンチックな夢想は中断され
現実が押し寄せてくる
うう寒い
こんなに寒くてそのうえ雪まで降ったら
もうこんな仕事してられない
降らなくてよかったさ
負け惜しみのように
からりと晴れた空を見上げる
冷たい山颪は吹き止んだ

12/31/2022, 11:34:56 AM

良いお年を
良いお年を
言いながら
一人また一人と去ってゆく
私はまだ帰れない
この仕事を片付けなくちゃいけないから
そう
今年中に片付けなくちゃいけない
俯いてボールペンを動かしている私の頭に
良いお年を
声をかけてくれる同僚
私も返す
良いお年を
気がついたらみんな帰ってしまった
私は最後の一人だ
静まり返った事務所に聞こえるのは
時計の針が動く音と
ボールペンが紙の上を走る音だけ
しばらくして私は何とか仕事は終わらせて
机の上を片付け始める
さて
あとは事務所の戸締りだ
金庫を確認して
灯を消して
戸を閉めて
鍵をかけて
おっと
その前に
私はドアの外から暗い事務所の中へ
真新しい注連縄飾りと鏡餅をお供えしたばかりの
神棚に向かって言った
今年一年ありがとうございました
どうぞ良いお年をお迎えください
もちろん返事は聞こえない
私は静かに戸を閉めて鍵をかけた
そして
事務所の暗がりの静けさを思った
明日の朝、最初に差し込んできた日の光が
眩しく照らす明るさを想像した
白木の神棚が見下ろすこの小さな事務所

さて、明日も仕事だ

12/27/2022, 6:22:18 AM

今日は何の日だと思う?
周平くんがぼくに訊いた
ぼくは首を傾げた
十二月二十七日?
そう
うーん、なんだろう
クリスマスは終わったし
大晦日でもないし
何にもない中途半端な日?
周平くんは笑って言った
十二月二十七日は
淳平が病院から帰ってくる日
だからぼくには特別な日なんだよ
その笑いが静かに大人びていたので
ぼくは恥ずかしくなって
そっか
と言った
よかったね
うん

三十年近く経っても
毎年思い出す
十二月二十七日の会話

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