住んでいるところを尋ねられて答えると
それはさぞお寒いでしょうと言われる
確かに寒いは寒いのだが
この辺りは雪というものが一向に降らない
何年か前に膝の下のあたりまで積もった時などは
子どものみならず大人まで表に出て珍しがった
そういう土地柄だから
年がら年中バイクで走ることになるわけだ
今日も風は冷たく乾き切って
ナイフの刃のように鋭く頬を切りつけてくる
全く呆れるほどによく晴れた冬空で
ロマンチックな雪の結晶などかけらも見えない
あれは寒さといくばくかの湿り気があってこそだから
このからからに乾いた土地に降ることはない
冬の弱々しい太陽も黄色く万物を照らして
まことにのどかというほかない
私は雪を夢想する
空から次々に落ちてくる
白く柔らかく軽やかな雪片
風は止み
無数の、数えきれないほどの、そのかけらが
冬枯れの草も丸裸の庭木もブロック塀も包みこみ
夜にはしんと静まり返る
窓から漏れる暖かな灯りが白さに反射する
アスファルトには黒い轍……
ああ滑りやすいだろうな
車と違いバイクにはスノータイヤもチェーンもないので
雪なんぞ降ったらさぞ面倒だろう
ロマンチックな夢想は中断され
現実が押し寄せてくる
うう寒い
こんなに寒くてそのうえ雪まで降ったら
もうこんな仕事してられない
降らなくてよかったさ
負け惜しみのように
からりと晴れた空を見上げる
冷たい山颪は吹き止んだ
1/8/2023, 5:02:34 AM