「いやっ……」
私は恐怖でその場から動けなくなっていた。
「俺…ずーっと貴方の事が好きだった。なのに…彼氏が居るなんて…それに家にまで連れ込んでましたよね?」
隣人さんはそう言いながら、動けなくなっている私にゆっくりと近づいてきた。
「いやぁっ……」
「こうやって貴方に触れられる日を、俺は待ち侘びていた…」
隣人さんは私の頬を撫でるように手を添えていた。
「このままギューッと貴方を殺せば俺のモノになる…」
「いやっ……」
「いやぁー!!!!!!!!!」
私は何をされるのか分からない恐怖でその場で気絶をしてしまった。
その日から、隣人さんと会わなくなった。
朝、いつも通りに家から出てもね。
毎日に安心して過ごしてた。
だけど、私にストーカーが出来てしまったんだけど。
アルバイトから帰る時に何だか後をつけられている気がするし、最初は私の自意識過剰が働いただけだと思っていた。
だけど、日を重ねていく度にストーカーの行動は酷くなっていった。
「最近ストーカーされてる気がするんだよね…」
とある日にカフェで親友に相談することにした。
「え…マジ?」
「うん…」
私と親友が相談した結果、ストーカーされてる気がしたら、取り敢えず振り返ってみること。
怖くても、出来るだけ証拠を持って警察に行けるように。
「大丈夫、私もついているから。一人じゃないよ。」
そして、とうとうその日が来た。
相変わらず、ストーカーが着いてきている気がする。
何回も振り返ることに躊躇したのだが、これじゃ何も進まないと思って、私は勇気を振り絞って後ろを振り返ることにしたのだ。
「………えっ、」
振り返ると其処には、街灯に照らされた"隣人さん"が居た。
「また、会いましたね。」
そう街灯に照らされている隣人さんは私に不気味な表情で微笑んだ
「そう、ですか…」
私はその時に思い出した。
あまり女の人が男の一人暮らしの家にドカドカと入らないほうが良いってこと。
何されるか分からないから、両親には深い関係以外、気を付けろと言われている。
「榊さん。」
私がボーッと考え事をしていると、隣人さんは私の目の前にお茶を用意してくれていて、私と対面するように座っていた。
「鳥井さん…」
そして、テーブルの真ん中にあの白い箱が置かれていた。
「これ、俺からのプレゼントです。」
「えっ…」
怯える私と裏腹に、隣人さんは不気味な表情で微笑んでいる。
私は怖くて、逃げたくても逃げられなくて、喋ろうにも喋れない。
動こうにも動けない。
そんな私を見た隣人さんは私の直ぐ横に来て、私の手を取り、手のひらにプレゼントと言っていた白い箱を持たされた。
「怯えなくて良いんですよ。」
その瞬間に私の防衛本能が働いたのか、身体が勝手に隣人さんの家から出ていった。
白い箱を持たずに。
「お、お邪魔します。」
「全然上がってください。」
意外と男の人の家って感じではなくて、凄い綺麗に整えられていた。
ていうか、私より綺麗かも……
私はどうすれば良いか分からなくて、玄関で立ち止まっていると、隣人さんは私にそう声をかけてくれた。
「お茶出しますよ。適当に座っててください。何してても構いません。」
私は取り敢えずテーブルの直ぐ側の所に座ることにした。
「不思議な家ですね。カレンダーも時計も置いてない…、携帯で確認出来るからですか?」
私が隣人さんにそう言うと、隣人さんはお茶を作る手を止めた。
「…現実を見たくないっていう部分もあるからですね、現実逃避。」
隣人さんはお茶を作る時に絶対に使わないであろう、「包丁」を持って、私にそう言った。
「無理しなくて良いんですよ。」
私はこの現実の絶望を現実逃避するために煙草に手を出してしまった。
其処であの隣人さんに吸っている所を見られて、何があったのか話してみると、そう言われた。
「私、結構不幸体質なところもあって、昔から彼氏とか作りたく、…無いんだよね。その人も不幸になってしまうのが怖くてさ。」
私がそう言うと、話を聞いていた隣人さんは煙草を吸っている手を止めた。
「だから、今回の遠距離中の彼氏も…亡くなってしまったんです…」
私はあの脱線事故の事を思い出して、思わず涙目になる。
普通に声が出ない、どうしても震えてしまう。
私は火を消していない煙草を手で握りつぶすように持った。
ジュッ、と手が火傷していることにも気付かなかった。
「…家、来ます?此処で話してたら、誰かと会うかもしれないし。」
「え、良いんですか…」
珍しく隣人さんが私にそう言ってくれた。
一人暮らしの男の人の家は危ないという言葉は私の中に今は無かった。