紅みかん

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11/6/2022, 1:17:16 PM



屋上から見下ろして映る群衆は浮足立っていた
パラパラと降る天気雨なんて気にも留めずに
国を救った英雄の凱旋を今か今かと待っている

柔らかい雨では今から起きる惨劇を防ぐことはできない
いっそのこと視界すら奪うほどの
激しい雨が降ってくれればいいと願う
そうすればこの凱旋も中止になる

柔らかく温かな雨なんかじゃなくて
もっと激しく冷たく俺を覆いつくしてくれ

俺の罪を洗い流すように
深く染みついて消せない硝煙の匂いを
かき消すように

……そんなことは今更無理だとわかっている
本当は俺の罪を断罪してほしいんだ

雨はやんだ
集中して俺と世界を隔絶させる
人々のざわめきは遠のく

俺の視界には英雄の笑顔のみ
引金に力をこめた

11/5/2022, 2:45:45 PM

家は貧しくて私は10歳にも満たない年齢で
大きなお屋敷に住む主人に売られてしまった
お屋敷は人里離れた森の中
屋敷に仕える使用人以外に人を見かけることはなく
森に住まう動物たちに出会うくらいだ
屋敷の主人とはほとんど口を聞くことはなかったけれど
使用人はみんなやさしくて、ご飯は美味しい
洋服も細かな装飾が施されて可愛らしい
一日の終わりには暖かな布団が待っている
不満なんてなかった

屋敷に来てから半年が経ったある夜
私は妙な胸騒ぎを感じて寝付くことができなかった
気を紛らわせるために夜の屋敷中を見て回る
ふと気がつくと、部屋から一筋の光が漏れていた
いつもは鍵が掛かってる部屋の扉が
少しだけ開いており部屋の明かりが漏れていたのだ
鍵が掛けられ部屋の中を今まで見たことがなかった
好奇心にかられて、私は扉の隙間から中を覗き込む
部屋の中にはたくさんの精巧な人形が並べられている
人形は私と同い年くらいの少年、少女だった
美しい衣装を身にまとった人形は一体一体
ショーケースに入れられていた
中央の目立つところに空のショーケースが一つある
私の心臓がドキドキとうるさい
あれらは人形じゃない生きた人間だ
次は私が空のケースに収まる番だと直感した
私は震える足を無理やり動かして走りだした
とにかくお屋敷から逃げ出さないと!
玄関への道が果てしなく遠く感じる
ガムシャラに走って廊下の曲がり角に差し掛かったとき
何かがぶつかって私の行く手を阻む
顔をあげるといつもの温かな笑みを
能面のような無表情にした使用人の顔があった

10/31/2022, 1:45:30 PM

「地獄へようこそ、お兄さん」

下卑た笑みを浮かべた悪魔が言った。

この地獄にあるのは暴力。

力ある者が上に立つ世界だ。
まさに、弱肉強食。
弱者を守り、強者を縛るルールなど存在しやしない。

生まれて始めて自分を抑えつけていた枷がなくなったようで、心からの笑みを浮かべる。

ああ、これこそが俺の求めていた理想郷だ。

10/30/2022, 12:41:29 PM

学生の頃はよく絵を書いた。
自由帳の真っ白なキャンバスから
溢れんばかりのイラストを。
授業中のノートの片隅に
ひっそりと小さなイラストを。

楽しくて楽しくて寝る間を惜しんで
ただガムシャラに書き続けた。

いつしか大人になって仕事に追われる日々が始まる。
熱中できることもなく、会社と家との往復ばかり。
すべてに嫌気が差してあの頃に戻りたくて
またペンをとってみる。

――上手く描ければ収益になるかも

思った瞬間に利益を求めている自分に嫌悪が湧く

純粋に夢中になったあの日々を懐かしく思うことすら
罪のようでズキリと胸が痛んだ。

10/29/2022, 11:30:34 AM

あんなにも憧れていた、強くて優しいお姫様
けれども私の前には王子様は現れず
お姫様になることは叶わなかった

人々に恐れられる魔女になってしまった私は
冷たいベットの中で唯一の安息を得る
多くの人々を救うために可憐に戦う少女の夢
隣には大好きな王子様が笑っている

これはもう一つの物語
私が狂おしいほどに焦がれた
美しいもう一人の私(お姫様)の物語

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