あなたに多くの愛を注いでもらった
クラッシック音楽の心地よさ
手料理の温かさ
知識を得ることの喜び
誰かを焦がれることの苦しみ
あなたから貰った何もかもが
温かく優しい雨のように私に降り注ぐ
傘をさす暇なんてあたえてくれない
その柔らかさを一滴も逃さないように私は掬う
隣にあなたがいなくなったとしても
両手いっぱいに貰った愛を零すことはできない
だって、もう私という人間を形成する一部となってしまったから……
どしゃぶりの雨のように陰鬱な思いを押し殺して
あなたに祝福の言葉を送る。
顔に無理やり貼り付けられた笑みが引きつっては
いないだろうか?
純白のドレスを纏ったあなたは美しくて
目をそらせない。
けれど何でもないフリをしていつもの俺を演じ続けた。
きっと引き出物はバームクーヘンだ。
誰も俺を認めてくれはしない。
望んでもないレールを引いてくる親。
蔑みの笑みを向けてくる同級生。
奇異の目を向け、目障りそうな顔をする周りの奴ら。
現状を変えることすらできない己に
ますます嫌気が差してくる。
「申し訳ありません。お怪我はありませんでしたか?」
次の講義まで時間がなく急いでいた俺は
背の高いスーツ姿の男にぶつかった。
男は丁寧に謝罪すると俺のカバンから飛び出して
地面に散らばった物を集めていく。
「おや、あの有名大学の学生さんでしたか!」
拾い上げた学生証と俺の顔を交互に見ている。
サングラスからチラリと覗いた目はさぐるようで
俺の行き場のない思いを見透かされることが怖くて
顔をそらす。
「ああ、どうも」
俺は拾ってくれたお礼を無愛想にして
学生証を奪いとった。
「あなたは優秀なようだ。どうです?
私たちの仲間になりませんか?
我々はあなたのように変えのきかない優秀な人間
を求めていたのです」
男は愉快そうに笑っていた。
その笑みは不気味でありながら
俺は目が逸らせないでいた。
「来世があるのなら君と一緒に幸せになれるかな?」
荒れ果てて硝煙の匂いが香る戦場で貴方は呟いた
「ああ、きっと世界も平和になって俺たちも幸せに
暮らせる」
俺の返事を聞いて貴方は満足そうに笑みを浮かべる
俺たちを隔てるものは数多ある
身分、戦禍、人種、性別
この世界に輪廻転生があり、新たな人生を歩め
俺たちに塞がる全ての障害を取り除くことが
できるならばこんな幸福なことはないだろう
そして貴方に新たな戦場への招集がかかる
「また会いましょう」
そう言って君は一人で戦地へと赴いた
一週間後に俺のもとに届いたのは
貴方の名前が刻まれたドッグタグだけだった
俺はドッグタグにキスをする
それが貴方への最初で最後のキスだった
ドッグタグを首にかける
これからもずっと一緒だ
もし貴方が語ったように来世があるのならば
生まれ変わっても貴方を絶対に見つけだしてみせるよ
あなたとわたしの違いなんて
たった一つしかない
ただ誰かに引かれたレールを歩むことしかできないあなた
ただ従順に純粋に命令に従う日々
けれど誰もあなたを愛してくれはしなかった
心が壊れてしまったあなたは
あなたを苦しめてきた人々に復讐を始める
わたしにはあなたを咎めることはできない
だってあなたは
あの日わたしの手を握って連れ出してくれた彼と
出会うことができなかった
もう一人のわたしなのだから