誰も俺を認めてくれはしない。
望んでもないレールを引いてくる親。
蔑みの笑みを向けてくる同級生。
奇異の目を向け、目障りそうな顔をする周りの奴ら。
現状を変えることすらできない己に
ますます嫌気が差してくる。
「申し訳ありません。お怪我はありませんでしたか?」
次の講義まで時間がなく急いでいた俺は
背の高いスーツ姿の男にぶつかった。
男は丁寧に謝罪すると俺のカバンから飛び出して
地面に散らばった物を集めていく。
「おや、あの有名大学の学生さんでしたか!」
拾い上げた学生証と俺の顔を交互に見ている。
サングラスからチラリと覗いた目はさぐるようで
俺の行き場のない思いを見透かされることが怖くて
顔をそらす。
「ああ、どうも」
俺は拾ってくれたお礼を無愛想にして
学生証を奪いとった。
「あなたは優秀なようだ。どうです?
私たちの仲間になりませんか?
我々はあなたのように変えのきかない優秀な人間
を求めていたのです」
男は愉快そうに笑っていた。
その笑みは不気味でありながら
俺は目が逸らせないでいた。
12/10/2022, 2:00:14 PM