家は貧しくて私は10歳にも満たない年齢で
大きなお屋敷に住む主人に売られてしまった
お屋敷は人里離れた森の中
屋敷に仕える使用人以外に人を見かけることはなく
森に住まう動物たちに出会うくらいだ
屋敷の主人とはほとんど口を聞くことはなかったけれど
使用人はみんなやさしくて、ご飯は美味しい
洋服も細かな装飾が施されて可愛らしい
一日の終わりには暖かな布団が待っている
不満なんてなかった
屋敷に来てから半年が経ったある夜
私は妙な胸騒ぎを感じて寝付くことができなかった
気を紛らわせるために夜の屋敷中を見て回る
ふと気がつくと、部屋から一筋の光が漏れていた
いつもは鍵が掛かってる部屋の扉が
少しだけ開いており部屋の明かりが漏れていたのだ
鍵が掛けられ部屋の中を今まで見たことがなかった
好奇心にかられて、私は扉の隙間から中を覗き込む
部屋の中にはたくさんの精巧な人形が並べられている
人形は私と同い年くらいの少年、少女だった
美しい衣装を身にまとった人形は一体一体
ショーケースに入れられていた
中央の目立つところに空のショーケースが一つある
私の心臓がドキドキとうるさい
あれらは人形じゃない生きた人間だ
次は私が空のケースに収まる番だと直感した
私は震える足を無理やり動かして走りだした
とにかくお屋敷から逃げ出さないと!
玄関への道が果てしなく遠く感じる
ガムシャラに走って廊下の曲がり角に差し掛かったとき
何かがぶつかって私の行く手を阻む
顔をあげるといつもの温かな笑みを
能面のような無表情にした使用人の顔があった
11/5/2022, 2:45:45 PM