孤都

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11/15/2024, 1:24:58 PM

    『子猫』

   生まれてからずっと、同じ時間を共にした
  愛猫を亡くしてから、君は心ここに在らず。

   そんな君に、僕はこの子を贈る。

   その子を手の中に抱いた君は、久しぶりの
  笑顔と、幸せそうな顔を見せた。

   透明で綺麗な涙が頬を伝っている。

   そんな君の表情が見たくて。

   君に元気になって欲しくて。
  
   空へ旅立ってしまった、君の愛猫の代わりとは
  言わないけれど、僕はこの子を君に贈るから。

   この子とも、大切な思い出を作ってみないかい?

   君とこの子との幸せな未来を願って――。


   君に――子猫を贈ります。

11/14/2024, 11:58:46 AM

   『秋風』
  
   教室の窓側の1番後ろの列。
   僕のお気に入りの席。

   春、夏、秋、と冬になって雪が降り始めるまでは、
  きまって窓を開けて、風になびいてカーテンの隙間
  から、ちらっと見える空を眺める。

   夏が終わった。
   服が汗で濡れてベタつくように蒸し暑くて、
  うるさいセミの声はもう、聞こえない。
   いつも通り、窓を開け、授業中に頬杖をつきながら
  外を見る。

   少し強い風が吹いて、僕の髪はふわっと空気に
  持ち上げられた。その風は少し冷たくて・・・・・・。
  
 「秋風――」

   嫌になるほど蒸し暑かった夏が終わり、
  少しだけ風が冷たい、紅葉が映える、秋がやってきた。

11/13/2024, 1:17:30 PM

  『また会いましょう』

 桃色の、大きな花弁をつけた桜の木。その花弁がふわふわと散り始めたあの日、貴方は僕に一言、言葉を遺して、1人未知の世界へと旅立った――。
 少し広めの個室の病室。病室特有のしんみりとした雰囲気はなかった。そんな要素をひとつとして、感じさせられないような、桜の香りで溢れる和やかな雰囲気の部屋。そこには、白いベッドや綺麗な花が生けられていた。
 僕と貴方が出会ったのは、奇跡といってもいいくらいだ。
 病院の図書館で、たまたま、隣の席に座っていて、たまたま、読んでいた小説の作者が同じ人だっただけ。
 そんな偶然が重なって奇跡となり、僕らはお互いの病室まで通い、世間話などをする仲になった。
 この、二人だけの時間が楽しみで、寝る間も惜しんだな。
 けれど、出会いは突然に、というように、別れも突然だった。
 窓を開けて、おだやかな風に乗り、ふわふわと桜の花弁が手のひらに舞い込んで来た時。貴方の容態は急変した。
 あなたの苦しむ姿を目の前にした時、僕のからだは固まってしまう。何とか必死に手を伸ばして、ナースコールを押し、先生を呼ぶ。
 貴方が苦しまないように、先生は最善を尽くしてくれた。そのおかげで、命の灯りが途絶えてしまうまでの最後の1時間を、共に過ごせることができた。
 結局、最後までいつもと変わらない話しをしていたけれど、その中でお互いに通じる想いを伝え合うことができた。
 それもあってか、貴方は逝く前に僕に言葉を遺した。
 今、思い返して考えてみれば、その言葉は、僕の貴方を失うことへの寂しさや喪失感、自分たちがまた会えることを願って、の言葉だと理解出来る。
 彼女は、最後まで人の心を救うような、心優しき人間だった。
――「また会いましょう」。

11/12/2024, 12:07:11 PM

 『スリル』

 申し分がないほど、裕福な家庭に生まれ落ちたぼく。祖父は日本国内だけでなく、世界にも存在を知らしめた、大手世界企業の会長、父はその社長。祖母と母は、もとは茶道や生け花など、その道をゆく、由緒正しきお嬢様の身分である。  
 いわゆる、「貴族」の彼、彼女らには、身分の縛りから解放される、唯一の時間がある。
 それは、生死の天秤を傾けるほど、危険な行為をすること。つまりは、スリルを楽しむことだ。
 命綱はあれど、生死を決めるその綱は、自分の体重に耐えられるか分からないような、バンジージャンプ。サバンナに無防備で入り込み、野生の肉食動物に追いかけられたり。
 それぞれが、それぞれの命をかけたスリルを楽しんでいる。
そんな一族に産まれ落ちたぼくは、もちろん、その遺伝子を継ぎ、自分の命をかけたスリルを毎日楽しんでいる。
 ふと、ぼくは思った。
 これが、貴族の本当の遊びなのではないのかと。