孤都

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  『また会いましょう』

 桃色の、大きな花弁をつけた桜の木。その花弁がふわふわと散り始めたあの日、貴方は僕に一言、言葉を遺して、1人未知の世界へと旅立った――。
 少し広めの個室の病室。病室特有のしんみりとした雰囲気はなかった。そんな要素をひとつとして、感じさせられないような、桜の香りで溢れる和やかな雰囲気の部屋。そこには、白いベッドや綺麗な花が生けられていた。
 僕と貴方が出会ったのは、奇跡といってもいいくらいだ。
 病院の図書館で、たまたま、隣の席に座っていて、たまたま、読んでいた小説の作者が同じ人だっただけ。
 そんな偶然が重なって奇跡となり、僕らはお互いの病室まで通い、世間話などをする仲になった。
 この、二人だけの時間が楽しみで、寝る間も惜しんだな。
 けれど、出会いは突然に、というように、別れも突然だった。
 窓を開けて、おだやかな風に乗り、ふわふわと桜の花弁が手のひらに舞い込んで来た時。貴方の容態は急変した。
 あなたの苦しむ姿を目の前にした時、僕のからだは固まってしまう。何とか必死に手を伸ばして、ナースコールを押し、先生を呼ぶ。
 貴方が苦しまないように、先生は最善を尽くしてくれた。そのおかげで、命の灯りが途絶えてしまうまでの最後の1時間を、共に過ごせることができた。
 結局、最後までいつもと変わらない話しをしていたけれど、その中でお互いに通じる想いを伝え合うことができた。
 それもあってか、貴方は逝く前に僕に言葉を遺した。
 今、思い返して考えてみれば、その言葉は、僕の貴方を失うことへの寂しさや喪失感、自分たちがまた会えることを願って、の言葉だと理解出来る。
 彼女は、最後まで人の心を救うような、心優しき人間だった。
――「また会いましょう」。

11/13/2024, 1:17:30 PM