孤都

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 『スリル』

 申し分がないほど、裕福な家庭に生まれ落ちたぼく。祖父は日本国内だけでなく、世界にも存在を知らしめた、大手世界企業の会長、父はその社長。祖母と母は、もとは茶道や生け花など、その道をゆく、由緒正しきお嬢様の身分である。  
 いわゆる、「貴族」の彼、彼女らには、身分の縛りから解放される、唯一の時間がある。
 それは、生死の天秤を傾けるほど、危険な行為をすること。つまりは、スリルを楽しむことだ。
 命綱はあれど、生死を決めるその綱は、自分の体重に耐えられるか分からないような、バンジージャンプ。サバンナに無防備で入り込み、野生の肉食動物に追いかけられたり。
 それぞれが、それぞれの命をかけたスリルを楽しんでいる。
そんな一族に産まれ落ちたぼくは、もちろん、その遺伝子を継ぎ、自分の命をかけたスリルを毎日楽しんでいる。
 ふと、ぼくは思った。
 これが、貴族の本当の遊びなのではないのかと。

11/12/2024, 12:07:11 PM